男の子の鍛え方    H.12.05.14

グレミオの手記。

 もう何年も前のことだ。
 ある日、あるじのテオさまが、坊っちゃんの洗濯物をたたむ私に、
「男の子の下着は、こういう締め付けるようなものはよくない」 とおっしゃった。
 坊っちゃんのパンツは、子供向けの白いメリヤス製だ。 将軍の息子だからと言って絹のパンツなんかはかせているわけではない。 
 マクドール家の家風は、なんといっても質実剛健なのだから。
 今お気に入りなのは、ムクムクの絵のついたかわいいもので、坊っちゃんはすすんでお着替えをしてくださる。
 それでいいんじゃないかと思ってたんだけど。

「締め付けてますか? ふつうの子供用パンツですけど……」
「ナニの発育によくないのだよ。 パンツの中で自由にぶらぶらするくらいの、ゆったりとした通気性のよいものが好ましいのだ」
 私はつい顔を赤らめたと。
「は、発育って……だってテオさま、まだ坊っちゃんは7歳……気が早くないですか」
「もう7歳だ。 あと4年もすると男になるぞ」
「ええええ〜〜〜〜!!!」
 しまった。 過剰に驚いてしまった。
「なんだ、その驚き方は」
「い、い、いえ。 テオさま。 なんでもありません」

 あの天使のように可愛らしいリアムさまが……テオさまみたいに……男になるって……とても想像できない。 というか、想像したくない。
 それに11歳で大人になるもんだろうか。 私は14歳ごろやっと大人になったというのに。 それとも私が遅すぎたんだろうか!!
「ところで、グレミオ」
「は、は、はい」
「お前は何歳ごろ……」
「し、し、下着のこと、わかりました。 締め付けない、ゆったりしたのを探します」

 むっとして、テオさまは私の両頬の肉を左右に引っ張った。
「人の話を聞け、こら」
「…………ふぁい」
「何歳ごろ男になった、お前は」
 ああ、やっぱり。 素面なのにどうしてこうすけべなんだろう、テオさまは。
「あのですね、たぶん14歳ごろじゃないかと思うんですね。よくおぼえてませんけど」
「うそつけ。 遅すぎるぞ」
「う、うそじゃないです。 自慢になることじゃないでしょう」
「ふうん……お前は背が高かったが、痩せすぎてたからな」

 それ以上追及されたら、私は困っただろう。
 ちょうど4年前、私は14歳だった。
 この家に奉公に上がるようになったころ、つまりテオさまに毎日顔をあわせるようになって、ある夜テオさまの夢を見て………………。
 わあああ、恥ずかしい! 死んでもいえない、テオさまにはこんなこと。

 それなのにテオさまは、私の顔を見てにやりとした。
 ああ、いやな予感がする。
 私はあわてて立ちあがった。
「わ、わかりました。 テオさま、私がはいてるようなのを坊っちゃんにも作ってさしあげましょう。 簡単ですよ」
 私は幼いころから、牧師さまの奥さまに、実用的な裁縫を教わった。
 大量に木綿地を寄付されることがあり、他の孤児たちや、牧師さまの下着やらシャツやらを、いろいろ手縫いしたのだ。
 器用だと奥様に誉められて、とてもうれしかったことをおぼえている。
 帝都に来るまで、私は買った服なんて着たことがなかった。 たいてい丁寧に繕ってあるお下がりか、自分で型紙を切って作ったものだった。
 パンツなら、一晩にニ枚くらいは縫える。 そういうのを私は使っているのだが、大きさを加減すれば坊っちゃんもはけるだろう。

「縫うのか?」
「はい。 このへんでは、子供用のそういうのは売ってないですからね」
「そうか……」
 話はそれで終わったと、私はほっとした。 子供らしくてかわいい布を買ってきて、足さばきのいい、着心地のよいものをつくって差し上げよう。
 生地をかわいくしたら、おやじっぽくはならないだろうから。
 テオさまの言うとおりかもしれない。 そのほうが健康にもいいだろう。

 しかし、ご主人様はまだ用があった。 きれいな化粧箱を私に差し出して、こうおっしゃったのだった。
「ところで、グレミオ。 これはお前にみやげだ。 開けてみなさい」
「は、はい、テオさま。 ありがとうございます」
「お前も帝都にきて4年だ、仕事にもなれただろう。 これからは少しおしゃれもしなさい」
 めずらしいこともあるものだ。
 なにかおみやげというときには、みんなにひとりひとり渡すのに。
 箱を開けると、きれいな布のかたまりが五枚入っていた。 ハンカチだろうか。
 私はきれいな薄い緑の布きれを手にとって、広げた。
 とても柔らかくて薄い、もしかして絹物かもしれない。
「テオさま。 これは」
「見てわからないか。 パンツだよ、君」
「ぱ、ぱんつ。 これが?」
「男は見えないところにも気を使うものだ」
 うわ〜〜〜〜!!(涙)
 薄い、細長い布と、リボンを縫い合わせただけの、これが、パンツ?
 これじゃ前はともかく(いや、前だって頼りないぞ)お尻が丸出しじゃないか。
 これでどこをどう隠せと……薄いし小さいから、洗って乾くのは早いかもしれないけど。
 楽園を追われたアダムが着けたという、イチジクの葉ももう少し大きかっただろう。
 もう、締め付けるのなんのという問題ではない。 はいているといえるのか、これで。
「お前がいつもはいてるのは、色気がない」
「あ、ありがとうございます。大切にします」
「大切にするものではない、日常に使わなければ意味がない」
 そうはいうものの、恥ずかしくてこんなもの、はけない。 横から見えちゃうじゃないか。 こぼれたらどうするんだ、ぽろっと。
 そりゃ、いつも服を着てる分にはどうってことはないんだろうが。
 着替えのとき自分が見るじゃないか。 ああ、なんて恥ずかしい……。

