第8回 国営讃岐まんのう公園リレーマラソン大会

〜 新人女子部員一挙4匹デビュー! 〜


今年も四電ペンギンズの初レースというか初イベントは動物リレーだ。2007年1月14日(日) 第8回 国営讃岐まんのう公園リレーマラソン大会が開催された。

(馬)「今年のレースは楽しみですねえ」
(カッパ)「いや、ほんま。新人女子部員が4匹も一挙に初出走だもんなあ」


まさに快挙だ。
一気に女子部員が4匹もデビューだなんて、一体、どうした事だろう。我が世の春を謳歌する四電ペンギンズに何が起こったんだろう。

(支部長)「まずは、私の尽力ですな」
これは認めざるを得ない。
高松支部長という強力な権限によってパワハラを駆使し、高松支店の入社1年目と2年目の右も左も分からない赤子の手をひねって強引に出場させ、その威力を見せつけた。
(支部長)「ただし、言うときますが、二人ともおじさんを手玉に取る強者ですぜ」

さらに本店の入社1年目と2年目の女子社員に出動命令を出したのは、サル1号である。
(カッパ)「おサルさん、ご苦労」
(サル1)「その代わり、あたしゃもうリタイアね」
(カッパ)「うきっ?」

なんと
新人2人を生け贄に残してサル1号は去ってしまった。サル2号は既に去年からリタイアしているので、メンバーを変えつつも長らく続いてきたサル軍団は、遂に居なくなってしまった。

(カッパ)「で、4匹の種族は?」
(馬)「まずブタです」

ブタと言えば、ピッグだ。ピッグは今年も出るか
らピッグとブタ2号の新旧2匹のブタ対決だ。
(カッパ)「う〜む。ハート形のポッケでピッグの負け」

(馬)「それからトラです」
トラと言えば、タイガーだ。高齢化に勝てず他のレースはサボっても、このレースだけは毎年欠かさず参加していたタイガーだが、去年の春から東京に行ってしまい、今年は出られなくなってしまった。なので新旧2匹のトラ対決は見られない。トラ2号はタイガーの穴を埋められるか。

(馬)「さらにライオンです」
ライオンは初登場なので、トラとの猛獣コンビが出来た。草食動物を追いつめる猛獣コンビの足に大いに期待しよう。

(馬)「最後にゾウです」
ゾウと言えばF川だ。
(カッパ)「懐かしいなあ。元祖ゾウのF川が、新居浜に異動になったのをいいことに、顔を出さなくなって2年。
      ゾウは遅かったなあ。コンスタントに女子部員に負けてたなあ。ゾウ2号の馬力は、どうなんだろう?」
(馬)「F川さんと違い、今度のゾウは期待できそうですぜ」
(カッパ)「よしっ、新人女子パワーで今年は優勝奪還だっ!」
(馬)「奪還も何も・・・。それに男子部員の参加者は聞かないんですか?」
(カッパ)「興味なしっ!」


レースの日は朝から良い天気だった。早々にピッグが迎えに来てくれたが、なぜか人間の格好のままだ。
(カッパ)「これこれ、家を出る時からが運動会じゃぞ。ちゃんと動物の格好で出てくるように」
(ピッグ)「そなな事するのは幹事長だけですって」
(カッパ)「何を言うか。新人女子部員には、全員、動物の格好で出てくるように厳命してるのに」

ま、しかし、運転させているので文句は控えよう。

(カッパ)「よしっ。新人ギャルを迎えに行こう!レッツゴー!」
(ピッグ)「ギャルは死語ですって。それに、その前に竹葉選手を迎えに行きますから」
(カッパ)「えっ?竹葉?出るの?そんな話、聞いてないぞ。申込みしてたっけ?」
(ピッグ)「後から追加申込みしたようです」
(カッパ)「でも、あいつは、第1回大会には普通の格好で出て、それ以降は、動物の格好は嫌だと言って出なくなったんだぞ。
      どうするつもりだ?」
(ピッグ)「今回はコスチュームを用意するらしいですよ」
(カッパ)「なんと、あの恥ずかしがり屋の竹葉選手がっ!一体、どういう心境の変化だ?一体、彼に何が起こったんだ?」

