画家

100文字で描くあい

モドル

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君のいる世界はこんなにも愛おしい

2008.10.21

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siro

 

白い家に住みたい。

君がいつも言っていたから。

海の近くに家を買ったよ。日当りのいい白い家を。

だから―。

 

これからいつも一緒にいれるね。

頷く君のベールを持ち上げ、誓いのキスをする。

幾千もの幸福を胸に描いて。

 

 

 

aka

 

 

妻が事故に巻き込まれた。

 

人垣を押しのけ、現場に走る!

 

ダンプカーの運転手は、道路に蹲り震えている。

 

あれじゃない。だって君の車は新車で…

だからあれは君じゃないんだ。

君は白いワンピースを着ていたはずだから!

 

 

midori

 

生活がモノクロになった。

酒の匂いが纏わりつく僕は、目につく物全てを破壊していく。

本棚を力任せに倒した時―ふいに絵具が落ちてきた。

 

昔…使っていた絵具だ。

 

力任せに踏みつぶすと勢い良く緑色が飛び出してきた!

 

 

ao

 

酒の匂いを切り裂くように、強く絵の具の匂いがする

君と僕が出会ったのは美術館で

 

君はコローの絵が好きだと言っていた。

 

青の絵の具を手に取ると

―耳に潮騒が飛び込んできた。

君が好きだった海。

 

入道雲

ひまわり

 

蝉の声

 

 

daidai

 

僕は絵筆をとった。

君と話す代わりに。

君との思い出を、一つずつ写し始めた。

 

君は愛おしそうにお腹を撫でて。

まだ見ぬ娘と話していたね。

 

ゆっくりと二人で歩いた堤防は。

大きな夕日に照らされて影が長く延びていた。

 

 

 

ki

 

君が一番好きな季節は夏。

蝉の声を色にしたらきっと黄色。と笑っていたね。

 

いつか行こうと言っていたあの山で

僕は、君と遊ぶ娘を描こう。

 

僕の名前も知らない娘。

君の名前を知らない僕。

 

透明なせせらぎに足を浸して。

 

 

 

cya

 

家の白いペンキはいつしかはげて。

茶色が覗いているけれど。

 

君の植えた柿は、やっと実をつけたけれど。

 

心を吹き抜ける風は、こんなにも冷たい。

 

君は今どうしている?

北風が窓を揺らし―

僕はコーヒーを一気に飲んだ。

 

 

 

hai

 

アスファルトに白が落ちてきた。

すぐに跡だけを残して消えたけど。

 

雪が―

 

雪が、雪が舞い降りてくる!

空は重たく閉ざされ、太陽は見えない。

 

君のいる雲のかけらが、下に落ちてきたようで

僕は空を見上げながら歩いた。

 

 

 

murasaki

 

花の香りにも似て

香が満ちていく。

 

いつしか僕の家は絵で溢れ、友人達もできた。

 

微笑みながら絵を見る彼らに、不思議と僕もよく笑うようになった。

 

「幸せだよ」

 

紫煙はゆっくりと立ち上り

君が笑っているように見えた。

 

 

kuro

 

黒いネクタイ

黒いスーツ

灰色の空

 

空に向かう煙

黒い土の下

 

僕は頭を払って、絵筆をとる。

 

君の周りを色で飾りたい。

 

だって世界はこんなにも美しい。

僕のいるここだってそうなんだ。

君のいる処はもっと美しいだろうから!

 

 

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