坊っちゃんの写真術             H.12.03.29
 グレッグミンスターの我が家に戻ってきた坊っちゃんは、お土産を手にしていた。
「それは?」
「カメラさ。 小さいだろ?」
「本当、ポケットに入りそうですね。 それ持って、またお花見に行きましょうね」
「うん。 その前に、グレミオ」
「はい?」
「こっち来て」
 その笑顔に、不穏なものを感じたグレミオは、無意識に後ずさりしていた。
「早くおいで、グレミオ〜〜〜」
 柄にもない猫なで声だった。
 ますますいやな予感がしたが、仕方なく近寄っていくと、坊っちゃんは一言。
「脱いで」
「……坊っちゃん!! なに考えてるんですか!!」
「そういうことを考えてるんです。ふふふ」
「や、どこさわって……あ、あ、だめですって
「脱げ〜〜〜」

 その口調と手の早さ、懐かしいものを感じてしまったのが運のつきだ。
(テオさまを思い出しますね……)

「どこまで脱げばいいんですか、坊っちゃん?」
 年増の悲しさ、ついほだされるグレミオなのだった。
「全部!」
「ぜ……やっぱりいやです。 どうしてこんなことしなくちゃいけないんですか?」
「今度戦場に持っていく」
「戦場に、って……どうして?」
 どうしてわからないのか、というように、とがめるような目で坊っちゃんは見た。
「……寂しいからじゃないか! お前がいないと! 辛いんだから、おれだって……」

 グレミオはついに覚悟を決めた。
「わかりました! あなたの××××の友になるなんて、光栄です。 私も一肌脱ぎましょう」
「一肌も二肌も脱いで」
「そうせかさないでください。 でも、お願いを聞いていただきたいんです」
「なに?」
「坊っちゃんのお姿も撮らせて下さい」
「それって……仕方ない、わかった」
「じゃ、さっそく」

 脱ぐと決めたら、脱ぎっぷりはいい男だ。
 エプロンを脱ぎ、その下の青いセーターを脱ぎ、薄いシャツに手を掛ける。
 坊っちゃんはそれを逐一写真に収めていく。
 しかし、上半身裸になって、グレミオはつぶやいた。

「……坊っちゃん……私だけ裸になっていくのって、なんだか……」
「いいからいいから。 早くズボン脱いで」
「どうして過程も写すんですか?
「脱がしていくところを想像する」
「……ああ……わかりました……でもそんなに見られると、私は……」
「なに?」
「は、恥ずかしいです……」
「大丈夫だから」

 なにが大丈夫なんだか。
 グレミオはつい、坊っちゃんに背を向けた。
 ためらいつつベルトを外して、ジッパーを下ろすと、心配したとおりグレミオの「さまよえる魂」は半分起ちあがっている。
 坊っちゃんに見られながら一人脱いでいる、それを写真に撮られている。
 こんなことは、一度もしたことがない。 もう、なんて恥ずかしい。
 そう思っただけで、顔に血が昇ってくる。 下半身も充血してしまう。

「背中がきれいだ」
 などと、助平おやじのようなことを言いながら、坊っちゃんはシャッターを切っている。
 下着を下ろしたはいいが、とうとうグレミオは座りこんでしまった。

「こっち向いて、グレミオ」
「……勘弁してください。 こんな貧相な体、写したって……胸もまっ平らで……当然ですが」
「胸の谷間はないけど、お尻の谷間ならあるだろ」
「…………」
「お願いだから」
 グレミオは立ちあがり、坊っちゃんのほうに向き直った。
「みっともないでしょう、坊っちゃん」

 坊っちゃんは黙って首を振り、シャッターを押して、また注文をつける。
「……髪。 ほどいてくれないか?」
「こうですか?」
 情事の前に髪をほどくのは、いつもの動作だった。

「私は、お役にたてそうですか?」
「うん」
「よかった……じゃ、服を着ます」
「ちょっと座ってみてくれるか?」
 グレミオはぺたんと正座し、まさに飼い犬になったような心境で次の注文を待った。
 どうせ次ぎは、自分でして見せろ、と言うのだろう……。
 これって、不幸なんだろうか、幸福なんだろうか?

脚をね、もっと開いてみてくれるか? 全部見えるように、がばあっと
 あまりといえば、あまりの言葉ではないか。
「……坊っちゃん、私」
「なに?」
「実家へ帰らせていただきますっ!!!」
「帰る家もないくせに、ふふふ……」
「あっ、放してくださ……あれっ……ご無体なっ」
「ふふふふ、愛いヤツめ。 こうしてくれる……」
「ん……はあっ……」

 1時間経過。

「で、では、坊っちゃん。 次ぎは私が。 坊っちゃんのお姿を撮らせていただきます
「よし。 いつでも来い」
「では、そのままで。 失礼します」
 ファインダーからのぞいてみると、坊っちゃんはなにやら力こぶを作り、腹に力を入れて、奇怪なポーズを取っている。 これは何のまねだろうか?

「……あの、別にそんなかっこしなくてもいいです。 普通にしててください」
 坊っちゃんは、これもクセで、バンダナを直し始めた。
「ここをこう、押せばいいんですね」
 どうしたことか、いざとなると手が震えてしまう。
「坊っちゃん、やっぱり、その。 前だけでも隠していただけますか?」
「何だ、つまらない」
「お願いします」
 しぶしぶ、という感じでリアムはシャツを下半身にあてがった。
 
(テオさま、申し訳ありません。 あなたの大切なご子息の、玉のお肌を写真に撮るなどということを……付人として失格です……)
「ほら、早く撮れ」
「は、はい」
 決死の覚悟を決めて、息を詰め、グレミオはシャッターを押した。
 
 ……なにも起こらなかった。
 なにやら、じ〜〜〜〜という鈍い音がカメラの中でしている。

「坊っちゃん……これって……」
「あ、ごめん。 いっぱい取りすぎて、フィルムなくなっちまったみたいだ」
「…………」
「ごめんって。そんなに怒るなよ。 またフィルム買ってくるから、な?」
「…………」
「……やっぱ、気分害した? よな?……参ったな……」

 柄にもなく、坊っちゃんはおろおろしている。
 内心ホッとしていたのだが、面白いのでしばらく傷ついたフリをしようと思う、グレミオであった。

END


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