竹葉選手を迎えに行くと、当然のように普通の格好で出てきた。
(カッパ)「一体どういう心境の変化で動物リレーに出るの?」
(死神)「歳のせいか、最近、体調が万全でなくて、なかなか本格的なレースに出られないから、こういうのにも出ようと思って」
(カッパ)「何の格好で走るつもり?」
(竹葉)「昨日、怪獣のコスチュームを買いに行ったんだけど売ってなくて、代わりにバイキンマンにしたんですよ」
(カッパ)「怪獣よりバイキンマンの方がウケるんじゃない?」
(竹葉)「ところが、家に帰って開けてみると、バイキンマンじゃなくて死神だったんだよなあ。おかしいなあ」
(ピッグ)「分かった!それって、バイキンマンが化けた死神ですよ」

バイキンマンなら分かりやすかったけど、死神は、とても分かりにくいコスチュームだった。全身が黒で、顔らしい顔は無く、背中に小さな羽、おでこに小さなドクロマークや小さな角が付いているだけで、何者か分かりにくい。
(ピッグ)「て言うか、そもそも死神は動物なんですかねえ」
(死神)「何を言うか。それならカッパだって架空の動物だぞ」
(カッパ)「どきっ」


さて、いよいよ新人女子部員の収集だ。まずはライオン。マンションの前に定刻3分前に行ったら、まだ姿が見えない。しばらく待っていると、定刻ピッタリに恐る恐る外を覗いて確認しながらコソコソと出てきた。
(カッパ)「遅いっ!」
(ライオン)「ええっ?時間ピッタリですよ」
(カッパ)「5分前集合が社会人の基本だろう」
(ライオン)「この格好で道路に5分も立ってろと言うんですかっ!」

ま、しかし、ちゃんとライオンの姿で出てきた素直なよい子のライオンさんでした。
(ライオン)「て言うか、カッパ以外はみんな普通の格好してるじゃないですかっ!」
(カッパ)「まあまあ。それより練習した?」
(ライオン)「2日ほど栗林公園まで往復しました」

ライオンが栗林公園に走って行ったら、みんなびっくりだろうなあ。
(ライオン)「普通の格好に決まってます!」

続いてブタ2号ゾウ2号だ。ものすごく進入しにくい袋小路の突き当たりにあるマンションに苦労して到着したと言うのに、やはりまだ出てきてない。
(カッパ)「ええい、どいつもこいつも恥ずかしがりおって!」
(ライオン)「若い女性が、こんな格好で恥ずかしがらなければ、その方がおかしいですよ!」

ブタ2号とゾウも定刻ピッタリに玄関からコソコソ出てきた。
(カッパ)「確かに、ライオンさんも恥ずかしいけど、ブタとゾウは、やっぱりもっと恥ずかしいかも」
(ブタ)「えーんえーん、お嫁に行けなくなるぅ」
(ゾウ)「これくらい、へっちゃらですよ、ぱおーっ」
(カッパ)「おじさんを手玉に取るゾウと言うのは、おぬしのことじゃな」


みんな揃ったところで満濃公園に出発じゃ。と思ったら、
(ライオン)「お腹が空いたよう。ブタでも食べるか」
(ブタ2)「助けてーっ!ぶひぶひっ!」


騒がしいので、いきなりコンビニに突入。
(カッパ)「あんたら、その格好でコンビニ行くの?」
(ゾウ)「何か?」

我が物顔でコンビニ店内をうろつき歩く3匹は、おにぎりやらパンやらお菓子やら大量に買い込んでいる。
(カッパ)「君たち、朝ごはん食べてないの?」
(ブタ)「食べましたが、何か?」

ま、しかし、今日はみんなで合わせてフルマラソンと同じ距離を走る長丁場なので、それに備えての食料品の買い込みだろう。
と思ったら、
(ライオン)「じゃ、まずはおにぎりからっ」
(カッパ)「こらーっ!いきなり食べるんかいっ!」

車の中はおにぎりやお菓子のにおいが充満して、最初から遠足モードになってしまった。

と、その時、馬から電話が来る。丸亀に住んでいる馬は、同じ丸亀に住むトラを拾って既に到着しているらしい。
(馬)「もう随分、待ってますけど、まだですか?」
(カッパ)「コンビニで想定外の時間を使ったから、まだ30分はかかるな」
(馬)「遅すぎっ!」


なんとか急いで満濃公園に近づいた所で確認。
(カッパ)「事前に配布している入場券は持ってきてるな?」
(ライオン)「えっ?」
(ゾウ)「あれっ?」
(カッパ)「まさか忘れたと?」
(ライオン)「がおーっ!」
(ゾウ)「ぱおぱおーんっ!」

