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ドクターストップ         H.12.01.27
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 坊っちゃんは、今日から、道場で棒術を教えはじめる。

 服のしわ、なし。 ほこり、糸くず、なし。 汗拭き用タオル、ちり紙、天牙棍……持ってる。
 前髪のたちあがり具合、完璧。
 過保護にもチェックしながら、グレミオはうれしくてならない。

 坊っちゃんが、いきいきしている。 

 坊っちゃんは、肺炎で倒れたグレミオにかわって、慣れない家事をこなしてくれた。
 それも嬉しかったけれど、やっぱり坊っちゃんは武術をやっているのが一番好きなのだ。
 楽しそうな坊っちゃんを見ると、自然グレミオも顔がゆるんでしまう。

「行ってらっしゃい、坊っちゃん」
「うん。 行ってきます……」
 ふと、坊っちゃんは立ち止まった。
「あ、忘れ物した……」
「何でしょう?  わかりました。 おやつ、ですねっ!!」
「……」

「クッキーがいいですか? それとも、果物? あ、それともチョコレート??」
「ち、ちがうよ! また子供扱いして!」
「……わかってますって。 はい、忘れ物」
 そういって、グレミオはちょっとかがんで、ほっぺにキスをした。
 坊っちゃんはまだ不満そうだ。

「それもちがう」
「え?」
 坊っちゃんは、ぐいっとグレミオの後頭部を引き寄せると、いきなりグレミオのくちびるをふさいだ。 
 しかも、舌を絡み合わせての激しいキス。 それも、五分ばかり。
 それだけで下半身を直撃するような、情熱的なやつだった。
 しまいには、グレミオがへたへたっ……となるまで、それは続いた。
 朝だというのに、相当濃い。

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(坊っちゃんったら、朝から、あんな……いやじゃないけど……)

 やっと坊っちゃんを送り出したあと、掃除をしながら、グレミオはまた赤くなった。
 まだ、体が反応した状態のままだ。
 自分は家の中にいるからいいようなものの、坊っちゃんはこれから、道場に行くのだ。

(坊っちゃんは大丈夫だろうか? 大丈夫じゃないだろうな。……あ、服で隠れるから大丈夫だろうか? でも、思いきり跳躍したときにぱっとめくれたら、思いきり元気な「坊っちゃん」が……!!)

「ああっ、どうしよう!! みんなに丸見えじゃないですか!!」
 思わず叫んでしまった。

「何が丸見えなんですか〜?」
 後ろから、聞き覚えのあるさわやかな声が飛んだ。
 ホウキを持ったまま、恐怖に固まったグレミオの腰を、そいつはそろっと触った。
「グレさ〜ん、朝からエッチですね〜」
「うぎゃあっ」
 振り向きざまにホウキでたたこうとするのを、ホウアン先生が、はっしと受け止めた。
 柔和で知的な顔に、好色な笑みが浮かんで、消えた。

「ひどい人ですねえ。命の恩人を、ゴキブリみたいに扱うなんて」
 眼鏡を直して、ホウアンはかるくにらんだ。

「す、すみません、ちょっと驚いたもので……その節はどうも、お世話になりました……」
 ホウキを構えたまま、グレミオは一応お礼は言った。
 どこから入ってきたのだろう?

 ホウアンは、さっさとテーブルに診察かばんを置いて、言った。
「そろそろ薬がなくなることでしょうから、ようすを見に来たんですよ」
「あ、ありがとうございます」
「一応、胸の音だけ聞いておきましょうか。はい、ここに座って。上、脱いでね
 ホウアン先生は聴診器を持って、にっこりした。

 グレミオは血の気のひく思いだった。

 犯される! 今度こそ、三度目の正直で犯される!
 グレミオは心の中で叫んだ。
 そう思った時点で、すでにして負けているとも知らずに。
 
「いえ、も、もう、大丈夫です」
 冷や汗が、だらだらと背中を伝っていく。

「グレさん、それは医者である私の判断することです。 完治しないままで薬の投与を止めると、ぶり返して、もっと厄介なことになるんですよ!」

 命の恩人の医者に、そう言われると、患者はうなずくしかない。
「じゃ、あとで先生の診療所にまいります……」
「おや、せっかく来てあげたのに。 親切を無にするんですか?」
 先生は、眼鏡の奥の、細い目を吊り上げた。

 グレミオから見ると背は小さいのに、ホウアン先生は、どうしてこんなに迫力があるんだろう。
 その威圧感に負けて、元来気が弱いグレミオは、椅子に座って、上着を脱いでしまった。

