夜も更けて皆が寝静まっている頃、ラピスは寝室の机に向かって、ランプの灯に照らされながらペンを片手に紙に何かを書いていた…

しばらくするとなぜかラピスが立ち上がり、戸を静かに開けた。

するとそこにはアクアとマリンが立っていた、どうやらこっそり中を覗いていたらしい。

「こんな夜中に何やってるの?」

「ええと…お手洗に行きたくなって…でも怖くて…」

「こいつが怖くてトイレに行けないって言うからついて行ってやって、
 部屋に戻る途中でこの部屋から光が漏れてたから覗いてたんだよ、悪いかよ」

「いや、悪くはないしいい事だと思うよ」

アクアは相変らず口は悪いがラピスは慣れているいるのであまり気にしていない…

「何で頭撫でるんだよ!? それより兄貴こそ何やってたんだよ」

「友達に手紙の返事を書いてたんだよ」

「お友達ですか? もしかして兄様が昔入っていた隊商の方ですか?」

どうやらマリンはラピスの友達に興味を持ったようだ。

「そうだよ、今手紙を書いているのは、ナーザ…ナサニエルとザビエラ、それからリズクの三人だよ」

アクアとマリンは目を輝かせていて、明らかに聞きたがっていそうだった…

「…ナサニエルは勉強のために砂漠を旅しているお医者さんなの。
 僕が知り合った事はまだ見習いだったんだけどお母さんのエリシェヴァさんの病気を診るためにお医者さんになったんだって。
 シャーリーさんっていうお姉さんがいるんだけど海の向こうで旅をしているみたいで今でも手紙のやりとりをしてるらしいよ」

「お母様のためにですか…素敵なお方ですね」

「それより海の向こうに行ったっていう姉貴の話の方が気になる」

「はいはい、シャーリーさんの事は手紙で聞いてみるから。
 ナー…ナサニエルは親孝行で立派だよ…僕なんかと違って…」

「兄様?」

「ううん、何でもない。それで、こっちの手紙はザビエラって言う呪術師の子に送る予定なんだけど…」

ラピスは何かをごまかすように次の話題に移った。

「ザビエラはラズリとも仲良くしてたというか…子分にされてたというか…」

「あの姉貴の子分!? どんなやつなんだ?」

「えーと…チャイ占いや枝占いが得意で、後よく道に迷って『迷子のザビエラ』って呼ばれたな…」

「さすが姉貴…子分にも二つ名があったのか…」

「姉様の子分って本当にいたんだ…」

ラピスはアクアの発言に気になるところがあったが…あえて聞かなかった。

「この前届いた手紙でも迷子になっていたところをカマルさんに保護されたって書いてたし、いろいろ大変みたいだね。
 それで最後の手紙の相手は楽士のリズク、リズクも知り合った頃は見習いだったけど、
 頑張ってお金を貯めて、楽器を買って、練習して楽士になったんだよ。
 隊商が解散した後も師匠の元で修行してたみたいだけど、また旅に出てるみたい」

「その方の事なら姉様から聞いた事があります」

「おれも聞いた、姉貴がこの世で唯一相棒に相応しいと認めた楽士で姉貴自ら組まないかと誘ったけど、
 自分の修行のために断ったやつだろ? 姉貴もそうだけどそいつも格好いいな」

「…うん、だいたいそんな感じかな?」

「姉様の話はいつも半信半疑で聞いていたのですが本当だったんですね」

「お前、姉貴を疑ってたのか!?」

「まあまあ、落ち着いて。それよりもう遅いんだから早く寝なさい」

ラピスは詳しい事は後日ラズリから直接聞くことにしてアクアとマリンを寝室に戻るよう促した。

「ちぇっ、分かったよ」

「おやすみなさい」

アクアとマリンはさっさと部屋から出て行った。

ラピスは二人を見送った後、机に置かれた書きかけの手紙を見てため息をついた。

(みんなすごいな…自分の道を見つけて進んでいる…
 それに比べて僕は…アクアとマリンの為と言ってここで暮らし始めたけど…
 もしかしたらあの二人を言い訳にして楽な道を進んでいるだけなのかな…
 昔ラズリにはもっと先の事を考えるよう言っていたのに
 先の事を考えてなかったのは僕の方だったのかも…)

ラピスはそんな事を考えているうちに手紙の続きを書く気になれなくなり、その日はもうそのまま眠りにつく事にした。




あとがき

ナサニエルさんとシャーリーさんとエリシェヴァさん(yuranさん)、ザビエラさん(藤乃蓮花さん)、

カマルさん(鶫さん)、リズクさん(一磋さん)お借りしました。


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