金返せ!
H.12.02.01
「今日こそは、利息だけでも入れてもらうよ!」
ある日、カミーユはついにグレミオをつるし上げた。
「お、お金がありません……」
「敵から奪った金だってあるだろ!」
「あ、あれは大切な軍資金で、私の自由には……」
「だまれ! 返せないものなら、何で借りたりするのさ!」
「でも、借りた額の三倍以上になってるんですよ?」
「早く返さないからこうなるんだ。 おかげで、あたしは家にも帰れないじゃないか!」
カミーユが無意識に振りまわした腕を見て、グレミオははっと顔色を変えた。
今日、カミーユはグレミオをかばって、また、ケガをしたのだった。
「だからって、私なんかかばって、ケガまですることは……」
「あんたが死んだら、こっちも困るんでね」
「……やめてくださいよ。女の子にかばわれたくない」
「ナマいうな!! このやろう!」
カミーユはついに切れた。
女の子呼ばわりされるのが、カミーユには一番腹が立つのだ。
「返せないんなら、体を売ってでも返せ! それが筋ってもんだ!!」
「そ、そんな」
グレミオは泣きそうな顔になった。
しかしカミーユは、引っ込みがつかなくなって、さらに怒鳴った。
「それがいやなら金目のもの叩き売って、さっさと返しやがれ!」
「わかりました、なんとかします」
「いい返事だ」
その場を立ち去ろうとするグレミオに、カミーユは怒号を浴びせた。
「どこへいく? 逃げる気かっ」
「ちょっとカクの町まで」
「カクヘ行ってどうするんだ」
「多少、返す当てがありますので」
「……返す当て?」
「すぐに帰りますから」
「返す当てって、なんだ?」
カミーユは考えた。
「カクの町に、あいつの知り合いでもいるのか? そうは思えないが」
どうも気になる。 グレミオは、何をして金を作ろうというのか?
「泥棒をするようなやつじゃないと思うが……ええい、わからない」
気がついたら、地階に来ていた。
黒髪の女の子が、無邪気な目を輝かせて、話しかけてきた。
「あ、こんにちは〜。 どうしたの? カミーユさん。 ぽけっとして」
カミーユはふっと力が抜けた。
苦笑しながら、言い返してやる。
「うっかりテレポート専門の、あんたには言われたくないよ、ビッキー」
「もお、すぐ怒るんだから」
「あのな……頼みがある。 カクの町へ、飛ばしてくれないか?」
「お安いご用よ。 そおれえっ」
「あ、おい! ちょっとまて……うわっ」
!!!!!
つぎの瞬間、カミーユは思いきり、しりもちをついていた。
「う〜っ、いててて……全く、ビッキーのヤツ……」
見まわすと、なんと、ちゃんとカクに着いたらしい。
ビッキー、久々の快挙だ。
グレミオはどこに行ったのだろう?
いや、どこに行って、何をしようと、それはヤツの勝手だ。
金さえ払ってもらえば、それでいいのだ。
「しかし気になる。 なんでなんだろう? 今日に限って……素直に払う気に?」
何か言っただろうか? 自分は……?
『返せないんなら、体を売ってでも返せ! それが筋ってもんだ!!』
「……は、は、は。 あいつが本気にするわけ、ないじゃないか。 ……ふん」
しばらく歩いて、カミーユは、町の男を捕まえて尋ねた。
「ちょっと尋ねるが、髪の長い、背の高いヤツを見なかったかい? 緑のマントを着た……」
「?」
「頬に、でっかい傷のある男だ。 髪は金髪で、こう、ひとつにくくって……」
「ああ、あの色っぽい兄ちゃんか。 向こうの一軒家に歩いていったよ」
(あいつのどこが色っぽいって? あたしだって言われたことないのに!)
内心むっとしながらも、カミーユはせいいっぱい愛想よく尋ねた。
「それで、そいつは、一人だったかな?」
「なんだか、すけべそうな中年の男と一緒だったよ」
「そ、そうか。 ありがとよ」
(すけべそうな、中年の、男?)
カミーユの頭は、もう危ないイメージで、爆発寸前だった。
(まさか、本気で身売りってか!?)
その一軒家は、すぐに見つかった。
カミーユは背伸びをして、高い窓からのぞきこんだ。
(ここで、あの人相悪いやつが売春なんてしてたら……けっ。 しゃれにならないぜ)
目をこらして、中をうかがう。
(いた……!)
グレミオは小さないすに腰をかけ、マントは脱いでいた。
背後に太った男が立っていて、グレミオの髪を束ねていた紐をほどいた。
そして、いやらしい手つきで、長い金髪をもてあそび始めた(ようにカミーユには見えた)。
「ば、ばかやろうっ!!!」
カミーユは窓から飛び降り、全速力でドアに走った。
幸いカギはかかっていなかった。
カミーユはまさに、突入したのだった。
飛びこんできた珍客を見て、お守と中年男は、ぎょっとした顔になった。
「カ、カミーユさん?」
「くおんのやろおおおっ!!!!」
カミーユは、太った男に突進していった。
「ひいいいいいっ」(←中年男の悲鳴)
「わああっ、だめですっ、カミーユさん!!」
ばきいっっ!!
