フェイン 6

2006/05/07


「この窓は、どうやれば開くんですか? 」
ラビエルはドアに張り付くようにして、開ける方法を探している。言葉遣いは丁寧だが、カチカチと乱暴にボタンを押すので、苛立ちが明らかだった。
フェインが見れば、窓はしっかりロック状態になっている。そこで手を伸ばし、ロック解除を押してから窓を空かしてやった。
「安全装置がついてるんだ」
ラビエルは「なんとも面倒ですね」というと、窓を全開にして、頭を窓の外に出してしまった。その様子は、乗り物酔いをして空気を求めているようにしか見えない。
「危ないぞ。頭を引っ込めろ」
ラビエルは何も答えない。それどころか、上半身全て、窓の外に出してしまった。
「おい、ラビエル、ほんとに危ないんだ、落ちるぞ」
視界の端に、ジーンズに包まれた長い脚が跳ねた。ブーツを履いた足がシートを力強く蹴りつけ、一瞬にして視界から消え去った。

「おいっ!!」
フェインは、細い山道なのも忘れて、急停車をし、外へ飛び出した。走ってきた山道を振り返るが、誰も倒れてはいなかった。
「どこだ、ラビエル!」
狼狽して辺りを見回した勇者は、直ぐに自分の愚かしさに気づいた。
あれが死ぬわけがないのだ。大体、天地開闢以来行き続けているそうだから、車から落ちたくらいでは、かすり傷も負わないだろう。

はるかに見上げると、上空1キロ以上の高いところに巨大な影が旋回していた。
「そこか」
フェインは目を細めて天使を見守った。空を舞うさま、いかにも楽しそうだ。あと数回旋回したら、天空へと消えるのだろう。
呼び止めることはしない。ラビエルは大きな任務を抱えているし、他にも多くの協力者を抱えている。
いつも自分のところだけに留まり、祝福をしてくれると思ってはいけない。
「帰るのか」
だが答えはない。天使は黙って消えてしまった。勇者は黙って、拳を握り締めた。

天使は明らかに怒っていた。腹を立てていたほどでなければ、酷く狼狽していた。
(おれがからかったことになるのか?)
さすがに、その原因に気づかないわけにはいかない。
フェインは「天使の性機能」に関して言及した。天使はそれを不快に思った。そうとしか考えられない。
(ひょっとして、セクハラすれすれだったか。しかし彼は男のはず……)

改めて、ラビエルの姿を思い浮かべてみた。ラビエルはフェインほど大柄ではないが、かなり長身の部類に属する。淡い色の髪をして、平凡だが優しい顔立ちをしている。
基本的には人形のように無表情だが、微笑むと非常に感じがいい。見た目は普通の青年だった。だが完全に男かというと、どうもわからない。
(ぼくは見かけが男なだけで)

以前、ラビエルがフェインの部屋で風呂に入ったときのことだ。
風呂上りの天使は、作り物めいた、滑らかな脚をしていた。肌の色は際立って白く、正視に堪えないものがあった。考えればそれ自体、異常だった。

(男性型です……生殖器はただついているだけです)
つまり、男の姿というのは、見た目だけなのだ。
(男でもない、女でもない。中性)
それ以外には考えられない。つまりあれは中性なのだ。そんな相手に、フェインが何をしたかというと。

天使に内臓が備わっているかどうか気になって、シートを倒し、全く断りもないまま腹部を触診した。大きな珍しい実験動物のように扱っていただけだが、ひとつ間違えばセクハラだった。
というより、セクハラそのものである。

フェインはめまいを感じながら、どうやって埋め合わせをしたらいいのか、しばらく悩み続けた。


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