輸入クワガタの侵略
最近、クワガタ虫に少し関心がある。
小豆島で開催されたオリーブマラソンから帰ってくる時に、蜜高選手のバッグにへばりついて一緒について来たクワガタ君を、我が家で飼い始めてからだ。
ずいぶん前から大型のカブトムシやクワガタが高値で売られているってことはニュースで知っていたが、カブトムシやクワガタに特別な興味があった訳ではないし、「なんとまあ、バカなことよ」てな具合で無視していた。もちろん、価値観ってのは人によって千差万別であり、僕らがマラソンで走っている事に対してだって、大半の人は「好きこのんでしんどい思いして走って、なんとまあ、バカなことよ」てな反応だから、クワガタを高値で買っている人を批判する気はない。お好きにして下さい、って事ですよね。
我が家のペットのクワガタ君
で、クワガタなのだが、「虫かごにでも入れて、キュウリでも与えておけばいいんだろう」ってな具合で安易に考えていたら、小学生の娘に叱られました。娘の指示に従い、ケースに土を入れて庭に落ちていた木片や葉っぱを入れました。「土なんか要るんかなあ」と半信半疑でしたが、土を入れたらすぐにコソコソと潜っていきましたから、やっぱり必需品だったようです。さらに時々、霧吹きで水分を与えなければならない。エサは「スズムシと違うんやからキュウリでは駄目」との事で、リンゴを与えたら、大喜びで四六時中リンゴにへばりついています。昼間の明るい時でもリンゴにへばりついたりしているので、娘が「夜行性のくせに食いしん坊や!」なんて言ってます。さらに、最近は怠惰になり、土の中に潜るかわりに木の葉の下で休んでいます。クワガタ君も、安楽な環境に置かれると、どんどん怠惰になっていくんですなあ。人間といっしょ。
僕が子供の時は、家には犬もいたし、猫もいたし、鳥(セキセイインコ)もいたし、魚(熱帯魚)もいたし、虫(スズムシ)もいた。別に動物家族でもなんでもなく、どこの家でも色んなものを飼っていたように思う。母方の実家ではニワトリが走り回っていたし、父方の実家ではウシやブタも飼っていた。(それって、単に、百姓なだけやんか!)
それに比べて、今の我が家は寂しい。下の子供は動物を飼いたがっていて、ハム太郎の影響でハムスターを飼いたがっている。隣の家の子はウサギを飼っているし、周りの家も犬は多い。でも、上の子供がアトピー系なので、動物を飼うのはためらわれるのだ。下の子供には「動物なんかわざわざ飼わなくても、狭い庭には野良猫がすぐ入ってきて臭い糞をするし、スズメやハトも来て糞をするし、カエルもいっぱい糞をするし、トカゲもコオロギもミミズもアリもおるし、動物をいっぱい飼ってるのと同じやんか」と言っても、当然のことながら納得はしない。仕方なく金魚や熱帯魚だけは飼っているが、それだけなので、虫ケラとはいえ、クワガタ君がやってきて、子供は喜んでいる。
ところで、クワガタを飼い始めて、クワガタに少しだけ関心を持つようになった。すると、デパートのおもちゃコーナーなどでクワガタを売っているのが目に入るようになる。飼育セットなんかがあり、ケースに入れる木屑(?)のようなものや、エサのゼリーなんかを売っている。ケースに入れるんなら土で十分だし、エサだってリンゴで十分だとおもうのだけど、大量に売っているのを見ると、買う人も多いんだろう。
で、クワガタ本体の値段を見ると、なんとなく、僕が抱いていたイメージに比べると、そんなに高くない。確か、かつては、とんでもない高値で売られていたように思う。1匹1万円とか、極端な時期は、1cmあたり1万円とか、完全にバブル価格となっていたはずだ。それが、今は、大きくて立派なクワガタが、そこそこリーゾナブルな値段で売られている。
「ふうん。最近は、そんなに高くはないんだ」なんて思いながら、よくよく見ると、なんと!これが、あなた!輸入物なのだ!それで価格が安いのだ。輸入品が安いってのは食料品でも衣類でも当たり前だから、なるほど納得はできるのだが、でも、そもそも、「えっ!?虫なんて輸入していいの?常識的に考えて、そういうのって輸入禁止じゃないの?」とびっくり。
解禁されたクワガタ輸入
調べてみると、1999年に植物防疫法の一部が改正され、50種類くらいのカブトムシとクワガタの輸入が解禁されたことが分かった。その後も輸入許可種はどんどん追加されていって、今では何百種類ものカブトムシやクワガタの輸入が認められている。どうして解禁されたんだろう。まさか、こんな分野で行政のスリム化による規制緩和じゃなかろうし。
