「〜♪〜〜♪〜♪」
ある日、ラピスは一人で空を眺めながら歌っていた。
彼は時間が空くとよくこうしていた。
最近、ラズリの世話をしたり、歌の練習に付き合ったり、悪戯された人に一緒に謝ったり…、
妹のせいでずっと急がしかったので、今日みたいにのんびりできるのは久々だった。

「〜♪〜♪〜〜♪」
「ねえ、キミ隊商の子でしょ、こんな所で何やってたの?」
急に後から声を掛けられて驚いたラピスが振り向くと、そこに蝶の髪飾りが印象的な女の子がいた。
「キミは確か…詩人の…」
女の子は何かを思い出そうと指を額に当てて考え始めた…そして…
「ラズリだね!」
「違う! ぼくはラズリの兄のラピスだよ」
「え〜、でもどう見ても女の子にしか見えないよ?」
そう言って笑う女の子にラピスは腹が立っていた。
「君がそう見えなくても、ぼくはれっきとした男の子だよ! そっちこそ誰なの? 隊商の人?」
「そうだよ、ボクは奇術師のコランサイファだよ。よろしくね」
「奇術師って…何か芸が出来るの?」
「もちろん、できるよ。そうだちょっとだけこれを持ってて」
コランサイファは円が何重にも描かれた木の板をラピスに渡して少し離れた。
「それを頭の上に掲げてみて!」
「こう?」
ラピスが疑問に思いながらも言われたとおりにしてみると…
コランサイファはナイフを取り出して構えた。
「ちょっと待って、何してるの?」
「動かないで」
「え?」
コランサイファは板に向かってナイフを投げた!
ナイフはラピスが掲げた木の板の中心に刺さり、ラピスは驚いて後ろに転んだ。
「な、なにが…」
「どう? これがボクの芸だよ」
コランサイファは笑いながら自慢したそうな口調で言った
「そういう事は口でいえば分かるよ!」
「だって、見せた方が早いと思ったんだもん」
ラピスの訴えにコランサイファは口を尖らせた。
「それに、口で『ナイフを投げるんだよ』って言ってもそんなに驚かなかったでしょ?」
「まあ、そうだけど…」
「それに、ボクの芸をこんな間近に見られるなんて滅多にできない経験だよ」
「それは違うと思うよ」
「え〜、どう違うの?」
「ぼくに当たったらどうするの!? 危ないよ!」
「当たらなかったからいいじゃん。そんなことよりボクが芸を見せたんだから、何か歌ってよ」
「なんで?」
「奇術師が芸を見せたんだから、お返しに詩人が歌を聴かせるのは自然の流れじゃん」
「…分かったよ」
ラピスは何か諦めた様子で承諾した。
「やったー、それじゃあ、さっきまで歌ってた曲が聴きたいな」
コランサイファの要望に応えるかのようにラピスは歌い始めた。
「〜〜♪〜〜♪〜♪」

「〜♪〜♪〜〜〜♪」
「凄いよ、男の子の声とは思えない位きれいな声だったよ」
数分後ラピスは歌い終ったとたん、コランサイファはラピスの手をとって感想を言った。
「…褒めてるの?」
ラピスにとってその感想は微妙だった…
「ねえ、そういえばどうして一人で歌ってたの?」
「…空を眺めながら歌うのが好きだから…」
「空を?」
「うん、雲が流れて行く様子や、空の色が少しずつ変わっていくのを眺めているの」
「う〜ん…ボクが剣やナイフを見るのとおなじようなものなの?」
「…多分、そうだと思うよ」
「ふ〜ん…そうだ、ボク用事があったんだった。じゃ、また歌を聴かせてね」
「うん、いいよ」
手を振って立ち去るコランサイファにラピスはそっと手を振り返した。




あとがき
ラピスの話でした。
ラピスはラズリの面倒や歌の練習が忙しくて、なかなかゆっくりできません…
コランサイファさん(秋野 綾さん)お借りしました。
ラピスが空を眺めるのとコランサイファさんが刀剣類を見るのは微妙に違うような気がします…


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