「はぁ〜どうしよう」

ルセアはそう言ってため息をつく

「あれ?どうしたのルセア」

そんなルセアにラズリが声をかけた

「あ、ラズリちゃん、実はお姫様の護衛のついでに町の観光をしたいと思ってるんだけど・・・」

「観光!それなら私もついて行ってもいい?」

ラズリは目をキラキラさせる

「それは大歓迎だけど・・・実は護衛の人がいなくて・・・」

「護衛?カマルは?」

ラズリはルセアと初めて会った時に一緒にいた無愛想でちょっと怖いカマルの事を思い出す

「カマルには声をかけてみたけど『めんどくさいから他の護衛の人に頼め』って断られた」

そういって頬を膨らましたがすぐにため息をついた

「入って日も浅いからカマル以外に知っている護衛の人もいないし、どうしようって考えてたの」

「護衛・・・あ!それなら私の知り合いに頼んでみようか?」

「え・・・いいの?」

「うん、さっそく頼んでみるから一緒に行こう」

「分かった、ラズリちゃんありがとう」

こうしてルセアはラズリと一緒にラズリの知り合いの護衛の人に会いに行くことになった



―その頃カマルは

カマルは自分が使っている投げナイフの手入れをしていた

(ルセアは昔から言い出したら、かならずやる奴だからなぁ・・・今頃どっかで別の護衛の奴に頼んでいるんだろうな)

カマルはルセアの依頼を断ったものの気にしていた

(ルセアの面倒だけでもめんどくさいのに、さらにお姫様の面倒までついてくるからさらにめんどくさくなる、こんなめんどくさい依頼は断って正解だとおもうが・・・)

カマルは軽くため息をつく

(ルセアの事が頭から離れない・・・それにお姫様も怪我をさせたらめんどくさいことになるからなぁ)

「しかたがない、見つからないようにサポートしてやるか」

カマルはナイフを懐に片づけて重い腰を上げるのであった。

(鶫)