入場券を持ってないと、ゲートで再び入場料を払わされるのだ!
(ライオン)「動物ってことで許してくれませんかっ?」
(カッパ)「通用するかっ!おまいら、荷物になれっ!」

て事で、入場券を忘れた2人は、3列目のシートと2列目のシートの間に深く潜行させて、上から荷物を載せて誤魔化す作戦に出る。ところが、荷物になるのを拒否したライオンは、ブタの入場券を強引に奪い取り、ブタを荷物化させて、自分は堂々と座っている。
(ライオン)「肉食獣は強い!」
(ブタ)「ぶひ〜ん」

3列目の荷物は、不自然に揺れているように見えたが、ゲートの係員は気づかなかった。
(カッパ)「よしよし、うまくいったわい」
(ブタ)「ぶひぃ。息苦しかった。ゾウさん大丈夫だった?」
(ゾウ)「あたし長い鼻を出していたから」


なんとか最大の難所をクリアして、ようやくトラの待つ現場に到着。トラのコスチュームはかなり大きく、なんとなく恐そう。
(カッパ)「そのトラは、どこでお買いになったんですか?」
(トラ)「家にあったんよ。文句ある?」

そんな恐いトラが転がっている家庭って、どんな家庭だろう。
(馬)「トラさんちは、老舗の仕出屋さんですぜ」
(カッパ)「そうか。トラは調理着か」


そこへペンギン君も到着。ただしペンギン君は今年は選手登録をしていない。
(カッパ)「どうして今年は走らないの?」
(ペンギン)「ちょっと家庭の事情で・・・」
(カッパ)「でも応援に来てくれたということは、時間はあったんよね?」
(ペンギン)「時間の問題ではなくって・・・」
(カッパ)「しかも、応援だけなのにペンギンの格好までして」
(ペンギン)「だから、それには深い訳が・・・」
(カッパ)「なになに?ふむふむ、そうかそうか、そうだったんか」
(馬)「何なんですかーっ!?」
(カッパ・ペンギン)「ひ・み・つ」


さらに支部長も到着。ただし、支部長はコスチュームが決まっていない。
(支部長)「何を着ようかなあ。誰のを借りようかなあ、へっへっへ」
(ブタ)「きゃあ」
(ライオン)「いや〜ん」
(トラ)「がぶっ」
(カッパ)「そうだ。ペンギン君はペンギンを2匹持ってたよねえ。1つ支部長に貸してあげてよ」
(ペンギン)「いやいや旦那、今年はもっとええもん持ってきてまっせ。レッサーパンダですがな」


なんとペンギン君はペンギン2匹だけでなくレッサーパンダまで持っているのだ。トラに咬まれていた支部長は、ペンギン君の助けにより、今年はレッサーパンダになりました。
(カッパ)「見事なレッサーパンダですねえ」
(レッサーパンダ)「鼻がでかくて前が見えましぇん」
(ピッグ)「シッポも見事ですねえ」
(レッサーパンダ)「お尻が重いっ」

(カッパ)「これでフルメンバーが揃ったな」
(馬)「女子だけじゃなくて、みんなで集合写真撮りましょうよ!」
(カッパ)「ま、ええやん」


ふと横を見ると、今年もK報部チームが来ている。この憎き広H部チームには、去年は惜しくも負けてしまった。理由は明らかだ。敵は勝負に徹して男子部員で揃えてきているのだ。
(カッパ)「K報部にも女子部員はいっぱい、いるだろう?」
(K報部長)「私らは貴様らのような遊び半分ではないのだ」

しかし私はK報部の弱点を知っている。広H部チームの最大の弱点は体重オーバーだ。2大巨頭のT川と8木の巨体には圧倒される。特に8木くんは、先月に開催された電力業界の柔道全国大会で優勝した強者だ。しかも最重量級である90kg超級で、しかも2連覇を達成したのだ。業界では向かうところ敵なしの圧倒的な強さだ。しかし、それは柔道での話であって、その体でマラソンを走るなんて、あまりにも無謀だ。
(K報部長)「うわっはっは。我々には極秘作戦があるのだよ」
(カッパ)「まさか、8木くんには1周しか走らさないとか言うんじゃないでしょうねえ」
(K報部長)「ど、どこで、その情報を・・・」


他には、四Cが、なんと2チームも参加している。去年まで四Cに出向していた佐伯先輩もメンバーになっている。
(カッパ)「2チームも参加するなんて、そんなに盛んなんですか」
(佐伯)「土木人間は昔から走るのが好きやからね」