「シャツも脱いでください」
 ばしっと言われて、おそるおそるシャツも脱ぎ、上半身裸になる。
 しかし、いつでも逃げられるように身構えたままだ。

「はい、吸って」
「……」
「吐いて」
「……」

 聴診器が、やけに生暖かい。
 そして聴診器を当てるついでに、先生の指も胸に触れている。

 その指が男にしては柔らかくて、暖かい。 それが、今朝坊っちゃんにキスをされて、感じやすくなっているグレミオの胸を、悩ましく掠めていく。

「向こうを向いてください」
 そしてホウアンは背中に聴診器を当てた。
「はい、吸って……」
「……」
「吐いて……」
「……」
「吸って……」
 ホウアン先生の声がだんだん近くなる。 
「もっと吸って……もっと……」
 わけもわからず、グレミオは思い切り空気を吸った。

「もっと……吐いてはいけない……思いきり吸って……もっとですよ……どんどん吸って」
 言われるままに肺に空気をとりこみすぎて、思わず息を吐いたとたん、頭がくらくらしてくる。
 やはり体力が落ちているんだろうか。

「気が遠くなりそうでしょう……いいんですよ……遠慮なく気が遠くなってください……」
 いったい、何をしているんだろう? 
 用心していたのに、気がついたら背後からホウアンに抱きすくめられていた。
 

 ホウアンの生暖かい舌が、グレミオの肩を這いまわっている。
 そして首の側面を、ゆっくりと這いあがる。

 いつのまにかホウアンの手はグレミオの胸に伸びて、いやらしく触り始めた。

「さあ、私が慰めてあげるから……」
「先生……やめてくださ……」
「いいんですよ、グレミオさん。誰にも言いません。私と、あなただけの秘密です……誰にもばれやしません」
「い、いやです、先生」
「私はあなたの命の恩人ですよ……その私の手を、むげにはねつけるんですか?」
「そんなこと言っても、いやなものは、いやなんです」


 どうしてここで動けないのか、グレミオは自分が情けなかった。
 そしておそろしいことに、ホウアン先生は愛撫が上手だった。

 
「ほら、ここもこんなに……悲鳴をあげているじゃありませんか……すぐに楽にしてあげますからね……」
「……!!」
 ホウアン先生の柔らかい手が、すっとグレミオの脚のあいだをかすめ、服の上から柔らかく包みこみ、そして別の生き物のように動き始めた。
 耳もとでささやく低い声と、閉めつける腕の感触が淫らだった。

「この手は、痛めつけるだけじゃないんですよ……だてに名医と呼ばれてはいません……どこにどういう神経が走っていて、どこをどう触るといいのか……それなりに、詳しくってね。 坊やとは一味もふた味も違うはずですよ。 ふふ、なかなか感度がいいですね」

 グレミオは堪えきれなくなって、ホウアン先生の手首をつかんで引き離そうとした。
「冗談抜きでもう、止めてくださらないと……殴りますよ!!」
 先生はいったん放した手を、いきなりズボンのなかに突っ込んできた。
 するどい刺激が、グレミオの背中を走った。
「……あっ」
「誰にもわかりゃしませんよ……黙っていればいいんです」

 グレミオは頭を振った。
「私が知っている……先生が知っている……そして、神様が見ています!」
「神様なんて、どこにもいないんですよ、グレミオ」
 ホウアン先生はもう勝利を確信したのか、呼び捨てにし始めた。
 さらに、グレミオの背中に、体を押し付けてくる。 そして、何か固いものが背中に当たる……
 グレミオは嘆いた。
「……なんて人だ。 あなたが名医だなんて。 この世にはリュウカン先生みたいな、神様みたいなお医者もいるというのに……」
 
 ふと、ホウアン先生は手の動きを止めた。
「リュウカン先生みたいな?」
「以前、会ったことが……あります……ずいぶんお世話になりましたよ……」
 
 突然、先生はグレミオを解放した。
「……まいったな。 私は、リュウカン先生の名前には弱いんだ」
「え?」
「ずっと昔、教えを乞いに行ったことがある。 先生には、本当にお世話になった。 何より医師としての心構えを教えていただいた。 まだ私が若くて、こんなにスレる前ですけどね」
「そうだったんですか……」
「リュウカン先生はお元気でしたか?」
 そう問うホウアン先生は、柔和なものごしの、若い医師に戻っている。
「ええ。 一時は隠居しておいででしたが」

「運のいい人だ、グレミオさん」
 ホウアンは苦笑していた。

「今日はこれで帰ります。このままで放り出すのは気がひけますけどね」

(なんだか知らないが、助かったみたいですね。ありがたい……)

