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Candy Kiss 4
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 2月17日は公立高校受験の、出願の日だった。

 もうぼくには関係ない。 受験する子には悪いけど、それどころじゃなかった。

 ぼくのカバンの中には、誰にも見せられない爆弾が潜んでいたんだから。
 どうするんだ、チョコレートなんか買っちまって。 ほんとにどうかしてる。こんなもの野郎にもらって、白瀬が喜ぶものか。
 悩んでいるうちに一日終わってしまった。結局渡せなかった・・・。

「小川、帰ろ」
 後ろから白瀬が肩を叩いて、ぼくは飛び上がった。
「なにぼけっとしてんの。帰ろう」
「う、うん」

 自転車置き場で、荷台にカバンをくくりつけている白瀬は、もとのままの白瀬だった。
 あの日の自暴自棄な激しさはまるでない。
「な、なあ、白瀬よ」
「ん」
「チョコレートもらったか」
「なんだよ、いきなり」
「もらったんか」
 白瀬は「くだらねえ」と口をゆがめて笑った。 どうやら今年はゼロだったらしい。ざまあみろってんだ。 男は顔だけじゃないんだよ。

「お前、口が悪いから。女子にブスとかデブとか大根足とか、平気で言うだろ。性格悪いって思われんだよ」

「ブスにブスと言って何が悪い」
「その性格、名古屋行ったら直せよ。永久にもてないぞ」
「ほっとけ」
 白瀬は、いや〜な笑みを浮かべた。
「お前はもらったのか、チョコレート」
「おお、もらった。 ごっそりもらったさ」

 白瀬は大笑いした。
「本当かよ。誰だ、その物好きは」
「だ、だれでもいいだろ。たくさんもらったんだ、食いきれねえから。貴様にも一個だけわけてやる。感謝しろよ」
「いらねえよ、んなもの。一個だけもらったやつなんか」
「いいから、受け取れっ」
「おれ甘いもんはちょっと苦手なんだよ」
「遠慮するな」
「いらねえっていってるだろ、しつこいぞ」
「男は据え膳食うもんだぞ」
 これは、うちのおやじの口癖だ。 据え膳食わぬは男の恥。

「小川、それ、使い方違うぞっ」
 ぼくは問答無用で、白瀬の自転車のかごに、チョコの箱を放りこんだ。

「もったいないけど、一個だけ分けてやる」
 するとやつは、神妙な口調で言った。
「……悪いだろ? その、くれた子にさ……」
「なんもでいいから、開けてみろ」

 中のトリュフチョコレートを見て、白瀬は目を丸くした。
「これがチョコレート?」

 腹が減っていたらしくて、白瀬はとうとう、白いのをひとつ口に入れた。そして感心したようにつぶやいた。
「うまいよ、これ」
「もっと食え」
 ナッツの載ったやつを、口に放りこんで噛みながら、白瀬はもごもごと言った。

「いくらくらいするもんだろう、これ?」
「600円だった」
「…………」
 白瀬の口が止まった。目が点になっている。 まずい。

 あわててぼくは言いなおした。
「たぶん600円くらいだ。 相場じゃそんなもんだと思う、うん」
「…………」
「もちょっと安いかな? よくわかんない」
「…………小川」

 なんだよ。
「なんでもない。うまいよ、このチョコ」

 そういって、しばらくして白瀬は吹き出した。
「小川、やっぱお前ってへんなやつ」
「なん、なんでだよっ」
「前から思ってたけどやっぱおまえって変」
「お前に言われたかねえっ」
「行く末心配だよ。お前みたいなぼおっとしたやつは」

 ぼくらは仲よくチョコレートを食べて、いっしょに家へ帰った。
 
 全部過ぎたことだ。結局卒業するまで、白瀬とはそれ以上のことはなかった。身体ばかり大きくても、しょせんは田舎の中学生だったから。
 白瀬が「おれは社長になるぞ」と書いてくれた色紙も、いつのまにかどこに行ったのかわからなくなってしまった。
 ぼくは大学は県外に行ったので、多分引越しのときになくしたかなにかだろう。