僕が新入社員の頃、佐伯先輩に誘われて走り始めた時も、一緒に走っていたのは土木部門の人が中心だった。見るからに早そうなチームなので、コソコソと引き上げる。

新人4匹はキャピキャピしているが、日頃あんまり走ったことのない連中に、たかだか1周2kmのコースとは言え、アップダウンもあるコースをいきなり走らすのは不安だ。
(カッパ)「よし、軽くウォーミングアップするぞ!」
(レッサーパンダ)「何を狂った事を言うとんかいな。そなな無駄な体力消費は自分の首を絞めるだけや」
(カッパ)「以前の私なら同じ事を言っただろう。しかし、私は過去の経験から学習したのだよ」

フルマラソンを走る場合は、できるだけ体力を温存しておいた方がいい。しかし、1周2kmのコースを全力で走る場合は、体力温存を図っていきなり走るより、軽くウォーミングアップした方が良いタイムが出るのだ。体力温存がどうのこうのというような距離ではない。
(レッサーパンダ)「いや、そんな事はない。できるだけ体力は温存すべきだ」
(ピッグ)「そうそう、体力を消費するのは無駄ですよ」

なんて揉めていたら、あっという間に開会式が始まってしまった。
(馬)「開会式ですよ。どうします?」
去年は我が四電ペンギンズは開会式での選手宣誓という大役を仰せつかったので、最優先で開会式に臨んだが、今年はそういう依頼もないので、開会式を無視することにする。
(カッパ)「さあ、皆の者、出かけるぞっ!」
と、勇ましくハッパをかけたけど、結局、一緒に走り始めたのは、新人女子部員4匹とウマだけだった。

ウマが先頭に立って4匹を引き連れて走り、僕が後ろからチェックする。いきなりブタ2号の足許が危うい。あまりにもヨタついている。
(カッパ)「何をやってるか!もっと大地を踏みしめるんだっ!」
(ブタ)「ぶひっ。ブタはひづめが邪魔になって走れませぬっ」

ブタは仕方ないにしても、ひづめが無いトラとライオンも力強さが感じられない。
(カッパ)「そんなんで獲物が追えるかっ!」
(トラ)「いつもお家の弁当食べてるから獲物を追ったことはないんですぅ」

それに比べてゾウは予想通り、圧倒的な力強さを見せている。元気爆発、弾丸娘!
(ゾウ)「その古くさい呼び方、なんとかなりませんか」
一方、一番不安感のあったブタ2号も、意外に体力があるようで、不安そうな足取りにもかかわらず、全然息が上がらず余裕を見せている。

一番バテているのはトラで、足がもつれそう。ライオンはトラに付き合ってヨタヨタ走っているように見せかけながら、もしかして、虎視眈々とチャンスを窺っているような目つき。
(ライオン)「ライオンでも虎視眈々って言うんですか?」

カッパとレッサーパンダの目標は、とにかく1周9分を切ること。カッパが最後に9分を切ったのは3年も前の事だ。レッサーパンダも過去、一度も9分を切れていない。
(カッパ)「最近、ちょっとペース配分にとらわれ過ぎているような気がする。これでは9分の壁は破れない。
      ウォーミングアップで体も温まってきたことだし、今日は最初からハイペースで飛ばしてみよう」
(レッサーパンダ)「いやいや、やはりペース配分を考えて、ほどほどでスタートする方がいいよ」
(カッパ)「ペース配分ったって、たかが2kmじゃ。せっかくウォーミングアップしたことだし、最初から全力疾走じゃない?」
(レッサーパンダ)「2kmって言ったら、私らには長距離だよ。リスクは大きい」
(馬)「そんな事より走る順番を決めてないですよ!」

スタートの時間が近づいてきてるのに、誰が最初に走るか決めてなかった。このレースは、なだらかな公園の丘陵地の1周2kmのコースを全部で21周してフルマラソンの42.195kmを走るというレースであり、誰が何周走っても構わないため、例年、誰がどういう順番で何周走るか揉める。
(カッパ)「中でもトップランナーは重要だ。最初から出遅れると挽回できないから、まずは早い選手に走ってもらおう。
      久しぶりの参加の死神にお願いしていいかな」
(死神)「えっ?いきなり僕?」
(カッパ)「実力ランナーの君なら大丈夫やろ?」
(死神)「う〜ん、しかし・・」