そもそも、なんで虫の寄生を植物防疫法が担当しているのだ?理由は、この法律は、日本で作る作物や森林などを守うえで害をおよぼす菌や微生物などを持ち込ませない為に存在する法律であり、それゆえ植物防疫法となっている。つまり、昆虫そのものの生態系を守るためのものではなく、あくまでも植物を守るための法律なのだ。なんでや?これは農業や林業の保護という意味かもしれない。虫自体はどうなっても構わない、って事だろうなあ。国自身が「外来動植物により在来種の生態系が乱されるという、植物防疫法とは異なる問題点の指摘もあります。外国産の生きた昆虫を野外に放さない等の配慮も必要でしょう」って言ってるので、なんだか、えらく人ごとみたいな無責任な発言だけど、一応、問題点は認識しているらしい。しかし、農業や林業の保護なら、農林業者が訴えて法律も出来るだろうが、虫の事を訴えて法律を作らせる団体は少なそうだから、虫を守る法律は出来そうもない。しかし、だからと言って、生物学的特性に関して十分な調査も為されないまま、安易に輸入が認められていることは重大問題じゃないか。
国の基本的な方針は、「指定した種以外の生きた昆虫すべてを輸入禁止」であり、一見、大変厳しいが、逆に言えば「有用な植物を害する昆虫類等(検疫有害動物)でなければ、輸入することが可能」であり、指定されれば輸入できるわけだ。
「カブトムシやクワガタムシには植物に無害な種類もいますが、検疫有害動物であるかどうかの判断は植物防疫所で行っています」とのことだ。 輸入解禁となったクワガタは、腐植土や枯れ木などを食うために許可されたものだろうし、その木材も有用植物でなかったことが重要なポイントだったと思われる。日本の農作物や樹木に被害を与えることはないと判断されたのだ。カブトムシの中でもタイワンカブトは、ヤシの成木を食害するから禁止されている。つまり、害虫は輸入禁止だが、害虫でない種類のクワガタは輸入しても良いってことだ。なんと!
これには大きな問題が2つある。1つは害虫かどうかの判断は防疫所で行っているとのことだが、そんなに正確に見分けられるのか、ということだ。輸入していい種類と輸入禁止の種類が何十種類、何百種類もリストになっているのだが、それを正確に見分けられる人がいるのか?また「これは無害だと思った」てな言い訳で、過失にしろ悪意にしろ、勝手に持ち込む奴もどんどん出てくるだろう。全面禁止でない限り、違法輸入の歯止めは無いのだ。
もう1つの根本的な問題は、害虫でない輸入昆虫なんて存在するのか、と言うことだ。今までの日本の生態系にいなかった虫を持ち込むのだから、絶対に何らかの影響はあるはずだ。それが在来種の駆逐なのか、植物への影響なのか、病気の撒き散らしなのかは分からない。それが分かるには長期間の観察が必要だが、分かった時では既に遅い。だから、基本的に外国産の生物は輸入禁止にすべきなのだ。
輸入動植物が引き起こす問題
大型動物も、必ずしも輸入禁止ではない。て言うか、絶滅の恐れがあるような希少種でなければ、たいていは輸入可能のようだ。そのため、ペット動物などの目的で輸入されたアライグマ、ミンク、ヌートリアなどが、飼育しきれなくなったり、飼育に飽きてしまったため、どんどん捨てられ、野生化してしまい、各地で生態系に打撃を与えたり、農業被害や住民への直接被害をもたらしている。そんなに野生化して繁殖してないにしても、公園にワニが出て大騒ぎになったり、住宅地の空き地にウサギやハムスターがいたりする。でも、大型動物の場合は、そんなにむやみに大量に輸入することは少ないだろうし、また大型動物の場合は、生き延びる可能性も少ないので、繁殖する可能性はさらに少ないだろう。
しかし、植物や小型動物の場合は、外来種が繁殖する危険性は、大型動物よりもはるかに大きい。植物は既に多くの問題が顕在化しており、日本固有の植物が圧迫されたり、交配により異種が発生したりしている。頭の悪い短絡的で独善的なエコロジストが勝手に持ち込んで広めまくったケナフなどは、日本の生態系を破壊した外来植物の代表例だ。また、一部の自分勝手な釣り愛好家が全国の河川にまき散らしたブラックバスも大きな問題に発展している。自分たちの遊びのために自然環境を破壊する発想が、僕には信じられない。おまけに奴らは自分たちの事をアウトドア派だなんて称している。アホかいな、ほんまに。