 就職してから白瀬は一度も帰ってこなかった。
 名古屋の大学に進学したやつが、白瀬に会ったと言っていた。

 居酒屋でバイトしていたとき、白瀬が仲間と飲みに来ていたらしい。
「なんかまた背が高くなってた」

 
 しっかりした、男っぽいかんじになっていた、とそいつは付け加えた。

 ぼくは大学を出て、出版社に入った。
 地道に働き、いろんな部署を回って、30を過ぎたころに就職情報誌の編集部に配属された。
 仕事仲間の泰子と結婚して、子供ができた。

 ちょっと障害があって大変だったけど、なんとか来年から幼稚園まで漕ぎつけた。
 
 いろいろあって、なんとなく今は平和に収まってるだけの、うちの家庭だが、土台はまだまだあやういものがある。


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 白瀬の車にほいほい乗り込んでしまう、おれはダメな男だ。 

 いい男と飲む酒はめちゃくちゃ廻りが早かった。 おれはしたたかに酔っ払い、白瀬にしなだれかかってしまうのだった。
 このさい、酒のせいにしてしまおう。

 やつも行動早くて、メシを食ったらさっさと車に乗り、終日フリータイムのプレステとドリキャスと通信カラオケつき、サウナ付きのえっちホテルに来てしまったのだ。

 えい、もうどうにでもなりやがれ。

「なあ、小川。 あんなとこで会ったのもなにかの縁だよなあ」
「わはは。お前とおれの縁はつながってるさあ。赤い糸ってやつだよなあ」
 おれの馬鹿笑いが聞こえる。

「小川……おれなあ。お前が好きだったんだよ」
「おお、おれもおれが好きだったんだよ、白瀬」

 何を言ってるんだ、自分。 日本語まで怪しくなってるぞ。
 白瀬はちょっとしんみりして、優しく耳元で口説いてくれる。

「お前がチョコくれたとき……お前もいただきたいと思ったくらいだよ。でも小川が、あんまり子供っぽくてさ。 壊れちゃいそうだったから、がまんしたんだ」
「今は超大丈夫ですよ。すっげえでっかいバイブでも平気ですよ〜」
「…………小川。なあ、お前に会うのがつらくて帰省できなかったんだけど、帰ってきてよかったよ」

「よかったよねえ。 ボクもうれしいよ」
 おれはろれつも廻らないのに、さっさとネクタイを外し、ワイシャツのボタンを一つ一つ外し始めていた。
 頭も廻らないのに、下半身だけはテント張ってて、ズボンがきついったら。

「義理でも見合いするのは辛かった……親にいろいろ言われるのも苦痛だ。お前は……結婚してるのか?」
「結婚してますよ。 コドモもいますし、愛人もいるよ〜」
 白瀬はおれの手を取り、薬指を口に含んだ。 生暖かい感触が気持ちいい。
そして歯と舌を器用に使い、結婚指輪を外してしまった。

 それを枕もとにそっと置くと、「幸せなのか」とささやいた。

「幸せ? 幸せってなんだけっけ〜。 ポン酢しょうゆのあるうちさ〜♪」
 おれは激古いCMソングを歌いながら、ベッドの上に立ちあがり、腰を振りつつ、ズボンのベルトを抜いて放った。
 それからジッパーを下ろし、ブリーフ一丁になった。
 
 そして白瀬の前にかがみこんで、ジーンズのジッパーを口で下ろしながら、左に収まってるナニを優しく撫でた。 もうテント張ってるじゃないか。かわいい。
 でもって立派なフクロは真中に収めてあるんだよ。憎いね!

 とりあえず、いただきます。

「ホワイトディのお返し、まだだったよね、白瀬くん。 ン十年経ったけどカラダで返してくれる?」

 5へ続く。(長くてごめんなさい)

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