どうやら死神は、コスチュームがちょっと恥ずかしくて、まだ踏ん切りが付かないようだ
(ゾウ)「あの、私、早めに帰宅しないといけないんです」
(カッパ)「じゃ2番目ね」
(レッサーパンダ)「じゃ監督者の私がその次ね」

次々の順番が決まっていく一方で、刻々とスタート時間が近づいてきたため、仕方なく死神はスタート地点に移動。普通のレースなら、早いランナーは前の方に陣取るのだけど、いまいち恥ずかしさを捨てきれない死神は後ろの方で小さくなっている。
(馬)「あのポジションじゃ、最初は出遅れますよ」
(カッパ)「でも、あっという間に抜き返してくれるって」

ピストルの音と共に一斉に駆け出すランナー達。その中に死神は深く潜行して、ほとんど分からない。

(カッパ)「いよいよデビューじゃな」
(ゾウ)「はいっ。ようやく将軍様に長年の鍛錬の成果をお見せする事ができます!」

牙を研ぎながら出番を待つゾウ2号。しかし死神はなかなか帰ってこない。
(カッパ)「ちょっと遅くない?」
(ペンギン)「1周目は距離が長くて、一昨年僕が走った時も随分かかりましたよ」
(ピッグ)「去年なんて、僕は1周目と2周目を続けて走ったから、ものすごくかかりましたよ」
(カッパ)「それでも死神は圧倒的に早いから、ダントツで帰ってくると思ったんだけどなあ」

ようやく戻ってきた死神からタスキを奪い取ってゾウが駆け出す。どすどすどす。
一方、死神はいまいち納得できない表情
(死神)「なんだか力を出し切れないなあ」
(カッパ)「それは心の壁じゃな。恥ずかしがっているうちは全力を出す事はできぬ。
      羞恥心を捨てろ。そうすれば明るい世界が開けてくるのじゃ」

それに引き替え、ゾウは迫力ある走りで獲物をなぎ倒しながら爆走している。死神と違って、これっぽっちも恥ずかしいという気持ちは持ち合わせてないようだ。
(ゾウ)「ちょっとちょっと、そこまで書かんといて下さい。私なりに恥ずかしいんですから!」

(カッパ)「それにしても異常に早くない?」
(馬)「あり得ませんね。ほんとに初めて?」

ゾウ2号は、サル1号が何度走ってもあと1秒で破れなかった10分の壁をあっさりクリアしてしまった。
(カッパ)「こ、これは、喜んでいいのやら・・・」
(馬)「素直に喜んでくださいよ」
(カッパ)「いや、もし負けたら面目なくなるし・・・」

僕らの不安など知るよしもないゾウ2号は、走り終えると、すぐに餌を食べ始めた。
(ゾウ)「栄養補給、栄養補給」
走った直後なんて、普通は何も食べられないと思うのだけど、平気で食べている。

底知れない体力に怯え、尻に火がついたレッサーパンダは必死の形相で走り出す。ここで負けたら上司の面目まるつぶれで、明日から職場でパワハラを発揮する事が出来なくなる。もうペース配分どころじゃなく、最初っから全力疾走だ。
(馬)「あれじゃあ終盤、絶対にバテますよ」
(カッパ)「レッサーパンダは2kmだろうが20kmだろうが、距離にかかわらず絶対に終盤はバテるもんなあ」

期待通り、レッサーパンダは最後は足を引きずるように帰ってきた。
(レッサーパンダ)「ぜいぜい、死にそう。ゾウさんには勝ったかなあ」
(カッパ)「おっ、前半の頑張りがきいて、なんとかゾウさんのタイムは上回ったな」


続いて走るのはエースの馬だ。馬が早いのは分かっているが、さらに今日は気合いの入れ方が違う。動物の群れから離れてひたすらアップしている。
(ピッグ)「何やら気迫が漂ってますねえ」
(カッパ)「何やら勘違いしているような気もするけど」

たかが動物リレーなんだけど、馬は高い自己目標を掲げて猛然とダッシュしていき、そのまま最後までペースを落とすことなく帰ってきた。軽く7分台だ
(馬)「た、タイムはっ?」
(カッパ)「早い!圧倒的に早い!でも、惜しいっ!自己ベストまであと6秒だったなあ」
(馬)「ひひーん、悔しいーっ!」


(ゾウ)「あのう、そろそろ私、帰らないといけないんですけど・・・」
(カッパ)「じゃ、もう1周ね」
(ピッグ)「げげっ、僅か2人分の休憩で、また走らすの?」
(カッパ)「お前には全てを伝えた。もう何も話すことはない。やれるな?」
(ゾウ)「はいっ、将軍様!」