「まだあるだろう、見てごらん」
 ううう、変態。 私は恥ずかしさで死にそうになりながら、おそるおそるもう一枚手にした。
 今度のはもうすこし大きめの黒いやつだった。 問題は生地が微妙に透けててイヤらしいことと、もうひとつ。
「テオさま、これ。 なんでしょうか……」
「下着だよ」
「だって……これ、あの。 うしろに……縦に穴があいてます…………」
「だから、これでいいのだ。」
「……………………」
 その瞬間、私の疑問は解けた。 
「なんなら今ここで着てみるか?」
 ひえええええっ!!!
 私は立ちあがって、脱兎のようにその場を逃げ出した。

 気がつくと、私は部屋の中で、それでもテオさまにもらった箱はしっかり手に持っていた。
 ああ、その辺にえっちな下着をとりこぼしてきたんじゃないか。
 そうだったら、恥ずかしさで死んでしまうかもしれない。
 …………大丈夫、五枚ある。 持ち物には名前を書いておかないと……。
 …………この布に「グレミオ」なんて縫い取りをするのか? 洗って外にも干せないような代物に? 恥ずかしい!

 ひとりで煩悶しながら、おそるおそるもらったモノをもう一度見てみた。
 とくにこの、黒くて穴の開いているやつだ。
 これを着てテオさまの部屋に行くのか。 それから一枚一枚脱がされて。
 ズボンをずるっと下ろされたら、これをはいただけの姿に……でもこの一枚は脱ぐ必要がない……そんなことを考えただけで、私は……………………………。



 ああ、いけない! 坊っちゃんをお迎えに行く時間だ!
 顔を洗って、にやけた顔を引き締めなくては!


 翌日、坊っちゃんを学問所へ送ってから、さっそく私は生地屋に行ってみた。
 偶然、棚卸とかで大安売りをしている。
 1メートル500ポッチが、今日は7割引きだと書いてある。
 手にとってみると柔らかくて、薄手だった。 タコさん柄、ムクムク柄、水玉、といろいろあった。
 これはいいものかもしれない、と私は思った。
 試しに何種類か買って、私はお屋敷に戻った。
 お天気がよかったので、さっそく水をくぐらせて生地の糊を取った。

 一日の仕事が終わって部屋に引き上げてから、私は坊っちゃん用の型紙を切った。 それから、丁寧に裁断をして、細かく手縫いをしていった。


 翌日の夜、お風呂上りに、タコさん柄の新しいパンツを出しておいた。
 坊っちゃんは案の定、それを見てびっくりした。
「これ、どうしたの?」
「グレミオが縫ったんですよ。 今日から、これを着てくださいね」
「すごいや。 でも、どうしてタコさん?」
「かわいいでしょ。 ムクムク柄もありますよ」
「う、うん……ムクムクは好きだけど。 でもタコさん……」
 坊っちゃんは、どうもタコさん柄は引っかかるみたいだった。
 それでも、やさしい坊っちゃんは、いやな顔もせずはいてくれた。
「ぴったりですね!」
「うん。 なんだか、かっこいい! オトナみたいだ」
「今度またふたりで布を見に行きましょうね。 坊っちゃんの気に入った柄で作りますから!」
「やったあ!」
 ああ、この天使の笑顔。 心が洗われるようだ。
 どうかどうか、もう少しだけ子供でいてください…………。


 あれから何年経ったか。
 もちろん、坊っちゃんは子供のままでなんかいてくれなかった。
 私たちは今、ミューズという町で住んでいる。 毎日幸せだけれど、お若い坊っちゃんはとても激しいので、ちょっとだけ大変だ。
 テオさまのおいいつけとはいえ、坊っちゃんの発育に気を使ったことが、自分の生活に直接(本当に直接だ)関わってこようとは。
 あのときは夢にも思わなかった。
 天国のテオさまがこれをご覧になったらなんとおっしゃるだろうか。
 きっといい顔はなさらないだろう。


END

 兄ちゃんが夜なべをしてパンツを縫ってくれた〜〜♪


テオグレの部屋へ戻る