相聞



何ヶ月ぶりかに、フレア様のご無事なお姿を拝見でき、本当にうれしい。
そして少し見ない間に、フレアさまは本当にご立派になられた。またセツ様もお元気でよかった。少しおなかが出たような気がするけれど……。

皆さんご無事でなにより。これもひとえに王様のご尽力の賜物。いえ、それにはもちろんあのお若い軍主殿の、命を削ってのお力添えがあってのこと……。軍主殿のお部屋に足は向けて寝ることはならぬ、と思う。

そして、この船にも一気にオベルの人の割合が増えた。人数も増えたので、いっそう食糧の調達に気を配らねばなるまい。

最後に。気をつけなければならないことがある。
その男は名前は伏せるが、ナ・ナル島の出身者である。
「オベルってのは、男は意外と無能でな、働き者の女で持っている。つまり女は大事にされていないから、ちょっと優しくしてやれば簡単に落ちるんだ」
それだけならともかく。
「あの上品ぶったお姫様だって、いったん落とせばデレデレだろうよ。いいよなあ、あの尻」

聞いているだけで、めまいがするほど腹が立った。ケダモノに海神のたたりが降りますように。
あの三角印をつけたナ・ナル島のケダモノは、フレアさまに近づけてはならない。セツ様にもそう申し上げておこう。
(デスモンドの手記より)

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新しいドレスが出来たので、髪を結い上げて、外に出た。
目指すはルイーズの酒場。あいつは今日も、腕まくりをして、皿洗いをしているに違いない。そのあいつにこの姿を見せ付けてやろうと思って。

すると、後からデスモンドの声が飛んできて、階段で通せんぼをされてしまった。
あ、まだ行ってなかった?

「姫様、はしたない。下着で外を出歩いちゃダメです!」
私は驚いて、自分の黒いドレスを見下ろした。肩と胸とが見えすぎるのが少し気にはなっていたけど、こんな下着があるのかしら。
「下着じゃないわよ。ドレスよ」
「下着みたいなドレスでしょ。このままお部屋にお戻りください、お出かけなら、もっとちゃんとした服を着て」
「お出かけじゃないわ。サロンに行くだけよ」
「もっと危ないです、やめてください」

あいつの決め付けたような物言いときたら。私は腹が立ちすぎて、なんだか泣きたい気分だ。

「何よ。ジーンさんだって、ミレイちゃんだって、もっとすごいでしょ?」
「姫様はオベル王国の王女なんですよ、お立場が違います」

そのオベル王国の王女が必死に戦ってるときに、船で酒場の女にデレデレしてたのは、誰?
だってルイーズさんだって胸が半分見えてるじゃない! デスモンドだって、ああいうのが好きなんでしょうが。

「あなたに言えるの? あなたとルイーズと、オルナン? 三角関係は有名よ」
するとデスモンドは恥じ入って黙り込んだ。なんだかますます、腹が立つ。
「たまには気分転換も必要なの。お前は、そこでお仕事をしていればいい」
「姫、お供します」
「何? 保護者のつもり?」
「気分転換が必要だとは、私も思っていましたから。どうぞ、階段は暗いですから」
そういって、腕を差し出した。
「お許しください。その姿で歩いては、色々危ないのです。この船には、いろんな輩がおります。だから私も参ります」
「一緒に来て、私を放り出して、皿洗いするんでしょ?」
「いいえ、ずっと横におります。護衛ですから」

私はちょっとうれしくなって、デスモンドの腕を取った。デスモンドは少し驚いたけど、腕を引っ込めたりはしなかった。
やがて、あいつは私を見下ろし、辛そうにこう言った。
「お召し物、とてもお似合いです……でも、出来たらもう少し肌を隠してほしいです」
私は、つんとして答えた。
「わたしはもう大人なのよ」
「それはもちろん。でも大人だから心配なのです」

それから私たちはサロンに行き、楽しくカクテルを飲んで、最後は酔っ払って、二人で甲板で歌を歌った。
夜風が気持ちよかった。こんな楽しい日がまた来ればいいのに……。
(フレア王女の日記より)


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