ラピスとラズリはラリマーに連れられて大神殿の外門に向かっていた。
「お兄ちゃん、大神殿だよ! あの大神殿だよ!」
「分かってるから、あんまり大声出さないでよ…」
「ほらほら、二人とも入口はこっちよ、しっかりついてきなさい」
「はーい」
「…本当に大丈夫なの?」
「任せなさい、私はここに何百回も来た事あるのよ」
「凄い! さすがお母さん!」
「本当かなあ…」
そんな事を言っているうちに外門に着いた、そして入ろうとすると近くにいた門番たちに呼び止められた。
「中に入りたいならその前に…ってラリマー様!? なな何で…」
「ラリマー様! お久しぶりです」
「あら、アーキルちゃんとサーフィちゃん二人とも元気そうね」
アーキルと呼ばれた男性は不機嫌そうで、サーフィと呼ばれた女性は嬉しそうだった。
「はい、ラリマー様もお元気そうで…ところで巫女を辞めさせられたと聞きましたが…
 もしかして今回はここに仕える為にいらっしゃったのでは?」
「巫女を辞めさせられた者が大神殿に仕えられる訳ないだろう」
「でもアーキル、ラリマー様は…」
「二人とも落ち着いて、今回はただこの子たちと礼拝に来ただけなんだから…」
「そうでしたか…ではどうぞ中に…」
「駄目だろ! 今は巫女でも何でもないんだから宣誓をしてからだ!」
「…すみません、信仰の宣誓をお願いできますか?」
「いいわよ、ほら、ラピスちゃんとラズリちゃんも一緒にするわよ」
そして宣誓を終わらせた。中に入れると思ったら…
「中に入る前にこちらに来てください」
サーフィに入口の近くにある小さな天幕に案内された、その中に入るとそこにはたくさんのお守りが並んでいた…
「大神殿に入るには魔力を封じるお守りを着けなきゃいけないんです、ってラリマー様なら当然知ってますよね」
サーフィはそう言いながらお守りを手にとってラピスに渡そうとしたが…
「ちょっと持って、そのお守りは子供たちには効果が強すぎるから、こっちの弱い方がいいわよ、それから私はこの一番強力なのを着けて行くわね」
「そうですね、すみません…こういう事は私が決めなければいけないのに…」
「気にしなくていいわよ。じゃあ、私たちはもう行くわね」
ラリマーはラピスとラズリを連れて去っていった…