そして、ケナフやブラックバスも大問題だが、虫はもっと危険が大きい。なんてったって、虫は繁殖力が旺盛なうえに、どこへでも飛んでいくから侵略のスピードが圧倒的に早い。実際に、古くはアメリカシロヒトリによる食害の問題から、最近はセイヨウオオマルハナバチの問題まで、外国産昆虫の繁殖が問題になってきた。農産物に与える被害だけでなく、日本古来の在来種の絶滅が危惧される。これは単に在来種だけの問題ではなく、例えば、農業昆虫として輸入したセイヨウオオマルハナバチが野生化して、日本のマルハナバチを駆逐してしまえば、彼らに受粉を頼っている植物も含めた日本の生態系全体が影響を受ける。
在来種への悪影響は、直接的に負けて駆逐されると言うだけでなく、輸入昆虫と在来種の交配が進んで純血国産の絶滅につながる可能性があるということだ。さらに、体内に持ち込んできた病原菌や寄生虫などの撒き散らしも危惧される。
輸入昆虫のブームが起こると、どうなるか。まずは、原産国で乱獲が行われ、それはそれで問題になるだろう。そして、次に考えられるのが、安価に量産する養殖だ。養殖だけなら問題ではないが、養殖により大量に出回るようになると価格は下がる。価格が下がると、ますますブームになればいいが、逆に価格が下がると価値が無くなったと見なされてブームが終わってしまう可能性も高い。そうなると大量に養殖された昆虫が一気に野放しされる可能性もある。かつてジャンボタニシとして輸入され、養殖されたスクミリンゴガイは、結局、思ったほど需要が伸びず、養殖業者は次々と廃業し、捨てられたスクミリンゴガイが稲作に大きな被害を与えた。日本在来種を駆逐し水田の畦に被害を与えたアメリカザリガニも、もともとは食用ガエルの餌として輸入され、養殖されていたものが、業者の事業放棄によって放たれたものだ。
大喜びの昆虫マニア
もちろん、昆虫マニアは輸入解禁を大喜びだ。「外国の大型で美しい個体を手にし飼育できることは、実に魅力的なことであり、図鑑でしか見たことのなかった生き物の実物を見ると言うのはワクワクすることだ」なんて無邪気な事を言っているが、悪影響の怖さに対する認識は無いのかなあ。「専門家しか不可能だった外産個体との比較研究もアマチュア研究家やマニアにも可能になったことで、より研究が進むことが期待できる」なんて事も言ってるけど、これって倫理的な社会問題に一切無頓着に遺伝子操作に邁進する生化学者と同じような危険思想じゃないだろうか。一般的に、生物は種が違えば交尾しても繁殖できないケースが多いのだが、クワガタの場合は亜種間交雑が比較的容易なため、マニアの中には、次から次へと掛け合わせを行なって大きさや形を楽しみ、自分で新種を作った気になって野外に放す人までいるらしい。
輸入昆虫解禁の背景には、ペット昆虫ブームの過熱があったのは間違いない。カブトムシやクワガタがブームになったため、マニアや業者は、自然に生きる大型のオオクワガタを見つけようと血眼になり、日本中で煙幕や発煙筒による燻しだしを行い、木も切り倒したりした。さらに大きな個体を作るために、捕まえたオオクワガタを他地域のものと交配させたりしたため、地域固有性が損なわれた。そして、さらに大型の外国産クワガタの輸入を求める圧力も強まっていったのだろう。マニアによれば、国産種と比較すると、輸入種の方が身体のサイズが大きいうえ、様々な色や形状の種類も豊富で、バリエーションが多く、魅力的なんだそうだ。
彼らの言い分は「植物防疫法上問題がある可能性があるというだけで、実際にはほぼ無害の昆虫であるクワガタムシが輸入を許可されないのは不当ではないか、という立場のもとに農林水産省に輸入許可を求めていた」との事だ。しかし、この「ほぼ無害」ってのがキーポイントだ。もちろん、世の中に100%安全ってものは存在しえないから、100%無害を要求するつもりはない。しかし、ほんとに「ほぼ無害」なのか?どう考えても外国産昆虫なんて「かなり有害」としか思えないけど。
それにしても、今回、クワガタ問題を取り上げるに当たって調べてみたが、昆虫マニアって、すごいのね。色々とアドバイスがある。
・初入荷の種類には食指が動くが、初物は情報不足なので、すぐ死ぬような種類かもしれないし、安くなるのを気長に待て。
やっぱり次から次へと新しい種類が入ってくるんだ。これって、怖いよなあ。しかも「そのうち価格も下がるから待った方がいい」ってのは、そのうち大量に捕獲されるようになるってことだよなあ。
・飼育は1種類につき10頭にせよ。
なんてのもある。これもびっくり。小豆島からはるばるやってきたクワガタ君1匹だけをしみじみ飼っている我が家としては、ほんとにびっくり。飼い始めると1種類だけでは絶対に満足できなくなるんだそうだ。1種類につき10匹だと、たぶん、全部で何十匹も飼ってるんだろうなあ。もしかして何百匹かも?
