第27回 瀬戸内海タートルマラソン大会
2006年11月26日(日)、小豆島において第27回瀬戸内海タートルマラソン全国大会が開催された。毎年出ているこのレースでは、僕はハーフマラソンの部に出る事が多いのだけど、今年は久しぶりにフルマラソンに出た。
これには理由がある。それは半年ほど前の事だった。
(石材店)「て、て、て、てぇへんだ、てぇへんだっ!
来年の2月に、お江戸のど真ん中で市民マラソン大会が開催されるって話ですぜ」
(幹事長)「なにっ?江戸のど真ん中でとなっ!そりゃあ、一大事だ。さっそく申し込もうぜっ!」
この東京マラソンは、東京のど真ん中で開催される誰でも参加できる市民マラソンとしては、初めての試みだ(と思う)。しかも、制限時間が7時間もあるので、早足で歩けば、ほとんど走らなくても完走(完歩)できるという優しいレースだ。いや、もはやレースとも言えない。東京のど真ん中を散策できる楽しいイベントだ。これに参加せずにいられようか。
(石材店)「ところが、だんな。参加者数に定員があって抽選らしいですぜ」
(幹事長)「なーに、そんなものへっちゃらよ。どの大会でも定員なんて書いてるが、
実際に締め切ったとか抽選をしたって話は、とんと聞かないぜ」
だいいち、定員ったってフルマラソンの部は25000人だ。これだけ余裕があれば、へっちゃらだ。てなことで、私と石材店とピッグとテニス君の4人でさっそく申し込んだ。抽選の結果は10月に通知があるとのことだったが、全く気にもせず、すっかり行く気まんまんで飛行機や宿の心配をしていた。そして、久しぶりのフルマラソンを走るということで、やる気まんまんで気合いを入れていた。
そしたら10月になって、大会事務局からメールが届きました。「東京マラソン 抽選結果のお知らせ」というタイトルで。「うふうふ、ようやく着たか」と開けてみると、1行目に「東京マラソン2007 抽選結果(落選)のお知らせ」なんて書いてある。一瞬、意味が理解できず、目がくらくらしちゃった。「こら、えらいこっちゃ。僕だけ落選だなんて、なんて運が悪いんだ。余りにも悲しすぎる悲劇だ」と慌てて連絡を取ると、石材店もピッグもテニス君も揃って討ち死に。それだけじゃない。他にも関係者に当たってみると、新城プロも落選しているし、周辺の関係者計7名全員が落選だ。
慌てて情報を集めてみると、定員の3倍ほどの申込があったとの事。T電のUさんの情報では、所属している会の仲間では1/3ぐらいの当選率だったそうなので、やはり競争率は3倍程度だったのだろう。そうすると、我々の周辺で7人が揃って落選するって事は普通ではあり得ない状況だ。確率を計算すれば、2/3の7乗で6%くらいだ。
(幹事長)「ありえんっ!ありえなさすぎるっ!これは陰毛だ。いや、陰謀だ。田舎者を排除しようという石原都知事の陰謀だ。
四国からの参加は認められないってことかっ!」
(石材店)「当選しても都合で辞退した人がいれば追加当選があります。
たぶん、かなりの追加当選者が出ると思いますから、取りあえず、それを待ちましょう」
しかし、結局、追加当選のお知らせも来なかった。T電のUさんは追加当選したそうだ。
(幹事長)「くすん。やっぱり田舎者は排除かなあ」
さて、このような経緯で、突然盛り上がった東京マラソンは、一気にしぼんでしまった。しぼんではしまったが、せっかくフルマラソンに出ようと意気込んでいたのが不完全燃焼でモヤモヤしてしまったので、いつもはハーフマラソンの部に出ている小豆島タートルマラソンに、今年はフルマラソンの部に出ることにしたのである。もちろん、石材店とピッグとテニス君も同じ運命だ。
石材店は去年、初めてこの大会に参加し、ハーフマラソンの部で快走を見せたが、ピッグは初参加だ。
(石材店)「幹事長がこの大会でフルマラソンを走ったのはいつでしたっけ?」
(幹事長)「6年前と5年前に連続で出たな」
(石材店)「結果はどうやったんですか?」
(幹事長)「なんと情けない事に、2年とも5時間の制限時間をオーバーしてしまったのよ。思い出すのも悔しい日々」
(ピッグ)「そんなに厳しいコースなんですか?」
(幹事長)「坂が片道7つ、往復で14ある。ハーフマラソンなら半分だけど」
(石材店)「去年、ハーフマラソンを走った限りでは、坂はあんまり苦痛には感じなかったけどなあ」