「お母さんあの門番の人と知り合いなの?」
「ええ、あの二人がラズリちゃんと同じ位だった頃から知ってるわよ」
「そうなんだ…」
ラリマーのその話を聞いてラズリは、ラピスにこそこそとラリマーに聞こえないように話し始めた。
「ねえ、お兄ちゃん、お母さんって本当は凄いのかな?」
「そういえば、さっきの二人の様子もおかしかったし、このお守りを選ぶ時もなんか慣れてたし…」
「それにお母さんがつけてるお守りって一番強いのって言ってたよね…?」
「二人で何のお話をしてるのかしら?」
「な、何でもないよ」
「大神殿に入るわよ、迷子にならないようについてきなさい」
ラリマー達が門をくぐると正面にドーム状の大きな建物が見えた。
「あの丸くて大きいのがもしかして…」
「そう、あれが大神殿よ」
「あれが女神信仰の総本」
「早く行こうよ!」
「その前にあそこの噴水で手足を清めてから…あら? そこいるのバリーゥちゃんとラティーフちゃんじゃない! 二人とも元気そうね」
ラリマーが噴水の近くにいた二人の神官に駆け寄ると、片方の神官に思いっきり抱きついた。
「ラリマー様!? どうしてここに…」
「久しぶりですね、今日はどうしたんですか? あ、もしかして寂しくなって遊びに来たとか…」
「バリーゥ…いくら辞めさせられたとはいえ数百年間巫女を務められたラリマー様に対して馴れ馴れしいぞ」
「気にしなくていいわよ、私とバリーゥちゃんの中なんだから、ねー」
「ねー」
「…はぁ…」
このやり取りを見ていたラズリとラピスは呆然としている…
「なんで、お母さんは神官の人とあんなに仲がよさそうなんだろ…」
「しかも巫女だったって…」
「もしかして、今のお母さんは仮の姿で実は凄く偉い人なんじゃ…」
ラピスとラズリがまたこそこそと話していると突然横から誰かに話しかけられた。
「ラピスとラズリではないか、礼拝に来たのか?」
ラピスとラズリがその方を見るとそこにいたのはハーティムだった。
「あ、ハーティムさん」
「うん、今日はお母さんと一緒に来たの」
「母御と一緒に?」
「ほら、あそこで神官の人と仲良くしてるのがお母さんだよ」
「そうか…」
ハーティムはラリマーにつかつかと近寄ると怖い顔でこう言った。
「汝がラリマーか、少し話があるのだが…良いか?」
「えーと…何のお話かしら?」
「この子供たちの事で色々と聞いておきたい事がある」
この時ラリマーの表情が一瞬引きつったように見えた…
「…そういうお話なら、お断りしたいんだけど…ほらそう言お話は人には聞かれたくないし…」
「ならば、向こうで話そう」
「あら? ちょっと待って…分かったから引っ張らないで…」
ラリマーはハーティムに引きずられて何処かに連れて行かれた。
「ラリマー様…」
「あの方は昔から変わらないな…」
残された神官は呆れたようなどこか懐かしそうな様子で見送った
「ねえ、お兄さん、あの人の事昔から知ってるの?」
「え? まあ、それなりに知ってると思うけど…」
「どんな人なの?」
「ちょっと、お兄ちゃん…」
「ラズリは黙ってて」
ラズリはラピスが真剣そうだったので黙るしかなかった…
「そうだなあ…ラリマー様は本当は白砂の港にある神殿で神子として仕えていたんだけど
 歌が上手だから大神殿に呼んで女神様に歌をささげてもらってたんだよ」
「それって凄い事だよね」
「うん、そうだね。だけどラリマー様はああいう人だからしょっちゅう仕事を抜け出して遊びに行っていたんだ。
 ほら、そこにいるバリーゥっていうお姉さんもよく一緒に遊びに行ってた神官の一人なんだよ」
「ちょっと、適当な事言わないでよ!」
「ラリマー様と一緒に大神殿を抜け出して一緒に叱られたことがあるだろ」
「う…確かにそんな事もあったけど…」
「まあ、それでよく偉い人にあんな風に引っ張っていかれて叱られてたんだけどね。
それで結構煙たがられる事が多かったんだけど、あの人格のおかげなのか心から嫌っている人はあまりいないみたいだね」
「でも、よく叱られてたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけどね…ところで、ラリマー様は君たちのお母さんかい?」
「えっと…それは…」
「そんな訳ないか…もしそうなら巫女の修行をさせられてるはずだし…」
「修行?」
「いや、君たちには関係のない事だよ。それより礼拝に来たんでしょ?
 この噴水で手と足を清めたら入れるからね」
「「はーい」」
ラピスとラズリは手足を清めると神官たちと別れて神殿に入っていった。
「うわぁ〜やっぱり大きいね」
「うん…」
「お兄ちゃん? どうしたの? さっきの話が気になるの?」
「そんな訳ないでしょ、ほら早く礼拝を始めよう」
「うん…」
ラピスとラズリは何かが気になっているようだったが、礼拝を始めた…



その頃ラリマーは…
「あの二人は汝の子供たちであろう? それを九年間もほったらかしにするとは…どういうことだ!」
「あのね、それにはいろいろ事情があって…」
「どのような事情があるのかは知らぬが、もう少し子供たちの事を考えてやるべきだ! そもそも母親なら…」
「ううう…ハーティムちゃんの意地悪…」
ハーティムに正座させられ長々と説教されていた…




あとがき
大神殿に行ってみました。ほんの少しですがラリマーの過去を出してみました。
ハーティムさん(千景さん)お借りしました。


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