「新しい薬ですが、あとで若いのに持って来させます。じゃ。お大事に」

 ホウアンが帰ったあと、しばらくグレミオは呆然と座りこんでいた。
 それから、立ちあがってドアの鍵をかけた。 それも遅すぎるのだが。

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 道場から戻った坊っちゃんと、グレミオが昼ご飯を食べているときだった。

「ごめんください、グレミオさん。ホウアン先生の使いできました。トウタです」
 ちょっと甲高い、子供の声が呼んだ。

 ドアを開けてみると、ホウアン先生の、まだ幼い弟子が包みを持って立っていた。
 招き入れると、テーブルの上に薬の包みを並べ、よどみない口調で、説明をはじめる。

「一週間分、でています、飲み方は前と同じです。 一日三回、食後にお白湯で飲んでください」

 頭がいいのか、実にしっかりした子だ。
 ホウアン先生も、昔はこんなにきまじめだったのだろうか。
 どこをどう間違って、あんな恐るべき性格に成長したのか。

 しかし、グレミオは坊っちゃんには、何も話さないでおこうと思う。
 そんなことを言ったら、坊っちゃんは先生を、天牙棍で半殺しにしてしまうだろう。

 ついでに、グレミオ自身も、無事ではすまないだろう。
 坊っちゃんはきっと、「何もなかったかどうか、体に聞けばわかるんだ!!」なんて……。
 そんなことを思うと、グレミオはおもわず、ぽおっとなった。
 ……それも、いいかも……

 助手のトウタ君は、小さなチューブと錠剤を指し示して言った。
「それから、この軟膏ですけど、患部を清潔にして一日二回から三回くらい、塗ってください」
 グレミオは、奇妙に思って、問い返した。
「あの? 軟膏? 患部?」
 トウタ君は、顔色も変えずに説明を続けた。

「繊維の多いもの、果物とか、野菜とか、そういう食べ物を摂ってください。どうしても便秘するようなら、この下剤を使ってくださいね」
「???? 便秘??」

「はい、には便秘が一番悪いんです。 あと、座りっぱなしも良くないです。ずっと出血してると、ひどい貧血を起こすこともあるんですよ!」
 トウタははっきり、そう言った。

「……〜?!
 グレミオは思わず飛びあがりそうになった。
 トウタ君ははきはきと答えた。
「はい!  は、ちゃんと治療すると治ります。 重いものを持つとか座りっぱなしとか、その他、症状を悪化させるようなことは、なるべくさけてくださいね」
「そ、そ、そうですか。 それはありがとうございます」


 トウタ君が帰ってから、リアム坊っちゃんは顔を赤らめていた。
「なあ、グレミオ……遠慮しないで言ってくれたらよかったのに。知らなかったよ、その、、に悩んでいたなんて気がつかなかった……おれ……」
「ぼ、坊っちゃん。違うんです! 私はそんなものありません!」
「そうとも知らずおれは、その、悪化させるようなことばかり……ごめん!」
「ち、ちがいますっ!! 何かの間違いですってば」
「じゃ、どうして先生はの薬をよこしたんだ? 相談したんだろ?」
「ちがうっ、ちがうっ、坊っちゃんっっ!! 痔、痔って連呼しないでください、は、恥ずかしいっ」
 必死で否定しつつ、ますます泥沼にはまっていくグレミオは、心の中で叫んだ。
ホウアン先生の、変態!! )

 なかで二人が騒いでいるのを、ドアに耳をつけて、トウタ君は確認した。
 出がけに、ホウアン先生から念を押されていたのだ。
 どんな反応をするか、確認しろ、と。

「ええと、何か、二人すごくもめてました、って先生に報告だ。 それにしても先生。 反応を探って来い、だって?  なんだろう……?」

 やっぱり、わけがわからない。
 首を傾げながらトウタ君はせかせかと歩いていった。
「ま、いいや。 さあ! あと三箇所回らなきゃ!! 忙しい、忙しい」
 とにかく仕事はきちっとやる、のがモットーの、医者の卵であった。
 
END

〜お断り〜
 グレミオさんは恥ずかしい病気であるかのようないいかたをしましたが、これは男女問わず非常によくある切実な病気でありまして、これ、笑い事ではありませんぞ。 
けして恥ずかしくも何ともないのであります!
 
痔を笑うものは、いつかは痔に泣くのであって、グレさんもこんなことばっかしてるといつか痔になるぞ。 切れ痔どころか、ヒ○ヤ大黒堂プ○ザで間に合わない日がいつか来る。
(そんなこといってもねえ……肛○科入るのちょっと勇気がいるし〜)
なんてためらっておいでのあなた、背に腹は変えられません。 健康保険証の用意はよろしいですね? では参りましょう!
(ひえええっ)



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