薄幸の男のエピソード H.12.03.07
フリックは常々思うのだが、「おれにはどうも運がない……」。
たしかに、かれはあまり運がいいほうではない。
最愛の、美しい恋人(オデッサ)も、あっけなく死んでしまった。
そのことからして、まず運がない。
「しかしおれには、オデッサ(剣の名)がある!!」
確かに剣の腕は確かだ。
テクニック(剣の、テクニックである)も、また素早さも(手の早さではない)もある。
おまけに魔法の腕も確かで、戦闘中に敵に落とす雷はすごい。
なかなか、使える男なのだ。
おまけに彼には、親しみやすく、わかりやすい美貌がある。
となりのお兄さん的、土臭さと乳臭さとを残した甘いマスク。
女の母性本能をかきたてずにはいられないだろう。
本人は気がつかないふりして、もちろん十分そのことは知っている。
老若男女を魅了するタレ目も、愛敬があるって評判だ。
適度に背も高くて足が長く、おまけにほどほどに筋肉質で細身である。
とどめは、子供のころからの労働で鍛えたヒップライン。
女にもてる条件はそろっている。
エピソード1、(元祖)美青年攻撃ができるまで。
3人でセットの美青年攻撃。
もちろん、かっこつけ激しいフリックは抵抗した。
解放軍リーダー、リアム・マクドールも、フリックがけっこう繊細であることを知っている。
だから頭ごなしに決めつけたりはしない。
「だから、フリック。恥ずかしがらないで、やってくれよ」
「い、や、だ!! 美青年攻撃なんて、こっぱずかしくってできるかよ!!」
三人の中で駄々をこねているのは、もはやフリックひとりだった。
年下のリーダー相手にごねるのも、大人げないのだが。
美青年そのニ、黒髪の「火炎将アレン」は、マナジリを決してこう宣言した。
「フリックどの。 上官の命令は絶対だ。 リアムどの、テオ様のご遺言に従い、解放軍に参加したからには、私は美青年攻撃だろうが皿回しだろうが、なんでもやって進ぜよう!」
「アレンに同じく。アレンと一緒なら、おれはホスト攻撃だろうが、女装攻撃だろうがかまわん」
その横で、美青年その三、「雷撃将グレンシール」が、茶色の髪を掻き揚げる。
どうやら、熱いアレンがかわいくてならないようすである。
「ありがとう、アレン、グレンシール。 大いに期待しています」
解放軍は、個性的な人材に富む。
リアムはもはや、これくらいでは動じないようだ。
たまりかねて、フリックはうなり声を上げる。
「おい、さっきから聞いてれば。 ホストに、女装に、皿回しだと!? てめえにやれるのか? え、やれるのかよ!?」
グレンシールは、つりあがり気味の鋭いまなざしをフリックに向けて、
「ではお聞きするが、フリックどのはおれたちと一緒では困ることでもあるのか? もしや、おれたちの速い動きについてくる自信がないのではないか?」
「フリックどの、ご安心下さい。 われわれは、フリックどのに合わせますから!」
「なんだとっ」
二人のエリート軍人的なことば遣いが、またまた地方人フリックには気にさわるのだ。
リアムはついに切り札を出した。
「承知してくれたら、フリックには防具を新調する! これでどうだっ!」
「乗った!!」
結局、モノで釣られたのだった。
エピソード2、お風呂にて。
時は流れて、解放軍の勝利も見えてきた、ある日のことだった。
フリックは夜遅く、ひとりきりで風呂につかっていた。
もちろん、某風来坊と仲良く、いろいろえっちなことをして、すっきり満足した後である。
一緒に風呂に入ると何かと不都合、つまりまた、あれだ、えっちをしたくなるので、そのあとは必ず別々に湯を浴びることにしている。
ところで、風来坊は見た目でわかるように、あっちのほうも強くて、なかなかイカナイ男である。
「一緒にイこうね」っていったのに、いつも「フリックが待たされて」、小さなベッドがぎしぎし鳴るのであった。
ともかくフリックは、先ほどのえっちの(しつこいぞ)余韻もあって、お湯の中でも機嫌よく、鼻歌の一つも出たりする。
そうしていると、したたかに酔っ払った湖賊トリオと漁師組ペアが入ってきた。
フリックにとっては、ちょっと苦手な五人である。
タイ・ホー親分と湖賊のカナック、レオナルド、アンジーはみな年上で、数々の修羅場をくぐり抜けてきた男たち。 フリックなんか、小僧扱いだ。
そして金髪のヤム・クーは、同い年であるのが信じがたいほど、落ち着き払っている。
まず湖賊のカナックは、「こんちは」しか言わない、にこやかだが底の知れないヤツだ。
湖賊リーダーのアンジーはフリックより背が高く、ちょいといい男だが、
「フリックさんよ、青い鉢巻といい二枚目ぶりといい、おれたち兄弟みたいに似てるな!!」
などというので苦手だ。
これは鉢巻じゃなくて、バンダナなのだから。
その手下のレオナルドもすっかりできあがっていて、げらげら笑い続けている。
風呂の中でも真っ赤なカツラをかぶっているし。
(こいつら、謎だ)
フリックはさっさとあがることにして、かけ湯をした。
そして「じゃ、お先に」と声をかけて、湯船から上がったレオナルドの横を通りすぎようとしたまさにそのとき、不幸はおこった。
湖賊のレオナルドは、フリックに輪をかけて、運がない。
しかも酔っていて、足元が不確かだった。
「おわっ!!」
レオナルドは、足を滑らせたのだ。
勢いで真っ赤なカツラが飛ぶ。
大理石の床に、したたかに頭を打ちつけるかと思われたせつな。
レオナルドの酔眼の前を、つかむに都合良さそうな、取っ手のようなものがよぎった。
そしてそれは、日ごろ見なれたものであるようだった。
しかし、おぼれるものは、ワラをもつかむ。
とっさにそれに手を伸ばしたからといって、いったい誰が責められようか。
そして、ああ、フリックにとってあまりにも不幸なことに、レオナルドは力が強かった。
無防備な姿をさらしたフリックは、とっさのことでよけられない。
とてつもない災難が自分に降りかかろうとする今、これまでの人生が走馬灯のように彼の脳裏を駆け巡る。
ああ、やはりおれには運がないのだろうか。
教えてくれ、今は亡き恋人よ。
フリックは直立不動で、うめくのだった。
「くっ……オデッサ……!!」
美男、薄命。
終わり。
フリック、マイダーリン。愛してるわ〜〜。(オデッサより)
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