ここは遺跡の町、幻都の骨の市場
大勢の観光客が訪れていて活気が満ちている。

そんな中ラズリは市場の片隅で歌っていた…
ラズリは観光客からお金を少しずつ投げてもらってそのお金で生活している。

「ああもう、いらいらする! どうして人が集まらないの!?」
実は最近になって急に聴いてくれる観光客が一気に減ってしまったのだ。
それは、ラズリにとって死活問題であると同時にプライドを傷つけられるという事。
そんな訳でかなりイライラしていた…
「もういいや、今日はここまでにしよう」
こんな状態ではまともに歌えないと判断し、帰ることにした。

帰り道、ラズリは市場の近くにある舞台に人が集まっているのを見つけたので興味本位で覗いてみた。
舞台の上ではピンクの長い髪の詩人の女性が歌っていた。
ラズリは観光客が一気に離れて行った理由が分かった。
こんな近くでこんな舞台があったんじゃどんなに歌っても誰も聴いてくれないはずだと…
近くにいる観客が話しているのを盗み聞くと舞台に立っているのは最近来た、隊商の人で、
時々、そこに入っている芸人が歌ったり、踊ったり、曲を奏でたりもしているらしい。
(隊商か…きっと、わたしなんかより上手な人がいっぱいいるんだろうな…)
そんな事を考えながら、再び舞台に目をやると、歌い終わった女性が舞台から下りようとして
派手に転んでいた…
(なんか…わたしでもやっていけるような気がしてきた…)
周りの人たちが笑っている中ラズリはそう確信した。
そして、恋人らしき黒っぽい男性に起されている女性を尻目にラズリは家に急いだ。

「わたし、隊商に入る!」
「帰って来るなり何を言ってるの?」
ラズリの帰宅していきなりの発言につっこみを入れたのはラズリの兄のラピス
この家はこの兄妹の二人で暮らしている。家といっても小屋という方が近いけど…
「あのね、今この街に隊商が来ていてね、それに入れてもらおうって…」
「なんで、入れてもらうの?」
「だって、詩人として一流になるには、やっぱりいろんな所を見て回って経験を積む必要があると思うの」
ラズリはラピスの問いに目を輝かせながら答えた。
「それで、隊商に入るっていうの?」
「うん」
ラズリの話を聞いてラピスは何か考え始めた…

そして、数分後ラピスは口を開いた。
「分かった、今日はもう遅いから明日話の続きをしよう」
「ええ〜、明日じゃなきゃダメ?」
「うん、ダメ。ほらもうご飯出来てるよ」
話を強引に切り上げて、食事の準備を始めるラピスにラズリは声をかけられなかった…
そして、食事が終わり、食器を片づけて、夜寝るまで隊商の話は出なかった…

次の日、ラズリが目を覚ますとラピスの姿がなかった…
よく見るとラピスの書置きが残されていて、
『ラズリへ 出かけてくるすぐ帰るからそれまで待ってて』
とだけ書かれていた。
「出かけてくるって何!! わたしの話なんてどうでもいいて言うの!! もういい、勝手に隊商に入ってやる!!!」
ラズリは怒鳴りながら書置きをビリビリに破って、家を後にした。

「…という訳で、入れてほしいの」
「入れてほしいのって言われてもねぇ…」
隊商世話役のマリーヘは急にやってきてまだ小さい上に家族に黙ってここに来た女の子の扱いに困っていた…
「なんで、入れないの?」
「入れないわけじゃないの、お家の人に相談してからじゃないと…」
「だから…」(ボフッ)
何か言いかけたラズリが突然後ろから袋のようなもので殴られた。
ラズリが振り向くとそこに大荷物を持ったラピスが立っていた。
「帰るまで待っててって書いてあったのに何やってるの?」
「だって、反対すると思ったから…」
ラズリは急に勢いがなくなってしまっている…
「誰が反対するって言ったの?」
ラピスは持っていた荷物の一つをラズリに渡した。
「…これ何?」
「隊商生活で必要な物を揃えておいたよ」
「…お兄ちゃん…ありがとう!!」
ラズリは思いっきりラピスに抱きついた。そして、振り返るなり
「これで、入れてくれるよね?」
とマリーヘにくいついた。
「いいわよ、この用紙に必要事項を書いてね。って字を書けるの?」
「字ぐらい書けるよ」
「はい、このペンで書いてね」
マリーヘは用紙とペンをラズリに渡した。
「もう一枚下さい」
「え? お兄ちゃんも入るの?」
「うん、そうだよ。一人だと色々心配だからね」
ラピスは用紙に書き込みながら答えた。
「それから、その荷物揃えるために家と家具を売ったからね」
「え? え〜〜〜!!!???」
ラズリはかなり驚きの余り言葉を失った… 横で聞いていたマリーヘも呆然としていた…
「ほら、書けたなら用紙を出して」
「う、うん」
ラピスはラズリから用紙を受け取り自分の物とまとめてマリーヘに渡した。
「うん、しっかりかけているわね。今日からあなたたちも隊商の一員よ。」
「「はーい」」
こうしてラピスとラズリは無事隊商に入った。

「ねぇねぇ、隊商ってことはこれから行った事のない所に行ったり、見た事のない物を見たりできるんでしょ?
 それから、隊商の人と友達になったり…」
「期待するのは分かるけど、はしゃぎ過ぎだよ」
隊商生活を夢見るラズリをラピスがなだめていると、後ろから誰かに声をかけられた。
「あのぅ…もしかして隊商に入った新しい人ですか?」
二人が振り向くとそこにいたのは昨日ラズリが舞台で見たピンクの髪の女性だった。
「はい、ラピスといいます。こっちは妹のラズリです」
「二人とも詩人なんだよ」
「そうなんですか、私はシーリーンといいます。これから詩人仲間として仲良くしましょうね」
簡単な自己紹介をした後、ラズリは何か品定めをするかのようにシーリーンをじっと見た。
ラピスが嫌な予感を感じていると…
「シーリーンさん、私の子分にしてあげる!」
「は?」
(ラズリの悪い癖が出たよ…)
ラズリには人を子分扱いしたがる所があって、今までも何回か人に迷惑をかける事があった。
(人にいきなり子分にするって言われて、いいよって言う人なんているわけないのに…
 ほら、シーリーンさんも呆れてるよ、これで変な子供だと思われたらどうしよう…)
とラピスがオロオロしていると、
「いいですよ」
「それじゃ決まりだね。」
「私は、マリ姐さんに用事があるから、また今度にしましょうね」
「うん、また今度ね」
(これって止めなくていいのかな…でも自分からいいって言ってたし…でも子分にするなんて…)
シーリーンの意外な発言に考え過ぎて混乱しているラズリを置いて、ラズリは意気揚々と歩いて行った。
ラズリは期待を、ラピスは不安を胸に隊商生活が始まった




あとがき
初めてのキャラバン小説です。
隊商に入るまでの経緯ですが、兄妹の性格を見せるために少し付け加えてみました。
シーリーンさん(たまださん)お借りしました。
勝手に子分にしてすみません。本人は子供の遊びにつきあってあげているとしか思ってません。
アムスィさん(シマムラさん)もお借りしたのですが…
名前が出せなかった上に、セリフも無くてすみません…


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