「…で私が護衛することになったのか」

モリオンはため息をつきながらラピスとラズリそしてルセアの後を歩いていた。

「だいたい、姫様がお供を連れずに散歩するなんて…」

モリオンは不満があるのかぶつぶつ文句ばかり言っていた…

「まあまあ、いいじゃないですか。ほら、もう御殿につきましたし…」

「…それで、誰にも気づかれずにどうやって姫様を御殿から連れ出すんだ?」

「…は?」

ルセアはその質問を想定して無かったかのように首をかしげた。

「もしかして、何も考えてなかったの?」

「まさか、姫様もぼくたちが来ること知らないなんてことは…」

「…うん、その通り…」

ルセアは顔を赤くして頷いた。

「「何考えてるの!!」」

「えーと、その…ごめん!」

ルセアはラズリとラピスに責められていた。

「仕方ない、私が連れ出して来るから三人はここで静かにしていなさい」

「モリオンさん一人で大丈夫ですか?」

「一人で十分だ」

モリオンはそう言って御殿に入っていった。





そして数分後…モリオンがアーテフェフ姫を連れてきた。

「連れ出してきたぞ」

「皆さま今日は私の勝手なお願いに付き合ってくれるそうで…本日はよろしくお願いします」

アーテフェフ姫は深く頭を下げた。

「うん、よろしくね。わたしはラズリだよ。ねえ、アーテって呼んでいい?」

「な、いきなり何言ってんの!? 失礼だよ!」

ラピスはラズリがいきなり失礼な事を言ったのでかなり焦っている…

「構いませんよ、お好きなように呼んでください。そちらのお兄さんも」

「いいんですか!?」

「じゃあ、私もアーテと呼ばせてもらいますね」

「いいから早く行くぞ、誰かに見つかると面倒だ」

「そうだね、アーテ早く行こう」

ラズリはアーテフェフ姫の手を引いて街へ向い、ラピスはオロオロしながら、

ルセアは楽しそうに、モリオンは呆れながら着いて行った。





一行は静かな夜道を歩いていた。

「それでね、わたしは将来一流の詩人になって、砂漠中を歌って回るの」

「ラズリには素敵な夢があるのね」

「アーテには何か夢はないの?」

「そうですね…お父様の後を継げればと…」

「…じゃあ、将来女王様だね! そうなったらわたしを呼んで、一曲歌ってあげるから!」

「分かりました、その時が来れば是非お願いします」

ラズリとアーテフェフ姫はお喋りに花を咲かせていた。

「女の子同士楽しそうね」

「ラズリ…頼むから失礼なこと言わないで…」

「…あなたも大変ね」

「分かりますか?」

「分かるわよ、私も扱いが難しい友達がいるから。カマルって言うんだけど…」

ラピスとルセアと意外と仲良くなっていた。そしてその後ろをモリオンが歩いていた。

「こらこら、夜なんだからもう少し静かに…」

「あなた〜こんな楽しそうな事に何で私を仲間外れにするの?」

どこからともなくラリマーが現れモリオンに後ろから抱きついた。

「おまえ…なんでここにいるんだ?」

「だって一人じゃさびしかったから…」

「全く…仕方ないな」

「ところで、モリオンちゃん…」

「なんだ?」

「ラズリちゃんたちいないわよ」

「なんだと!?」

ラリマーの言うとおりモリオンの前から、ラズリたちの姿が消えていた…





その頃ラズリたちは何故か繁華街に迷い込んでいた…

「やっぱり、もう帰ろうよ」

「何言ってんの! まだアーテの散歩は終わってないよ!?」

「でも護衛してくれる人がいなきゃ危ないよ」

ラピスとラズリは散歩を続行するかどうかもめていた…

「まあまあ、二人とも落ち着いて。アーテも困ってるよ」

「あの…お二人とも喧嘩はやめてください」

「「アーテは黙ってて!」

「…はっ、あ、あのごめんなさい…」

「え? いえ、気にしなくてもいいですよ?」

ラピスがうっかりアーテフェフ姫に向かって怒鳴ってしまった事を謝っていると誰かやってきた。

「あ、ラピス、こんな所で何やってるの? …って一緒にいるのアーテフェフ姫!?」

「ナーザ、急に大声出してどうしたの? お姫様!? なんでここに…」

やってきたのはナサニエルとシャーリーだった。

「散歩だよ、ナーザたちは?」

「ぼくたちはお母さんの買い物に付き合って…」

そこに二人の母親のエリシェヴァが変わった工芸品を持って走ってきた。

「ナーザ、この工芸品良さそうだったから買ったんだけど、どうかしら…

 あら、お友達かしら?」

「あ、お母さん、こちらはこの子たちはラピスとラズリえーとこの人は…」

「初めまして、ルセアです。」

「あら、あなたたちがラピス君とラズリちゃんね、ラリマーさんから聞いているわ。

 そちらの方はルセアさんね、初めまして。えーと…あなたは…」

「お母さんその方は、アーテフェフ姫だよ!」

「あらそうだったの」

「お母さんしっかりして!」

ラピスがエリシェヴァに呆れていると、ラズリに肘でつつかれた。

「ねえお兄ちゃん、シャーリーに護衛を頼んだら散歩できるんじゃないの?」

「え…確かにそうだけど…」

「シャーリーお願いがあるんだけど…」

ラズリはシャーリーたちに事情を説明した。

「分かったわ、あたしに任せて!」

「ぼくたちも着いて行って…」

ナサニエルは何か言おうとして、何か見て固まってしまった…

「ナーザ、どうしたの?」

「あ、あれ…」

ナサニエルが指差した方には、建物の陰からこちらをじっと見ているカマルの姿があった…

「ここはあたしに任せて!」

「アーテは私の後ろに!」

「ルセアさん、それはアーテじゃなくてラズリだよ」

「アーテは私が守る!」

「ラズリさん…」

「みんな、落ち着いて行動しなきゃ駄目よ」

「お母さんは少しは慌てて!」

カマルの事を知っているはずのルセアも暗くてそこにいるのがカマルだと気付かなかった…

(石英)




(やばいな・・・こっちに気付いたか)

カマルは物陰からルセア達の様子を見ていたが1人の少年と目が合ってしまい、その後こちらに気付いたルセア達は慌てていた

(・・・この状況だと私が不審者って思われるのも無理はない・・・ここはいったん離れるか)

カマルはそう思いその場を離れた



「あ、向こうが逃げていった」

カマルが立ち去るのを見てナサニエルがそう言う、その瞬間緊張していた空気が穏やかになった

「きっとシャーリーの強さに気付いて逃げ出したんだよ」

「そうなのかな?」

(私・・・まだ何もしてないんだけど・・・)

