白砂の港の浜辺、今日も静かで聞こえてくるのは波の音だけ…
ただぼんやりと何をするわけでもなく私は海を眺めていた…
いくら望んでもあの頃に戻れるわけがないというのに…
それでも願わずにはいられない、あの人に…あの子たちに会いたいと。
会いに行こうにもここからは遠すぎる、それに会ってくれるかどうかもわからない…
何故こんなに会いたいんだろう…あの時にもう会えないと覚悟していたはずなのに…


「何でこんな所で泣いてるの?」
「!!」
どうやら私はいつの間にか涙を流していたみたいね…
通りかかった女の子に声をかけられるまで気がつかなかったわ…
それにしても見かけない子ね、最近来たらしい隊商に入ってる子かしら…
「なんでもないわ、心配してくれてありがとう」
指で涙を拭いその女の子に笑いかけた…
「そう? 本当に大丈夫なの?」
「ええ、ちょっと昔の事を考えてただけだから…」
「昔の事ってどんな事? 教えてよ」
「…いいわよ。実はね…私には…昔離れ離れになった子供がいるの、今頃あなたと同い年位になってると思うわ…」
なんで私はこんな子供にこんな事を話してるんだろう…
「幻都の骨っていう街で一緒に暮らしてたの」
「わたしも幻都の骨に住んでたよ。その子って何て名前?」
…同じ街に住んでたなんて、偶然ね…
「その子の名前はラズリっていってね…」
「わたしの名前もラズリだよ。」
…同じ名前なんて珍しい偶然ね…
「その子には2歳年上のお兄さんが…」
「わたしにも2歳年上のお兄ちゃんがいるよ」
…偶然よ、偶然に決まってるじゃない。あの子はあの人と同じ黄緑の髪と緑の瞳をもった…
…この子もそうだけど偶然よ。
「ねえ、あなたお母さんは元気にしているかしら?」
そう、この子の母親がいるなら私の予感は的外れだとはっきり分かる…
「お母さんは…死んでるのわたしが小さい頃に病気で…」
…そういえば、別れる時に死んだ事にしておくように頼んだっけ…
「顔は覚えてないけど名前は聞いたことあるよ。確か…ラリマーって名前だったよ」
わたしはその言葉を聞いた途端その子に抱きついた。
「…ごめんね! 今まで一緒にいられなくてごめんね!」
もう間違いない…この子が私の…娘…
「え? ちょっと? 痛いよ」
私は力一杯この子…ラズリを抱きしめた、ただ痛がってる事に気付くには少し時間がかかったけど…


「…で、連れて来たの?」
「うん、わたしたちのお母さんだって」
「…本物なの?」
あの後ラズリに連れられて小さな天幕に来た、そこにいたのはラズリの兄…つまり私の息子のラピスだった…
でも、流石に信じてもらえないみたいね…こっちを睨んでるし…それでもかわいいけど。
「間違いないよ、同い年で、幻都の骨に住んでた事があって、髪の毛が黄緑で、瞳が緑で、2歳年上のお兄ちゃんがいて、お母さんがいない人ってわたしの他にいる?」
「…確かにそうだけど…お母さんに成済まそうとして嘘をついてるのかも…」
「そんな事をして何の得になるの? わたしが一流の詩人になった後なら分かるけど」
「もし本物ならなんで九年間もぼくたちを放っておいたの!?」
「それは…事情は言えないけど、私だって好きであなたたちから離れたわけじゃないの!」
「………とにかくぼくは信じないからね!」
そう言ってラピスは天幕から出て行ってしまった…
「ごめんね…もう少し話してみるから…」
「ううん、信じてもらえなくて当たり前だもの…ほんの九年間とは言ってもあなたたちを放っておいたのは事実なんだから…」
「お母さんはこれからどうするの?」
「そうね…これからあなたと同じ隊商に入れさせてもらおうかしら…」
「じゃあ、世話役のマリ姉ちゃんの所に案内するよ。これからは一緒だね」
「ええ、そうね」
こうして私は隊商に入る事になったの。






「…で最後にここに職業を書いて」
「職業ね…何がいいかしら、詩人になってあの子たちと歌うのもいいし、踊り子や楽士もいいわね…呪術師というのも魅かれるわ…
 魔法士になってあの子を守ってあげるのも捨てがたいし…」
「…マリ姉ちゃん、面倒だから見習いという事にしといて」
「分かったわ」
それでわたしの職業は見習いに決まったの…




後書き
ラリマーが隊商に入る話です。
こんなのだけどよろしくお願いします。


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