そうなのだ。かなり厳しい坂があるんだけど、僕もハーフマラソンの時は、あまり負担に感じない。そのためタイムは、坂が全く無い丸亀マラソンのタイムと、あまり変わらないのだ。春のオリーブマラソンの方が坂は少ないんだけど、はるかにタイムは悪い。
(石材店)「人によって向き不向きがあるみたいですねえ。
中山選手はオリーブマラソンは異常に早いけど、去年のタートルマラソンは惨敗でしたからねえ」
なので、割と好きなコースなんだけど、これがフルマラソンになると、終盤は坂が異常に厳しく感じられてきて、上り坂では間違いなく歩いてしまうようになるのだ。
(幹事長)「今年はなんとか歩かずに制限時間内で帰ってきたいなあ」
今年は、このほか、去年からマラソン界に復帰した佐伯先輩もフルマラソンを走る。佐伯先輩には、去年の屋島一周クォーターマラソン以来、小豆島タートルマラソン、丸亀マラソン、小豆島オリーブマラソン、高松ファミリー&クォーターマラソンin庵治と、実に5連敗中だが、恐らく今回も負けるのだろうなあ。さらに、僕と同じ部の山野UEくんや、S力部のKO野君もフルマラソンに出る。
(竹葉)「ふむ。えらく多いですねえ」
(幹事長)「たけば君は、とーぜんフルマラソンよなあ」
(竹葉)「え?い、いや、今年は、ちょっとハーフマラソンでお茶を濁しますよ」
なーんて言ってた竹葉選手であるが、やはりと言うか、何と言うか、結局、今年も欠場した。
(石材店)「ほんっとに欠場が多いですよねえ」
(幹事長)「おんちゃんの情報では、つい先日の第22回さめうらの郷湖畔マラソンも欠場したようだし」
(ピッグ)「出席率2割ってとこですか」
(石材店)「それなのに、きちんと申込だけはするんですよねえ」
(幹事長)「出ると早いんだけどなあ。惜しい選手だ」
さらに、徳島の亀ちゃんもフルマラソンに出る予定だった。実は亀ちゃんは、10月15日に開催された四万十川ウルトラマラソンで100kmを完走したのだ。
(幹事長)「どう思う?」
(石材店)「すごすぎますっ!」
(幹事長)「ありえんよなあ」
(石材店)「でも100km歩くよりはマシですね」
(幹事長)「同感。100km走るのは想像を絶する厳しさだけど、肉体の勝負だ。100km歩くのは発狂するな」
(支部長)「これこれ」
さすがの鉄人の亀ちゃんも、100km完走を目指して、この夏は、かなりトレーニングを積んだようだ。
(幹事長)「なんで、そこまでやるん?」
(亀)「ま、この道を極めようと思ってな」
(幹事長)「死ぬほどヒマなん?」
(亀)「ま、そういう見方もできるな」
亀ちゃんは、ますます手が届かない所へ行ってしまいそうです。
しかし「100km走ったから、42kmなんて軽いもんや」なんて豪語していた亀ちゃんですが、風邪でダウンしてしまい、タートルマラソンは欠場だった。
(亀)「ま、今年は100km完走したから、思い残すことは無いわな」
それから、100km歩いた支部長は、この日は、丸亀市の本島に植林に行ってしまった。
(支部長)「その“100km歩いた”っていう枕詞は、いつまで付くんですか?」
(幹事長)「本島の植林って何?」
(支部長)「何年か前に本島で山林火災があったでしょう?その後に植林するイベントが3年前から開催されてるんだけど、
地域への貢献という事で、我々も毎回参加してるんですよ」
(幹事長)「植樹するわけ?」
(支部長)「植樹だけじゃなく、参加者にあめ湯の接待もするんですよ」
あめ湯の接待なら、タートルマラソンでこそして欲しいのだけど、残念ながら小豆島は中国電力の管内であり、支部長の侵略は許されないのだった。
さらに毎年、父上と一緒に参加していた福家先生は、今年は「タートルマラソンは飽きた」と一言残して、広島の宮島で開催されたクロスカントリー大会に参加してしまった。
(幹事長)「福家先生も色々とレースを見つけてきますなあ」
(福家)「最近は海外遠征はしとらんけど、せめて国内では出来るだけ目新しいレースに参加するようにしとるんだよ」
おんちゃんからの後日情報では、福家先生は、この2週間後の安芸タートルマラソン大会にも参加したとのことです。
(石材店)「お元気ですねえ」
(幹事長)「財力も侮れんぞ」
ちなみに福家先生のお父上は、今年も瀬戸内海タートルマラソン大会に出場し、最高年齢参加者ということで翌日の朝日新聞にデカデカと写真入りで紹介されてました。ご立派!