ラズリの言葉にシャーリーは首をかしげた

「怪しい人もいたし・・・これ以上散歩は無理じゃないかな」

「えぇ・・・大丈夫だよ、シャーリーがいるんだし」

「でも・・・」

ラズリは大丈夫だと言うがラピスは不安でしかたなかった

「あの〜・・・ご迷惑をかけているのは分かってますけど、もう少し、もう少しだけ見学させていただけないでしょうか?」

アーテフェフ姫はそう言って頭を下げた

「え、あの・・・分かりましたから頭をあげてください」

ナサニエルはお姫様の行動にびっくりしてわたわたする

「もし次怪しい人が出てきてもシャーリーさんだけでなく私も守ります・・・戦う力はないですけど・・・」

「私もかんばる、お兄ちゃんもかんばって守ろう!」

「・・・分かったよ、ルセアさんもラズリもあまり無茶しないでね」

やる気の2人にラピスはため息をするがやさしい顔で2人を見ていた

「私も護衛としてみんなを守らないとね」

「僕も姉さんの役に立てるようがんばるよ」

「みなさん・・・本当にありがとうございます」

「わわ、お姫様が何回も僕たちに頭下げなくて良いですよ」

慌てるナサニエルにアーテフェフ姫はうれしそうに笑った

「あらあら、お姫様のためにみんなががんばるって本当にいいことね」

そんな様子を見てエルシェヴァは優しく微笑むのであった

「それより、ここからどうしようか?アーテはどこか行きたい所ある?」

ラズリはアーテフェフ姫に聞く

「ごめんなさい、私ここにどんなお店があるか分からなくて・・・」

「そうだよね・・・どうしようか」

「よかったら、一緒に買い物しない?私も他に見たいお店がたくさんあるから」

困っているラズリにエルシェヴァが言う

「そうだね、せっかくの散歩だもの、いろんなお店を見て回りましょ」

エルシェヴァの意見に全員賛成し、ルセア達は7人でお店を回ることになった



(ルセア達はこの道にいたから、先回りしてここで待っていたら来るだろう)

カマルは自分で作った地図で位置を確認して早足で歩いていた

(今度は見つからないようにしないとな)

「あ、カマル、ちょっといいか」

そんな事を考えながら歩いていると声をかけられたので振り向く、そこにいたのは御殿の前でルセア達と一緒にいたモリオンと綺麗な女性のジンだった

モリオンとは同じ斥候として2〜3回話したことはあるが隣の女性とは初対面だ

「実は子供たちとはぐれてしまって、どこかで会ってないか」

「あなた、それだけだったら相手に伝わらないわよ」

モリオンは慌てている様子で隣の女性はそんなモリオンを落ち着かせていた

「子供?お前子持ちだったのか?」

「あ、ああ・・・ラピスとラズリって言うんだが知らないか」

(あの2人の父親か・・・ということは隣の女性は2人の母親か)

「それなら繁華街の方で見た」

「そうか、ありがとう」

「あなた待って、私に彼女の紹介はしてくれないのかしら」

女性は繁華街に急ごうとするモリオンを止める

「それは後でいいだろ、今は子供たちが心配だ」

「だめよ、せっかくラズリちゃん達の居場所の事教えてくれたのに名前が分からないからお礼も言えないじゃない」

女性のほうはのんびりしているのか肝がすわっているのか、モリオンと違って冷静であった

「はぁ・・・彼はカマル、最近斥候に入ってきた新人だ」

「カマルちゃんって言うのね、始めましてわたしはラリマーよろしくね・・・・それとあなた、女の子に彼は失礼でしょ」

「・・・?どう見ても男だと思うが・・・」

(私の姿を見て一発で女性と見抜くなんて・・・)

カマルは男性に間違えられることは多いが一発で女性と思われたことはあまりないため、表情には出してないが心の中では驚いていた

「カマルちゃんは女の子よね」

カマルがそんなことを思っているとも知らずにラリマーは笑顔で話しかける

「・・・ここでのんびりお話している場合ではないのでは、繁華街は人が多いからなかなか見つからないと思う」

こちらも先回りしてルセア達を待ち伏せしないといけないため時間がない

「そうだな、子供たちが心配だから早く行こう」

「そうね、もうちょっとお話したかったけどしかたないわ、ありがとうカマルちゃん、またお話しましょうね」

そう言って2人は繁華街の方に向かった

(時間を取られたな・・・少し急ごう)

カマルも先回りのため急ぐのであった



カマルは先回りのため急いでいたが、ある人物が目に入りおもわず足を止めてしまった

(なんで・・・お姫様が1人で行動しているんだ!?)

アーテフェフ姫が周りをきょろきょろ見ながら1人で歩いていた

「・・・他の護衛はどうしたんですか?」

「え、・・・・」

アーテフェフ姫はびくびくしながらカマルを見る

(知らない人にいきなり声をかけられたら誰でも怖がるか・・・)

「私はルセアと同じ隊商のカマルと申します。アーテフェフ姫の護衛にルセア他数名が護衛をしていたと思いますが、その護衛はどこに?」

「あの・・・実は・・・」

彼女の話では最初は護衛の報酬に金貨を渡すつもりであったが、一緒にお散歩している間にお礼をお金じゃなく物として残したいと思った

そこでルセア達と買い物をしながら何か良い物はないかと探していたら、少し離れた所のお店に良さそうなアクセサリーを見つけてそれを買いに行って戻ってきたら誰もいなかったらしい

(姫様がいない事に気付いて慌てて探しに行ったんだな・・・向こうは慌ててるだろうな・・・どうなっているか想像ができる)