・クワガタに夢中になるのはいいが、いくら好きでもテンションをずっと維持するのは無理であり、たまには休日はクワガタの世話をせずに遊びたいし出かけたい。クワガタだけに時間も金もつぎ込むことはできないのである。
なんて、当たり前すぎる、というか、こんな事をわざわざ書かないといけないくらい、霧中になっちゃう人もいるんですねえ。スナックのおねいちゃんに入れあげてしまう状態かいな。(って、僕とは違いますよ)
真剣に飼い始めると、クワガタに追われる生活になるようである。お金も時間も、かなりかかるのだ。
・毎日、見なくてもいいんです。時間をおいて長く付き合うようにしましょうよ。
だなんて、ほんと、まるで人間相手のようです。
・餌は、市販の昆虫ゼリーとバナナ、リンゴや黒糖等をミックスして、栄養バランスに気を付けよう。
との事だけど、ううむ、やっぱり栄養バランスまで気を付けないといけないのかなあ。
・スイカ、キュウリ、砂糖水は、栄養価が低く水分が多いので、下痢するので、あげない。
やはり子供の言った事は正しかったのか。キュウリは良くないのね。それにしても、クワガタが下痢するなんて、おかしい。
顕在化しつつある問題
大量に輸入されるクワガタやカブトムシは、国内の販売業者を通じて大量に輸入され、ペットショップやスーパーで普通に売られるようになった。これによって過熱気味だったクワガタの価格は、バブル期では考えられない価格水準に暴落し、国産種もかなり安くなった。価格が下がった事自体は、良い事なのかどうか分からないが、輸入クワガタが広まっているのは事実だ。
実際には、輸入が解禁される以前から外国産クワガタやカブトムシは違法輸入され、昆虫ショップに出回っていたらしい。すなわち、輸入解禁は、事実上、国内に多数流通してしまっている非合法の外国産クワガタの合法化、であったらしい。とは言え、非合法で持ち込んでいた時と、堂々と合法的に輸入する場合では、数が違う。最初は少な目だった輸入許可の種類も年々増え、総数では1年間で100万匹(!)も輸入されているらしい。いやあ、びっくり。
上にも書いたが、ここまで輸入数が増えてくると、禁止種類の持ち込みだってチェックできなくなるだろう。どう考えても、防疫所の係員が100万匹ものクワガタを調べているとは思えない。珍品狙いで、輸入許可が下りていない種まで輸入販売したり、あるいは日本で輸入許可は出ているが外国で輸出が認められていない種を密輸するブローカーまで現れている。ネパールなどで大量のカブトムシを採集して持ち帰ろうとした日本人が逮捕されるという事件まで起きている。
「輸入クワガタは熱帯系の種類が多いので越冬できないから大丈夫」と言う説もあるが、熱帯産と言えども高地に生息しているクワガタは、比較的日本の温度環境に近い場所にいるため、野生化の可能性は高い。
そして、在来種との交配も進んでいるらしく、DNAを取り出して調べたところ、在来種のはずなのに塩基配列が著しく異なり系統樹に入れることができないレベルにまで変わっているクワガタが多数見つかっている。
外国産にしたって、同じ名前で売られていてもDNAは全く異なるものもあるらしい。もう、何がなんだか分からない混沌状態だ。
輸入クワガタに付いてきた寄生ダニも広がりつつあるらしい。ダニに寄生されたクワガタは足の符節がほとんど全部腐り落ち、衰弱して死亡する。ダニが蔓延すれば在来種は絶滅してしまう。なんと恐ろしい。
もちろん、虫は輸入しなくても木材や農産物の輸入品にも勝手についてくるから、いくら禁止しても入ってくる可能性は高い。日本は食糧や材木の多くを輸入に頼っており、植物防疫所の組織力でのチェック体制は極めて不十分で、色々な虫が入り放題になっている。しかし、規制してもゼロにはできないからと言って、輸入しても良いってなると、これは、ちょっと、危険すぎやせんかい?
日本の在来の虫のために法律を作って規制せよ、ってのは迫力が無いけど、昆虫マニアの楽しみと引き替えに、生態系全体に対して一体どういう悪影響があるか分からないのだから、ここは、やはり、虫の輸入は全面禁止にすべきではないだろうか。
(2004.6.8)
〜おしまい〜
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