てことで、以上、合わせて7人がフルマラソンに参加となった。
(テニス)「今年は中山さんは出ないんですか?」
(幹事長)「去年は初出場したんだけど、どうもこのコースは苦手だったようで、今年は拒んでおった」
(石材店)「似たようなコースのオリーブマラソンは得意なのにねえ」
当日は、石材店とピッグとテニス君と4人で待ち合わせて船に乗ることにする。例年なら、受付終了時間にギリギリで間に合うくらいのタイミングの船で行くことにしている。そうでないと、時間をすごく持てあますからだ。しかも、大半の参加者は、もっと早い便で行くから、ギリギリの船は空いているのだ。ところが今年は石材店が
(石材店)「久々のフルマラソンですから、事前に入念に準備する時間が必要です。もっと早い船で行きましょう!」
と力強く宣言したもんだから、反対することもできず、渋々早い船で行く事にする。
ところーが!その日は朝から雨だった。土砂降りなら諦めもつくけど、中途半端な小雨。小雨でも庵治マラソンくらいなら、あっさりと諦めるかもしれないけど、久々のフルマラソンに備えてトレーニングしてきただけに、なかなか諦めきれない。「どうしようかなあ」なんて空を見上げて悩んでいると、石材店から電話。石材店も迷っているのか。
(幹事長)「どうする?一応、行ってみる?」
(石材店)「何を言ってるんですか!港でずっと待ってるのに、いつまで経っても来ないから電話してるんですよ。早く来てください!」
あらら。雨で迷ってるんじゃないのね。慌てて港へ行くと、ピッグとテニス君も既に来ていた。
相変わらず微妙な小雨が降っている。実は数日前から風邪を引いてて、そんなに悪化はしてないけど、雨で体が冷えるのは不安。
(石材店)「大丈夫ですよ。今年の四国カルスト高原マラソンの時も、風邪を引いてたけど、かえって調子が良かったじゃないですか」
確かにカルストマラソンの時は、風邪で感覚が鈍っていたおかげで、あんまり厳しさも感じずにゴールできた。
さて船は、恐れていた通り、混んでいた。
(幹事長)「だから遅い便にすれば良かったのに。遅い便なら空いてるのに」
(石材店)「何を言ってるんですか!幹事長が来るのが遅かったからですよ。ギリギリに来たんじゃ席なんてありません!」
てな事で、床に座る。
(幹事長)「船内は暖かいし、床は柔らかいし、高速船だから僅か30分だし、どうってことないな」
(ピッグ)「春のオリーブマラソンの船の固い鉄の甲板に比べると、天国ですよ」
なんて余裕をかましていたら、天気が荒れ模様のため、瀬戸内海では珍しく波が高く、船は結構、揺れた。
船酔いでちょっとだけゲロゲロになりながら船を降りるが、まだ小雨は降っている。港から会場の役場まで1.5kmほど歩かなければならない。天気が良ければ、ちょっとしたウォーミングアップ代わりに小走りで行ける距離だが、雨が降ってるので、とぼとぼと歩いていく。
受付を済ませて、選手控え室になっている公民館に陣取る。今日はたっぷり時間があるし、おまけに天気も悪いので、かなり入念にというかダラダラと準備する。石材店は今回、新兵器のタイツ姿だ。
(幹事長)「うわ、めちゃめちゃすごそう!」
(石材店)「福士もイチローも使っているワコールのCW−Xシリーズです。しかも最高峰のプロモデル・ロングでっせ」
黒いタイツに、なんやらスパイダーマンのように、色んな風にねじ曲がりながら色つきのラインが足にからみついている。
(ピッグ)「それ履いたらサイボーグのように足が勝手に動いてくれるんかなあ」
(幹事長)「エネルギー保存則から言って、それはあり得んわなあ。どういう仕組みになってるんだろう」