「なぜそのお店に行くときに他の護衛についてくるよう言わなかったんですか」

「ご、ごめんなさい・・・サプライズで渡すと喜んでもらえると聞いたことがあったので・・・」

カマルは頭を抑えてため息をする

「ごめんなさい・・・」

アーテフェフ姫はカマルが怒っていると思いアクセサリーの入った袋を胸に抱えて頭を下げた

(ここでほっておくと後でめんどくさい事になる・・・めんどくさいが一緒に行動した方が良さそうだな)

「とりあえず、ルセア達と合流できるまでは私が護衛します。ですがこれに懲りたら護衛から勝手に離れるのはおやめください、分かりましたか」

「・・・・はい」

こうしてカマルはアーテフェフ姫の護衛をしながらルセア達を捜すことになってしまった。

(鶫)




一方ラピスたちはアーテフェフ姫がいなくなった事に気付きラピス、ナサニエル、ルセアの三人

とラズリ、シャーリー、エリシェヴァの三人に分かれて探していた…

「あっちかな…いやこっちかも…どこ行っちゃったんだろう…」

「ラピス落ち着いて、慌てても見つからないよ」

「でも、ナーザ、姫様にもしもの事があったら…」

ラピスは焦っていて冷静さを失っていた…

「ねえ、誰か見かけた人を探すのはどうかな?」

「姫様がここに来ているのは秘密なんですよ?」

「そんな事したら大騒ぎになっちゃうよ…」

「そ、そういえばそうだった…あれ? ちょっと待ってあそこにいるの…」

ルセアは子供二人に指摘され言葉を詰まらせた…が何かに気付いて指差した…

そこにいたのはアーテフェフ姫だったが…別の誰かと歩いていた。

「姫様だ! …でも一緒にいるの誰だろう?」

「さっき物陰でぼくたちをみてた人だ!」

「もしかして騙されて攫われてるのかも…ど…どうしよう…」

「ラピス落ち着いて! もしそうだったら慎重にならなきゃ」

「そうだね、とにかくリビアン(連絡用ルフ)でラズリたちに連絡を…」

ラピスとナサニエルは慌てながらもラズリたちに連絡していると…

「もしかして…カマル?」

ルセアがそう呟いてアーテフェフ姫に近づいて行った…

「やっぱりカマルだ、なんでアーテと一緒にいるの?」

「そういうお前は何故姫様から目を離した?」

「え…えっと、それは…あはは…」

じっと見つめるカマルにルセアは笑ってごまかすしかなかった…

「カマル…って誰?」

「えっと、カマルさんは最近ぼくたちの隊商にルセアさんと一緒に入ってきた護衛の人だよ」

「そうだったの!? 悪いことしちゃったかな…」

「…ルセアさんもついさっき気付いたみたいだからあまり気にしなくていいと思うよ…」

ラピスとナサニエルが離れていた所からこそこそと話しているとラズリたちがやってきた。

モリオンとラリマーを連れて。

「お兄ちゃーん! アーテ見つかったって本当?」

「あ、ラズリこっち…ってなんで…父さんと母さんが一緒にいるの?」

「さっき見つかったから連れて来たんだけど…」

ラズリの話を無視してモリオンはラピスに問いかけた。

「それより姫様は今どこにいるんだ?」

「えっと…あそこでルセアさんとカマルさんと一緒に話してる…」

「そうか…無事だったんだな…よかった…」

モリオンはそう言ってラピスの頭を撫でた。

「…あれ? 怒らないの?」

「今回の件は最初にお前たちを見失った私の責任だ。私にお前を叱る資格など無い…」

モリオンはそう言ってため息をつき肩を落とした…

「そんな…あなたは…」

「ラリマーさん今は何も言っても…」

ラリマーはモリオンを励まそうとしたがエリシェヴァに止められた…

「私は護衛としても父親としても失格だ…」

「そんな事無いです!」

更に落ち込むモリオンに声をかけたのはアーテフェフ姫だった。

「確かにあなたは私を見失いましたが、私はこうして無事散歩を楽しんでいます。

 あなたが気に病む必要なんてありません」

「姫様…」

「それにまだ散歩は終わってません、引き続き護衛をお願いしてもいいですか?」

「…畏まりました」

モリオンはアーテフェフ姫に深々と頭を下げた。

「話はまとまったみたいね。じゃあ礼拝堂に行ってみない? あそこなら私が案内できるわよ?」

「是非お願いします!」

「じゃあ早速行きましょう、ほらあなたもエリシェヴァちゃんたちも早く行くわよ」

こうして無事合流し散歩は再開された、一行は街のいろんな所を見て回ったため

姫様が御殿に帰る頃には日が昇りかけていたとかいないとか…

(石英)








あとがき

アーテフェフ姫の散歩にお付き合いする話でした。

シャーリーさん、ナサニエルさん、エリシェヴァさん(yuranさん)お借りしました。


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