1周目と変わらないペースで飛び出したゾウは、最後まで力が落ちることなくハイペースのままで戻ってきた。なんと、ほとんど休んでいないのに、1周目と3秒しか違わないタイムだった。

次は当然、保護者のレッサーパンダの順番だったのだが、
(レッサーパンダ)「それじゃ私、保護者としてゾウを駅まで送って行きますから」
と言って、逃げてしまった。
(ピッグ)「どう見ても敵前逃亡ですね」
(カッパ)「じゃ代わりに、君、走ってね」
(ピッグ)「ぶひっ?」

しかしピッグは慌てることなく、例によって淡々と走り始める。あの淡々さから見れば、たいしたタイムは無理だろうと高をくくっていたが、なんと素晴らしい速さで帰ってきた
(カッパ)「うわお。9分を切ってるじゃない!」
(ピッグ)「そうっすか?」

カッパとレッサーパンダが目標とする9分をあっさり切ってしまった。う〜ん。この余裕はどこから来るんだろう。11月のフルマラソンの時も、淡々と走って素晴らしいタイムをたたき出した。その前の10月の庵治マラソンの時も、淡々と走って好タイムだ。そんなに練習はしてないはずなのに、なぜだ、なぜなんだっ?

ここで負けてはいけないと思い、ピッグからタスキを受け取ったカッパは、ペース配分も考えず、最初から全力で飛ばした。最初の500mは結構いいタイムだ。続く500mも悪くない。このままのペースで行けば自己ベストだ。ところが、やっぱり、そのままで行けるはずはなく、後半に入ると急激にブレーキがかかってきて、みるみるうちにタイムが悪くなり、結局、9分は切れなかった。
(ピッグ)「カッパさん、駄目っすねえ」
(カッパ)「ぜいぜい、ぜいぜい。やっぱり短距離は体に悪い!」


さて、ここから新人女子部員残り3匹の連射だ。まずはブタ2号だ。カッパからタスキを受け取ると、相変わらずおぼつかない足許のまま走り始めた。しかし表情は明るい。明るすぎる。
(カッパ)「なんで、あんなに明るいんだっ!走る苦しみは感じないのかっ?」
(馬)「う〜ん。全然苦しんでないようですねえ」
(ピッグ)「我々ブタ族は走るのが苦しくないんですよ」

涼しい顔のまま帰ってきたブタ2号のタイムは、予想外に良かった。
(カッパ)「て言うか、ちょっと余裕残しすぎ!」
(ブタ)「ぶひっ?そんな事ないですよ。一生懸命走ってますよお」
(カッパ)「その明るい表情のまま笑っているのが、一生懸命でない証拠じゃ!」


続くライオンさんは、もっと表情が厳しい。さすがは肉食獣だ。
(カッパ)「こんな真剣な彼女の顔を見るのは初めてだ」
(ピッグ)「いつもは、どんなんですか?」
(カッパ)「今日が初対面」

ウォーミングアップの時はスローペースだったが、やはりライオンさんは結構、早いペースで帰ってきた。ブタ2号のタイムを大幅に上回っている。

(ブタ)「うわあ、ライオンさん早い早い」
(ライオン)「ぜいぜいぜい」
(カッパ)「ブタとライオンのタイム差は、はっきり言って、どこまで真剣に走っているかの差じゃな」

余裕をかましたブタ2号と違い、全力で走ったライオンさんは、完全にヘバっている。
(ブタ)「だから私も全力で走ってるってば!」

そして最後は肉食獣コンビのトラ2号だ。トラ2号も表情が厳しい。
(カッパ)「気合い入ってるな」
(トラ)「いえいえ、ウォーミングアップで体力を使い果たしちゃって」

トラ2号は、恐れていた通り、持久力には限界があるらしく、かなり厳しそう。
(ピッグ)「て言うか、すごく走りにくそう」
トラ2号のコスチュームはかなり大きく、足にからみついて走りにくそう。
(カッパ)「肉食獣には長距離は向かないのかなあ」
なんとか帰ってきたトラ2号は、ライオンに続いてダウンしてしまった。

ここで再び死神に戻って2周目に入る。1周目が思ったより遅かった死神は、名誉挽回すべく真剣に走り出した。
(カッパ)「さすがに恥ずかしさもだいぶ薄れたかな」
2周目の死神は、さすがに軽く9分を切り、ピッグには勝ったが、まだまだ馬には大きく遅れを取っている。
(死神)「う〜ん。いまいち完全燃焼できんっ!」
とか何とか言いながら、早くも
タコ焼き食べながらビールを飲む死神であった。