中年男をかばうグレミオに、カミーユの痛烈な右ストレートが決まった!!
「はあ、はあ、はあ……」
気がついたら、グレミオがしりもちをついていた。 顔はしっかり、あざになっている。
「いたた……カミーユさん、いきなり殴るなんて〜」
「くっ……とにかく、来るんだ!!」
「え? まだ……」
「来い!!」
「え? え?」
もたもたしているお守を引きずって、カミーユは走った。
「も、もう放してください、カミーユさん」
「いいや、城につくまで逃がさねえぞ!」
「私が何をしたっていうんですか?」
「いいか。あたしは親を早くになくして、すごく苦労してきた。 でもどんなに困ったって、カラダを売ったことだけはないぞ!」
呆然と、お守は見下ろしていた。
「……へ?」
「そりゃ、売春したら、てっとりばやく稼げるだろうさ。でもな、それをやっちゃあだめだ!」
「カ、カミーユさん」
「自分を安売りするな。 あんたらしくないぞ」
お守は、何とも妙な顔をしていた。
「あの。 まさか、カミーユさん……私が、売春してたと思ってませんか?」
「違うのか?」
「ち、違います! どこをどうたたいたら、そういう考えが……ひどいですよ!」
「だったら、何をしてたんだよ?」
「あの人は、かつら職人です。 いい値段で、髪を買ってくれるんです。 だから、この髪を売ろうと思って」
「……髪!」
「そう、髪です。 売れば、利子分くらいにはなるっていうんですよ」
「カミ……」
カミーユは(しゃれではない)気が抜けて、へたへたと座り込んだ。
「あの、カミーユさん。大丈夫ですか?」
「紛らわしいことしやがって!!」
「すみませんでした」
「長いことかかって、伸ばしたんだろう?」
「はい。 でも、これは自分の好みじゃなくてね。 長い髪を、好きだといってくれた人がいたから、ずっと切れなかったんです。 それだけなんです」
カミーユの胸の底が、ちりっとなった。
そいつは、女だろうか。 しかし、野郎の長髪を、好きな女なんているのか?
グレミオは紐を口にくわえると、手早く髪をまとめあげた。
「でも、もう伸ばす必要もなくなったから、短くしようと思ってはいたんです」
どうやら、ふられたらしい。
こいつ、けっこう情けないもんな。
「手間がかからないように、五分刈りくらいにしようかなっと思って……」
「ご、五分刈り!」
「とにかく、お金は少しずつ返しますから、カミーユさんも危ないことしないでくださいね」
お守は、にっこりした。
取立て屋に、情けは禁物だ。
だが、今日は無性に聞きたくなった。
「あんた、何で借金なんかしたんだよ?」
グレミオは、ちょっと顔を赤くした。
「その……最後の晩餐、のツケですね」
「何だ、そりゃあ」
「リアムさまのお父上と、リアムさま、そして私たちの、最後の夕食です」
「百戦百勝将軍か」
テオ・マクドール、帝国軍で最強の男。 今は敵だ。
「テオさまとリアムさまに、最高のものを食べていただこうと思って、つい」
「一回のめしに、あれだけの大金をぶちこんだのか!?」
「そうです。 でも、後悔なんてしてませんよ」
「あきれたな……貧乏人のぜいたくか」
「坊っちゃんの、陛下との謁見のお祝いでしたからね。 晴れて大人の仲間入り、ということで。 それと、テオさまの壮行会を兼ねて……ちょっと危ないところへ、赴任なさることになったから」
「ふうん」
「私たちはもう、二度と会えないかもしれない。 でもあのとき、リアムさまは喜んでくださったし、テオさまは……私の料理をまた食べるために、生きて帰りたい、とまでおっしゃって……」
お守はそこで、遠くを見る目になった。
両手でわれとわが身を抱きしめ、もちろん目の中には星が散っている。
「ああ、私は、この世に生まれてきてよかったと思いました……」
「こ、こいつはっ……なにものなんだ?……」
グレミオはどうしたことか、カミーユにかまわず自分の世界に浸っているようだ。
心なしか、目も潤んでいる。
「テオさまが、元気でな、と私の頭をなでてくれた、あの手の暖かさを、今でも忘れられません……きっと生涯、わすれないでしょう……」
「ぐはあっ……おい……そこの兄ちゃんよ」
「はい?」
一瞬、カミーユの存在すら忘れていたらしい。
なんてヤツだ。
カミーユは頭をかいた。
「ま、いい。 とにかく、城に帰るぞ」
「あ、でも……髪を」
「切らなくていい。 あんた髪を伸ばしてるから、ちっとはコワモテに見えるんだよ。 短くしてごらん、かえって、にらみが効かなくなるって」
「そうでしょうか?」
「付き人っていやあ、用心棒みたいなもんだろ? せめて見かけだけでも強そうにしてな」
「…………(言い返せない)」
「とにかく、髪は切らなくていい。ほら、勝手に切ると、リーダーが怒るぞ」
グレミオは意外そうな顔で、長い髪をひっぱった。
「コワモテ、ねえ……そうだったのか」
切るなよ。
あたしも、いがいとあんたの髪、気に入ってるんだからね。
その言葉は、もちろん口にはしなかった。
カミーユは、つん、とすまして、歩き始めた。
END
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