02 与えてみる 2006.12.10 汚れた着物を脱がせて、ぬるま湯に浸した手拭いで顔を拭ってやる。 顔は怪我をしていないらしい。 暖かな感触が気持ちいいのか、目を細めて大人しくしていたが。 小さな手を拭って、膝を拭こうとしたら突然暴れだした。 「歳!」 「もういいよ! 自分でやるから!」 精一杯に腕を突っぱねる歳三の腹に腕を回して、有無を言わせず膝の上に座らせる。 どうやら膝をすりむいているらしい。 綺麗に洗った手ぬぐいに湯をたっぷりに含ませる。 暴れる身体を押さえつけて膝に触れた瞬間――! 小さな悲鳴を上げかけて、歳三は急いで口を手で押さえた。 すりむいた膝がじくじくと痛い。 触れられるたびに、身体が飛び跳ねる。 「もういい、もういいよ!」 「ちゃんと洗わないと、傷口から悪い風が入ったら大変だろう?」 「もういいよ!」 悲鳴に近い声でそう言うと、歳三はきゅと膝を抱えて傷口を腕で隠してしまう。 力ずくでその腕をのけるのも躊躇われて、 そうだ。 為次郎は何かを思いついたように袖の中を探った。 確か女たちにもらった豆菓子があったはず。 一度弟の事を話したら、それを覚えていたらしく。 「弟さんに」 と豆菓子を懐紙につつんで土産に持たせてくれたのだ。 手探りで懐紙を取り出して、中の豆菓子をつまみ出す。 「うー!」 力を入れて傷口に触れさせまいとしている弟の頬は熱く、ぷぅと膨れていた。 「口開けろ。歳」 すっかりと怒ってしまったのか、歳三は返事をしない。 ふっくりとした唇に菓子を付けると、やっと気付いたのか目を開けて不思議そうに為次郎の手の中を見ると、それが菓子であることに気づいて口を開けた。 小さな手に懐紙を持たせて。カリカリと豆菓子を食べる音を聞きながら。歳三の気がすっかいと反れたのを見計らって、手早く薬を塗ってしまう。 「あ!」 歳三の手から菓子が二つ三つこぼれて、畳に転がった。 今更痛みに震えても後の祭りで。 あっというまに手当てを終えて着物を着替えさせると、為次郎はすっかりとへそを曲げてしまった歳三を見て笑みをこぼした。 こういう子どもっぽい所が、可愛くて仕方がないんだ。 体全体を使って、一所懸命自分は怒っているぞ、とアピールしている歳三を抱き上げてもう一度膝に据わらせる。 弟が機嫌を直すのはもうすぐ――。 胡坐の上に座って、自分にポスリともたれて。 ひっつく背中から弟の体温が伝わって、腹がじんわりと温かい。 カリカリという小気味の良い音を聞きながら前髪をクシャリと撫でてやると、歳三はくるりと身体を反転させて甘えるように抱きついてきた。
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