ラピス達はラズリの情報を求めて黒ヒゲの町に来ていた。

のどかな町でどこからかヤギの鳴き声が聞こえてくる。

当時ラピスは参加していなかったが、かつてマリーヘ隊もここを訪れたらしい。

「アクア、見て! ヤギだよ」

「落ち着けよ、ヤギぐらい…って黒い! なんかすげぇ!」

アクアとマリンは黒ヤギが珍しいのか柵の側から離れようとしない。

ラピスはそんな二人よりも気になる事があるのか、何か書かれた紙を見ていた…

「二人とも落ち着いてください。ラピス様どうかしましたか?」

「え? えっとこの町に知り合いがいるからちょっと挨拶…」

ラピスの言葉を遮るようにして誰かが話しかけてきた。

「黒ヤギに興味あるのか?」

「ええ、この子達も黒ヤギを見るのは初めてで…ってヤズィードさん!?」

話しかけてきたのはかつてラピスと同じマリーヘ隊にいたヤズィードだった。

「ん? そういうあんたはもしかして…」

ヤズィードはラピスの顔をじっと見つめている…

「あの…僕の顔に何か…」

「…ラピスか随分でかくなったな、一瞬誰だか分からなかったぞ」

(この人ラピス様かラズリ様かで迷ってたんだろうな…)

とバリーゥは思ったが、『でかくなった』と言われて嬉しそうなラピスには言えなかった。

「せっかくだからうちに来るか? ミーナもきっと喜ぶだろうし」

「ありがとうございます。僕も用があってこれから伺おうと思ってたところでした」



ラピス達はヤズィードの家に案内された。

「ただいま、ミーナ」

「ヤズィーお帰りなさい。あらお客様も一緒なの…もしかしてあなたは」

家に入るとヤズィードの奥さんのアミナが出迎えてくれたが、アミナもまたラピスの顔をじっと見つめて…

「えっと、やっぱり僕の顔に何か…」

「ラピス君ね、懐かしいわね、もう何年ぶりかしら」

(こっちもか)

「はい、お久しぶりです。それで…」

「じゃあこっちの二人はアクア君とマリンちゃんね、二人とも可愛いわね」

アミナはアクアとマリンの頭を撫でた。

「あの…その…」

「可愛いとか言うな、おれは男だぞ! 兄貴じゃあるまいし…っていうか頭撫でるな!」

「やっぱり兄弟ね、ラピス君も昔同じような事を言っていたわ」

アクアは顔を真っ赤にして黙ってしまった…

「そういう所もそっくりね」

「う、うるせえ!」

アクアの声は虚しく響いた…





その後、ラピスは部屋に案内され、お茶を出してもらってしばらく雑談をした。

(話の流れでラピスが失恋した事を告白させられたりもしたが省略する)