次は馬だ。1周目から快記録を出してはいるが、あくまで自己ベストを
狙う馬も、真剣に走り出した。
(カッパ)「馬も、ぜーんぜん弱ってないなあ」
なんと馬は2周目も1周目と完全同タイム
(カッパ)「1秒も遅くなってない!すごい。すごすぎ!」
(馬)「かーっ、やっぱり自己ベストは無理だったか」

あくまでも自己ベストを狙う馬は、快記録にも不満そうだ。

続くピッグは、相変わらずマイペース。にこやかに微笑みながら快調に飛ばし、なんと1周目に続いて9分を切ってしまった
(カッパ)「1周目とほとんど同じタイムやなあ。分からん。一体どこに、その余裕が隠されているんだ?」
ピッグは、もう僕の手の届かない所へ行ってしまったのかなあ。
(カッパ)「よしっ、今度こそ僕も9分を切るぞ!」
と気合いを入れて2周目をスタート。しかし今回は終盤のエネルギーを残すようペース配分を考えて、序盤はセーブ。ところが、せっかく序盤をセーブした割には、終盤にはやっぱり疲れてしまい、結局、序盤のセーブ分だけ後れてしまった。
(ピッグ)「もう今日は8分台は無理ですね」
(カッパ)「ぜいぜい、がーん」


続いて1周目で余裕を残しているブタ2号だ。
(カッパ)「もっと真剣に走るように」
(ブタ)「だから真剣ですってば」

しかし、ブタ2号は相変わらずマイペース。タイムは1周目より遅かったが、涼しい顔で帰ってきた。
(カッパ)「そんなに余裕を残したら不完全燃焼で達成感が無いやろ?」
(ブタ)「いえいえ、ブタには、そんな大それた希望はありませぬ。楽しく走れれば、それで満足ですぞ」


続くライオンさんは、1周目のヘバりが心配だったが、なんとか死力を尽くして走ってきた。タイムは1周目より遅くはなったが、肉食獣の割にはスタミナがある。
(カッパ)「予想外の頑張り!大丈夫かっ?」
(ライオン)「大丈夫ですっ、船長!」

と言いつつ、ライオンはしゃがみ込んでしまった。やはり足腰が立たなくなったようだ。
(カッパ)「ほ、ほんとに大丈夫?」
(ライオン)「ら、らいひょうふれすってば、むしゃむしゃ」

なんと、
走り終えたとたん、おにぎりをほおばるライオン丸であった
(カッパ)「よく食べれるなあ」
(ライオン)「カッパさんだって、肉まんホクホク食べてるじゃない。しかも2個も!」

ふと気が付くと、優勝チームの表彰式が始まった。まだまだ我々が走っていると言うのに。
(カッパ)「なんという事じゃ。我々がまだ競技しているというのに、失礼な」
(馬)「仕方ないですよ。優勝するようなチームは、めっちゃ真剣に走ってますよ」
(カッパ)「わしらだって真剣だぞ」
(馬)「ちょっと意味が違うんじゃないですか?幹事長は何のために走ってるの?」
(カッパ)「真剣に目立つためじゃ。目立ちたいだけじゃ」
(馬)「成人式でバカ騒ぎする若者と同レベルですな。しかも目立ちたがり屋の幹事長の犠牲者が、またここに1匹」

足下を見ると、トラ2号は、まだ息も絶え絶え状態だが、容赦なく2周目を走らされる。
(ピッグ)「トラさん大丈夫かなあ」
(馬)「家業で足腰は鍛えているはずなんだけどなあ」

しかし、トラ2号はあんまり家業を手伝ってないらしく、足をひきずるようにして帰ってきた。そして走り終えたとたん、完全にヘバってしまった

(トラ)「私、来年はお弁当係にさせて」

そうこうしていると、ゾウ2号を駅まで送っていった保護者のレッサーパンダが帰ってきた
(カッパ)「みんな、もう2周は走ったぞ。残りの4周は君のために取ってある」
(レッサーパンダ)「らじゃー」

たっぷり休憩を取って体力回復のレッサーパンダは元気に走り始めた。しかし、1周を走り終えて帰ってきたら、やっぱりヘバっていた。
(レッサーパンダ)「もう無理、ぜったい無理。1周で堪忍して」
ペース配分に失敗したレッサーパンダに連続して走る余力は無かった。
(馬)「じゃ、僕、再度自己ベストにタイムアタック!」
(カッパ)「崇高なる向上心。馬に栄冠あれ!」

