隊商が地底湖に着いた日、ラリマーは早速「翡翠の鏡」と呼ばれる湖に来ていた。
そしてその縁を歩いていると、どこからか声が聞こえて来た…
「…姉様…ラリマー姉様…」
ラリマーは辺りを見回すが誰もいない…
「そこじゃない…下…」
ラリマーが声のする方…湖の水面を見てみると黒髪の少女が顔の上半分だけ出してラリマーをじっと見ていた…
普通なら悲鳴を上げて逃げるような光景だが…
「あら、ヤシュムちゃんじゃない、大きくなったわね、会うのは何年ぶりかしら?」
ラリマーは親しげに話しかけた。
「…84年と167日…ずっと…会いたかった…」
ヤシュムと呼ばれた女性は湖からあがるとラリマーに抱きつき、ラリマーはヤシュムの頭を撫でてあげた。
「よしよし、相変わらずヤシュムちゃんは寂しがりね、時々手紙を送ってたでしょ?」
「手紙だけじゃ…我慢できない…それに…手紙も…10年と75日来てない…」
「色々忙しかったから…それにたったの10年じゃない」
「…それもそうだね…でも…会えて嬉しい…ところで…巫女を辞めさせられたって…聞いたけど…今何やってるの…?」
「今は詩人として隊商に参加してるの」
ヤシュムは返事に首をかしげた。
「隊商? …なにそれ?」
「皆で集まって砂漠のいろんな街を回るの」
「…楽しいの?」
ラリマーは満面の笑みでこたえた。
「ええ、とっても♪ ところでヤシュムちゃんはどう?」
「…? 湖の上を漂いながら…あそこにある穴から…空を眺めてるだけ…」
ヤシュムが指差した先の天井には穴があいていてそこから日の光がさしていた…
「…ずっと?」
「うん…ずっと…でも…今日は違う…だって…姉様が来てくれたから」
「…」
ヤシュムはラリマーに擦り寄り、ラリマーは黙ったままヤシュムの頭を撫で続けていた…

そして数分間たつとどこからかラリマーを呼ぶ声が聞こえて来た…
「おい、こんな所で何をしているんだ?」
「あら、あなた何か用かしら?」
ヤシュムは表情には出さないが不快そうにやってきたモリオンを見ていた…
「…誰?」
「この人は私の旦那様のモリオンちゃん、この子は私の義妹のヤシュムちゃんよ」
ラリマーはそんな事には気付かないようで互いに二人を紹介した。
「そうだわ、せっかくだから一緒に隊商宿に行きましょう。お友達を紹介してあげるわ」
そう言って歩き出すラリマーの後ろでヤシュムは目を見開きよく分からない黒い物を出しながらモリオンをじっと見ていた…
「旦那様…認めない…姉様…私の物……………消す…」
何か物騒なことを呟きながら…




あとがき
ヤシュムが登場する話です。
続きます。


戻る