「それは置いておいて…実はお二人に聞きたい事があるのですが」

「そういえば用があるって言っていたな」

「はい、実は…」

ラピスは、ラズリと連絡がとれなくなった事やラズリを捜して旅をしている事を説明した。

「ラズリはアミナさんとも手紙のやりとりをしていたと聞いています。
 何か知っている事があったら教えてもらえませんか?」

「…確かにラズリちゃんから手紙がよく届くけど…」

アミナとヤズィードはなぜか悩み始めてしまった…

「あの…もしかして何かよくない事が書いてあったんじゃ」

「もったいぶってないでさっさと言えよ!」

「二人とも落ち着いて、ヤズィードさんも困ってるよ」

ラピスがアクアとマリンをなだめていると…

入り口の方から誰かの話し声が聞こえてきた。

「あら、またお客様かしら」

アミナが出て行って戻ってくると見覚えのある人物がぞろぞろとついてきた。

「なんと! ラピスか、わしの事覚えとるか?」

「本当にラピス君だ! じゃあこっちの子達はアクア君とマリンちゃん?」

「こいつらがあの時の赤ん坊? すげーでかくなったな」

「あれから何年もたっているのだから大きくなっているのは当然じゃない」

「え、えっと…その…あの…」

「なんなんだよ! すり寄ってくんな!」

「ラピス様こちらの方々は知り合いなんですか?」

真っ先にザビエラがラピスに駆け寄り、続いてルセアとアイスとヘリヤが双子に話しかけて、

後ろの方でカマルがめんどくさそうに頭を抱えていた。

とにかく、大勢の人物による予期せぬ再会に家の中は一時騒然となった





数分後…ようやく騒ぎが収まり

「…とりあえず言いたい事は色々あるだろうが、まずはラピス達の事情から聞かせてもらおうか?」

と騒ぎを収めるために鉄拳もふるったカマルが仕切りだした。

ラピスは再び説明をした。

「そっちもめんどくさい事になってるな、こっちも…」

「待て、ここからはわしが説明させてくれんかのう」

「…めんどくさいし別に構わない」

ザビエラは真剣な表情で話し始めた。

「実はわしらもラピス達と同じでラズリンとヤシュムを探しておる。
 ラズリンがヤシュムと供に隊商を抜けてから、
 しばらくの間はシッカがヤシュムと連絡を取り合っておったがある日突然途絶えてしまったんじゃ
 何かあったと思ったシッカとわしで様々なじゅじゅちゅ(呪術)や占いを試した結果
 今日この町のアミナの所に行くべきという結果になったんじゃ。
 それでわしは子分仲間のアイスとヘリヤと供に出発しようとしたんじゃが
 ほっといたら面倒な事になるとカマルがついてきて…
 なぜかは分からぬがルセアまでついてくる事になったというわけじゃ」

「いろいろ聞きたい事があるんだけど一つずつ聞いてもいい?」

「うむ」

「まず、ラズリが隊商を抜けたってどういう事?」

「ラズリンが千夜の宴の金銀音合戦に参加するためじゃ、隊商は違う方面に進む予定じゃったからな…」

「ラズリならやりかねないな…じゃあ、叔母さんがシッカさんと連絡を取り合っていたってどういう事?」

「なんじゃ、ラピスは知らなかったのか、シッカはじゅじゅちゅし(呪術師)全員と連絡が取れるんじゃ」

ラピスは無表情でどこか近づきがたい雰囲気の呪術師を思い出し納得した。

「あの人ならできそう…ところでアイスとヘリヤってラズリの子分じゃなかったような気がするんだけど、いつ子分になったの?」

ラピスはアイスとヘリヤの方を見てみると、二人とも困っていた…

「おれも子分になった覚えはないんだけど、ついてきたのも護衛の為だと思ってたし…
 モリオンさんに頼まれてラズリの事気にかけてたから勘違いされたのかも…」

「何言っとるんじゃ! おぬしは女神の花輪で幻の花を一緒に探したときからラズリンの子分じゃ! 
 そしてヘリヤはラズリンが『直々に何度も歌を聴かせてあげた時』だと言っておったぞ」

「え、あの時から!?」

「気付かなかったわね…」

どうやら二人とも知らないうちに子分にされていたらしい…

「わたしはアミナさんに会ってみたくてついてきただけなんだけど…
 でも、あの子がいないと退屈になってしまうから少しは気にはなるけど…」

「あ。私もそのつもりでついてきたの」

ルセアが急に声を出したのでヘリヤの言葉は途中でかき消されてしまった…

「え!? あたしに?」

ヘリヤとルセアの告白にアミナは驚きの声を上げた。

「アミナさんは脱退した後でも料理人の間で話題に上がるくらいすごい料理人だから会ってみたかったの
 アミナさんにあやかれば私も普通って言われなくなるかもしれないし…」

「あたしはそんな大した料理人じゃないわよ」

アミナは否定しつつもまんざらではなさそうだった…

「ミーナは最高の料理人だと思う」

「ヤズィーまでそんな事言っちゃって…」

「ラブラブですね−」

「ん? おぬしは誰じゃ? ラピスの知り合いのようじゃが…」

からかうバリーゥに対しザビエラが少し失礼な質問をすると…

「…申し遅れました、私はバリーゥというラリマー様にお仕えしている神官です。
 そして私はラリマー様の命を受けてラピス様達に同行しているのです。
 なぜ私がそんな重要な役目を任されたかというと、それは私がラリマー様に最も信頼されているからです」

