ここは火の泉のとある大きな通り、人通りが多そうな道だが、盗賊の一団のせいか人はほとんどいなかった。

そんな道でどういう訳かラピスとナサニエルが何かを探しているのか右往左往していた…

そんな二人を見てられなかったのか誰かがラピスに声をかけた。

「あれ? ラピス、こんな所で何やってるんだ?」

ラピスに声をかけてきたのはガドゥだった…

「あ、ガドゥさん…実は…ラズリとリズクが二人だけでこの町のどこかに護衛もつけずに歌いに行っちゃったみたいなんです…」

ラピスは事情を説明した。

それによるとどうやらラズリはリズクと二人だけでこの町のどこかに歌いに行ってしまったらしい。

ラピスは盗賊の事もあるし護衛を連れて行くように言ったらしいのだが、

二人だけでどこかに向かっている所を見かけたとナサニエルから聞いて探しているらしい。

「この町は最近物騒だって聞いてるし…もしかしたら人攫いに捕まって売り飛ばされてるかも…」

ラピスは物事を悪い方にしか考えられないのか、最悪の展開を予想して真っ青だ…

「とりあえず落ち着け! 俺も一緒に探してやるから冷静になれ! どっちの方に行ったとか分からないのか?」

「えっと…あっちの方に歩いて行ったと思うんだけど」

ナサニエルは少しうろたえながらも町の中央の方を指差した。

「じゃあ、俺達も行ってみるか」

「はい、ほらラピスもいつまでも頭抱えてないで行くよ」

三人は並んで歩きだした。

「ところで、ラズリってラピスの妹だよな? リズクと仲いいのか?」

ガドゥはラピスの不安を和らげるためか、ラピスに話しかけた

「どうなんでしょうか…どちらかというとラズリが一方的に振り回しているというか…

 特にリズクが楽士になってから連れ出す頻度が増えたみたいですが…」

「まあ、リズクも振りまわされやすそうな所あるし…ってあいつ楽士になったのか?」

「え? はい」

「そっか、あいつも頑張ってるんだな…」

「あの、リズクと知り合いなんですか?」

「お互いに見習いだった頃からかな…頑張ったんな…」

「ええ…本当に…ちょっと前まで弟みたいに思ってたんですけど…

この前並んで見たら…身長抜かれてました…少し前までぼくの方が高かったのに…」

ラピスは分かりやすすぎる位落ち込んだ…

「…まあ、ラピスだってそのうち伸びると思う…多分」

「そうでしょうか…」

「そうだって! あ、そういえばもうすぐ弟か妹が出来るらしいな、おめでとう!」

「ぼくもお母さんから聞いたよ、おめでとう!」

ガドゥはラピスがあまりに落ち込んで手に負えないと判断したのか話題を変えた。

「…ありがとうございます」

「…あれ? 確か前に会った時に家族は妹だけって言ってなかったか?」

「それはその…ガドゥさんが海に…じゃなくて隊商を離れてすぐに再会したんです」

「え! そうだったのか。よかったな」

「そうでもないです、十年以上もほったらかして今更…」

「でも、何か理由があったんじゃないのか?」

「その理由ですが、父さんは出稼ぎの為に地下道を行き来する隊商の護衛をしていたそうです。

 その道中に事故で地下水路に落ちて流されて十年位意識を失っていたそうです…」

「それって、もしかして俺やリズクが前に流された…あの…」

「はい、あの地下道です。その後父さんは目を覚ましてすぐに住んでいた家に帰ったらしいのですが

 その頃には、ぼくとラズリは隊商に入って出発した後で聞きこみとかして何とか追いついて合流出来たと言っていました」

「そういう理由なら仕方ないだろ」

「それはそうなんですが…えっと母さんの方は巫女の大事な役目に巻き込みたくないからそばにいられなくなったといってましたが…」

「そ、それじゃ仕方ないだろ、今は一緒にいるんだから…」

「今一緒にいられるのは、巫女の役目をさぼり過ぎて追い出されたからだそうです…

 今も時々マリ姐さんに怒られています…もう情けなくて仕方ないです…」

ラピスはますます落ちこんでしまった。

「え…えーと、それはちょっと分かるかな、ほら俺の師匠もあんなのだし」

「ガドゥさんの師匠って確か…ああ、なるほど…」

ラピスはガドゥの師匠のアルファルドを思い出しすんなり納得した。

「大人にはちゃんとしていてほしいよな」

「全くです」

「二人とも大変だね…」

疲れ切ったかのような溜息をつく二人にナサニエルが困惑していると、どこからか歌が聞こえてきた…

「この歌は…」

ラピスはハッとしてその歌の聞こえてきたほうに行ってみると、そこにはラズリとリズクがいた。

ラズリは道端でリズクに演奏して貰いながら歌っていたが、それを聴いている者はいなかった…

「ラズリ!!」

「お兄ちゃん!? 急に大声出してどうしたの?」

「『どうしたの』じゃないでしょ! なんで二人だけで歌ってたの!?

 この町は最近強盗が出るってマリ姐さんが言ってたでしょ! 危ないんだよ!

 なんで護衛の人を連れてこなかったの!? 一体何考えてるの!?」

ラピスは凄い剣幕でラズリに詰め寄った。するとラズリはポロポロと泣きだした

「…だって…マリ姐が…この町の雰囲気が悪くなったって…言ってたでしょ? それで…わたしが歌って少しでも…よくなればと思って…」

「…だからって危ないことには変わりないでしょ! ぼくたちが見つける前に盗賊に襲われたらどうするつもりだったの?

なんでいつもいつも自分の事ばかり考えているようで他人の事ばかり考えるの!少しは自分の身を守る事を考えてよ!」

ラピスは涙をこぼしながらラズリを揺さぶりながら説教している…

「二人とも落ち着いて…」

「ナーザは黙ってて!」

ナサニエルはラピスに怒鳴られて黙ってしまった。その時…

「お前らいいかげんにしろ!」

ガドゥがラピスとラズリの間に入った。

「ラピスの言う事も正しいけど言い過ぎだ。俺が護衛してやるから歌わせてやったらどうだ?」

「ガドゥさんがそう言ってくれるなら…」

「ラズリもこれに懲りてこれからは兄貴の言う事をちゃんと聞けよ」

「うん、わかった…」

ラピスとラズリは大人しくなってしまった…かと思ったら…

「よーし、じゃあ思いっきり歌うよ! リズくんとついでにお兄ちゃんも準備して」

ラズリは急に元気になりまた歌う準備を始めた。

「絶対懲りてないよ…それになんでぼくまで…」

「相変わらずラピスも大変だね」

ナサニエルはラピスの肩を軽くたたいた。

「あ、あのガドゥさん…」

リズクがゆっくりとガドゥに近づいた。

「リズク、楽士になったんだろおめでとう!」

ガドゥはリズクの頭を思いっきり撫でた。

「二人とも何やってんの、早く歌うよ」

「あ、はい」

「はいはい…わかったよ」

そして火の泉にラズリたちの歌が響き渡った。



あとがき

ラピスは家族の悩み事が多すぎてどうすればいいか私にもわかりません…

ガドゥさん(シマムラさん)、ナサニエルさん(yuranさん)、リズクさん(一磋さん)お借りしました。


戻る