Home Sweet Home 5   01/4/14
………桜の花びらを食べてみた。 はかない舌触りでかすかに苦くて、
………ほんのすこしだけ、薄い精液のようなにおいがした。


 今日は日曜日だ。
 健太はおとなしく、今朝録画したばかりのアニメビデオを見ている。
 おれは台所に立って、弁当を詰めていた。
 弁当といっても、握り飯とウインナーソーセージ、ゆで卵と果物くらいのものだ。
 きのうの晩ご飯ののこりの、とりのからあげを軽くレンジして、これも詰める。

 健太はアニメにも飽きたか、所在なげに寄ってきて、おれの太股にしがみつく。
「ね〜ね〜パパ、ママどこお?」
 一年間寮育園に通い、おかげでかなりしゃべれるようになった。一年前は「どうぞ」しかいえなかったことを思うと、雲泥の差だ。
「ママはお出かけです」
「ママ、お出かけ?」
 健太は納得するまで、何度も質問を繰り返す。こっちは何度も同じことを答えてやる。
 子供が納得するまでだ。

 妻はいつのころからか、学生時代の友達と食事に行くようになった。
 一月にいちどくらいだろうか。
 そのあいだはおれが健太をみている。
 多少は、妻のストレス解消になるだろうかと思っている。 そのせいばかりじゃないだろうが、泰子は少しだけきれいになった。

「ママはお友達とお出かけです。夜には帰るよ」
「おでかけ?」
「うん。健太がいい子でいたら早く帰るからね。健太はパパと動物園に行こうね」
 動物園と聞いて、健太は顔を輝かせた。
「ね、健太君はパパと、お弁当持って動物園に行こうね」
「どうぶつえん、行く。象さん、熊さん、キリンさん、ゴリラっ」
 健太はそう叫ぶと、自分のコートを着て、野球帽を被り、しまいに玄関で靴を履き始めた。
「パパ、おいでおいでっ」
「あ、あ、ちょっと待ってね」
 おれは大急ぎで、バスケットに弁当箱と水筒を放り込んだ。 
 健太を見ると、なぜか仮面ライダーのベルトを持っている。
「健太君、変身ベルトは置いていきなさい。無くしちゃうよ」
「変身! けんたくん、クマやっつける!」
 健太は外出するときには、何か持っていると不安になるのだが、言い聞かせてやめさせるようにしている。
「やっつけたらだめだよ。熊さん何にもしないのに、かわいそうだろ。ベルトは置いていきなさい」
 健太はしぶしぶ、変身ベルトをはずしておもちゃ箱に持っていった。

 そうだ、今度、家族三人でお城の公園に行こう。 散る桜の下でお弁当広げて……。
 本当におれは幸せものだ、一時は離婚されかけたことが、まるで遠い昔のようだ…。



 布団の中で、大好きな人の奥さんが眠っている。 満ち足りた寝顔だ。
 丸い肩が冷えないように、ぼくは両腕の中に、すっぽり泰子さんを包んでいる。

 唇を半ば合わせてぼくと抱き合ったまま、泰子さんは眠りつづけ、15分くらい経ったころ、ふと身じろぎして目を覚ました。

「あれ……あたし寝てた?」
「うん、かわいい寝顔だった」
「ごめんね」
「いいさ、よかったんだろ。 だから眠くなったんだ」

 それに、活発な健太の相手で、疲れてるんだろうし。
「でもね、ずいぶんいい子になったのよ………」
 
 ぼくが小川さんの家に出入りするようになって、はじめは泰子さんも打ち解けなかった。 というか煙に巻かれていた……この男はなに? とぼくを見てたもんだ。 
 そりゃそうだろう。
 仕事がえりに酔った亭主を送ってきたまま、家に帰ろうとしない部下なんて、うざったいにちがいない。

 でも健太は、すぐにぼくになついてくれた。
 そして名前を覚えてくれた。
 はじめは「ひろき」と言えなくて、「ひどき」と読んだけど。
 
「びっくりしたわよ。 大樹が来るようになって、どんどん言葉が出るようになったでしょ。それまでほとんどしゃべれなかったのよに……お礼のいいようもないわ」
「ならお礼してね、体でね」

 ぼくは泰子さんの熱を持った胸に顔を埋め、湿った体の中心に指を滑らせた。
 何度でももぐりこみたい。 大好きな小川さんのとおった後に、自分の分身を滑り込ませたい。

 小川さんが好きだ。

 小川さんが愛しいから、小川さんの妻も愛しいし、息子も可愛くてたまらない。
 こうやって泰子さんを抱いて、それから小川さんをこの腕に抱きしめたい。
 ぼくは、欲張りなんだ。 みんなほしいんだ。

「ねえ、泰子さん、 昨日は小川さんとえっちした?」
 唐突な問いに、泰子さんは絶句する。
「え?」
「だから、昨日小川さんとセックスした?」
 泰子さんは笑い始めた。 
「変なこと聞くのね。 したわよ。 でもどうして?」
「中出しした?」

 ふふ、したわよ、と挑発するように泰子さんは返す。
「排卵日だもの……なかなか妊娠しないけど、数撃ちゃ当たるかなってね……」

 ぼくは泰子さんにキスしながらこういった。
「じゃあ、おれも中で出したい」
「なに言ってるの」
「でもって今夜も小川さんとしてほしい。 小川さんとおれの子を産んでくれよ、泰子さん」
「あのね、大樹くん、すごくへんよ。 ねぼけてない?」
「ねぼけてないよ。 へんなのはもともとだよ」
「誰の子かわからない子供を産めって言うの、あたしに」
「両方の子供だよ。 みんなの子供だよ。 おれと小川さんと、泰子さんの子だよ。 だっておれたち3人で愛しあってて幸せなんだ、3人で子供作ってもいいじゃない……健太の弟か妹かをさ」

 自分でもめちゃくちゃな、そしておそろしく不道徳なことをいってるのはわかる。
 でも世の中なにが起こるかわからないじゃないんだ。 意思の力が強ければ、不可能も可能にかえるってもんだ。

 不思議な生物を見るように、泰子さんはぼくを見ていたが、やがてあいまいな笑いを浮かべてこういった。
「そういえばそうね」
 
 そうしてぼくは、小川さんの妻に濃い子種を授けるべく、無抵抗の泰子さんに手をかけた。

END


トップへ戻る