なぜかノリノリで聞かれていない事まで語り出した。

「ですが、私はもっとラリマー様にお近づきになりたい。
 そのために今回の件でラズリ様を助けてラリマー様に褒めてもらって、
 あの黒い呪術師をラリマー様の妹の座から引きずり落としてやります。
 全てはラリマー様のためです。ラリマー様のためなら私は何でもします。
 …というわけで、ラズリ様について何か知っている事があれば教えてください」

バリーゥは軽い狂気を纏わせてヤズィードとアミナに迫った。

「…実は、ラズリちゃんからの手紙に気になる事が書いてあったの
 『お兄ちゃんには内緒にして』って書いてあったけどそんな事言ってる場合じゃないみたいだし…」

アミナは棚から箱を持ってきて中に入っている手紙をラピスに見せた。

「この手紙には連絡用ルフが宿っている首飾りが壊れたって書いてあって、
 修理の為に白輝の都にいる召喚士に会いに行くって…」

「ねえ、アクア。あの首飾りってたしか兄様と姉様の師匠からいただいた大切な物だって…」

「…もしかして壊してしまったって言えなくて連絡できなかっただけじゃ…」

ラピスは手紙を握りつぶしてしまいそうになる手を抑えながらアミナに返した。

「…とりあえず連絡がつかなくなった理由と目的地が分かったので白輝の都に向かいます」

「…そう、えっと、手紙で読んだ感じじゃわざとじゃないみたいだからあまり叱らないであげてね」

「…はい、それは分かっているつもりです」

「よし、話はこれでまとまったな。もうこんな時間だしうちで夕食でも食べていかないか?」

「いいわね、皆に料理を振る舞うの久しぶりだから腕が鳴るわね」

「手伝います、料理の事とか色々教えてください!」

「私も手伝うわ」

ヤズィードの提案に賛同したアミナは楽しそうに台所に向かい、ルセアとヘリヤが後に続いた。

「…私は外で鍛錬してくる、アイスつきあってくれ」

「え、いや、いいけど、カマルの鍛錬ってちょっときついんだよな−」

ぶつくさ言いながらもアイスはカマルと外に出て行った…

「あ、あのザビエラ様…」

マリンがオドオドした様子でザビエラに話しかけた。

「ん、わしか、なんじゃ?」

「えっと…わたし、姉様からザビエラ様の事色々聞いてて…あの憧れてたというか…」

「ラズリンがか? わしの事なんといっとった?」

「えっと…姉様が道に迷ったときに道を指し示してきた凄腕呪術師だと聞いてます…」

「おれも聞いた事ある大勢いる子分の中でも最も頼りになる参謀みたいなやつなんだろ」

アクアも加わりザビエラを伝説の勇者と言わんばかりに褒めまくった…

「あの…ザビエラ…これは…多分ラズリがある事ない事言ったせいだと…」

「知らんかった…まさかラズリンがわしの事をそこまで思ってくれとったなんて…
 もしもわしも一緒について行っておればこんなことにはならなかったかもしれん…」

「ちょっと待ってザビエラ何言ってるの?」

ザビエラの言葉にラピスが疑問の声を上げると、ザビエラは勢いよく立ち上がった。

「じゃが、わしが来たからもう安心じゃ! 一緒にラズリンを助けるぞ!」

「さすが姉貴の右腕すげー格好いいな」

「た、頼りになります」

ラピスはよく分からない方向に暴走している三人を止める事ができずに困り果ててしまった。



あとがき。

頼りになる?新たな仲間達が加わりました

ヤズィードさん(菅季人さん)、アミナさん(nasatoさん)、ザビエラさんとアイスさん(藤乃蓮花さん)、

ヘリヤ・ジアーさん(戸成さん)、ルセアさんとカマルさん(鶫さん)、シッカさん(ずらさん)お借りしました。


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