しかし、3周連続で7分台という驚異的な新記録を打ち立てた馬だが、自己ベストは最後も達成できなかった。
(馬)「ひひーん、悔しーっ!」

(死神)「よしっ、俺もタイムアタックだ」

なんとタコ焼き食べながらビールを飲んでいた死神が、まるで死神のように蘇り、不気味に立ち上がった。
(カッパ)「さすがは死神。あれくらいのビールなんて酒のうちには入らないのか」
と思ったけど、やはりタコ焼きとビールの分だけ重くなった死神は、タイムを落としてしまった。
(死神)「くそお、今日は最後まで欲求不満だあっ」
(カッパ)「やっぱり死神が良くなかったのでは?」


さて、いよいよアンカーだ。
(カッパ)「一番余裕が残っているのはブタ2号だと思う」
(ブタ)「ぶひっ!?そんな余裕ないですよっ」
(カッパ)「じゃ、ライオン」
(ライオン)「わたし、おにぎり食べ過ぎちゃった。カッパさん走ったら?」
(カッパ)「僕も肉まん食べ過ぎちゃった」

結局、消去法でピッグがアンカーを走ることになった
(ピッグ)「ま、別に、いいっすよ」
ブタ2号と並んで、ピッグも最後まで余裕しゃくしゃくだ。
(カッパ)「ブタ族は2匹とも余裕があるなあ」
(レッサーパンダ)「皮下脂肪の量が違うからなあ」
(ブタ)「支部長には負けますっ!」


そして最後は、もちろん全員揃ってのビクトリーランだ!
(ブタ)「えっ?最後は一緒に走ってもいいんですかっ?」
(カッパ)「今日がんばったよい子のみんなは、ご褒美としてビクトリーランを走れるのだよ」
(トラ)「ビクトリーしてなくても走っていいんですか?」
(死神)「よい子じゃないけど、走っていい?」
(ライオン)「今日、走ってない人でもいいんですか?」
(ペンギン)「それは僕に対する当てつけ?」
(レッサーパンダ)「前が見えないよう」


走り終わった後は、みんなで記念写真。
(ゾウ)「ちょっとちょっと、卒業アルバムみたいに右上に小さく載せないでよ」
(ライオン)「小さくないじゃん。むしろみんなより顔大きいよ」
(ゾウ)「てか、ほとんど顔うつってないし。やたら鼻しか目立ってないし」

楽しい一日でした
(右上は早退したゾウ2号)

(ピッグ)「今、初めて気づいたんだけど、トラさん、完全にヘバってた割には、この時は回復してますねえ」
(カッパ)「ほんとだ。あの疲れた姿は、まさか偽装?」
(馬)「こら、もう、来年もぜひ出走ですな」

走り終わったら、ちょっと遅い昼食だ。
(カッパ)「よしっ、うどんを食べに行こう!」
(ライオン)「カッパさん、肉まん2個食べてませんでしたか?」
(カッパ)「走り終わった後は、やっぱりうどんを食べなきゃ」

てことで、動物たちは小縣屋にゾロゾロと繰り出す
(ピッグ)「動物の格好してうどん屋に入るなんて恥ずかしくない?」
なんと、ピッグは素早く人間の格好に戻っている。
(カッパ)「何を言うか未熟者。わしは明石海峡大橋マラソンのとき、この格好で新幹線にも乗ったし、神戸の商店街も歩いたぞ」
(ピッグ)「本人は自分の姿が見えないからいいですけど、一緒にいるこっちが恥ずかしいですよ」
(ライオン)「慣れちゃうと平気ですよ」

カッパ同様、自分の姿が見えないライオンさんも、全く気にすることなく、ガンガン大根をおろすのであった。



(馬)「なんとか掲載が丸亀マラソンまでに間に合いましたね」
(カッパ)「ほんと、一年でこの時期が一番大変。来週は早くも丸亀マラソンだもんなあ。今年の招待選手は誰?」
(馬)「去年に引き続き福士加代子が来るらしいですよ」
(カッパ)「おっ、それじゃ2年連続の日本新記録が出るかもしれないな」
(馬)「それから弘山晴美も来ますよ」
(カッパ)「なんだかやる気がわいてきたな。よしっ、今度こそは自己ベストを狙おう!」


みなさんも応援をよろしく!


〜おしまい〜




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