宣伝文句によれば、「流れるように張り巡らされたハイパワーラインがバネのように柔軟でタフな動きをサポートする。腰部・股関節・ひざ関節を安定。ふともも、ふくらはぎの筋肉をサポートし、運動時の筋肉疲労を軽減する」とのことだ。たぶん、バネを履いたように、着地した時に加えられた力を反発してくれるため、ピョンピョンと跳ぶように走れるのかもしれない。
(幹事長)「むっちゃくちゃ魅力的!」
(石材店)「幹事長もどうですか?」
(幹事長)「でも、そななすごそうな格好して、惨敗したら格好悪いから、もうちょっと鍛え直してからにしようかなあ」
さらに石材店は、他にも新兵器を持ってきていた。
(テニス)「何ですか、それ?」
(石材店)「足のマメ防止用のクリーム」
(幹事長)「それは役立ちそう!支部長が100kmウォークに出たとき、足のマメを心配して、
あらかじめバンドエイドを貼っていたそうだけど、雨が降ってきて役立たずになって、
結局、マメが潰れたそうだよ」
今日は雨が降っているので、まさに天の助けだ。さっそくみんなで借りて塗りまくる。さらに防水スプレーも借りて帽子にかけまくり、完全防水キャップに仕上げる。
さて、ここで難問が出てきた。何を着るか、だ。天気が良ければ、この時期ならみんな普通のTシャツだ。しかし今日は雨。半袖のTシャツじゃ寒すぎる。とうぜん長袖にする。しかし、それでも不安。雨対策としてはウィンドブレーカーとビニール合羽を持ってきている。ウィンドブレーカーの方が蒸れないような気がするけど、雨が染み込まないか不安。かなり降っているのならビニール合羽を着るのが良いような気がするけど、ビニールだから内側は汗でビショビショになり、なんのこっちゃら分からなくなる。
(石材店)「支部長が100kmウォークに出たときは、雨よけにビニールのゴミ袋をかぶったけど、
通気性が無いから汗でびしょびしょになったって言ってましたねえ」
外を見ると、雨が強くなったり弱くなったり。
(幹事長)「ええいっ、はっきりせんかっ!」
この怒りが天に届いたのか、スタート直前になって、雨が上がってしまった。これで悩む必要はない。ちょっと寒そうなので長袖のTシャツにする。
とは言え、このまま降らないかどうか、一抹の不安はある。速い人なら問題ないだろうけど、僕の場合は制限時間5時間との戦いという長丁場だ。再び雨が降ろうが雪が降ろうが何があっても不思議ではない。しかし、いくらビニールとは言え、雨合羽を折り畳んだら、結構なボリュームのなり、ポケットに入れたらパンパンになってしまって、とても走りにくい。「困ったなあ」とバッグの中を引っかき回していたら、ビニールのゴミ袋に首と手が出せるように穴をあけたものが出てきた。
(ピッグ)「おっ、なかなかええ物もってますねえ」
(幹事長)「おおうっ、これは何かの大会でもらったものだ。ラッキーっ!」
これならポケットに入れても平気。帽子も完全防水になったし、これなら少々の雨が降っても大丈夫だ。
他のメンバーは、と言うと、なんとテニス君は、袖無しだ。
(幹事長)「そ、それ、寒くない?」
(テニス)「いやあ平気ですよ。今までいつもこれで走ってきたし」
でも、見てるだけでも寒そう。
準備も整ったので、て言うか、時間を持てあましてきたので、スタート地点の方に移動する。ちょうど開会式なんてやってて、関係者が「このタートルマラソンのタートルは海亀です」なんて事を言っている。
(幹事長)「海亀?何のこっちゃ?」
(石材店)「そうかっ!だから制限時間が厳しいんですよ。陸亀なら遅いけど海亀だから速いんですよ」
なーるほど。そうだったのか。みんなはいいけど、僕にとってはフルマラソンで5時間という制限時間は結構、厳しいのだ。
(石材店)「でも、ハーフマラソンの制限時間が3時間で、フルマラソンの制限時間が5時間っていうのは、厳しすぎですよねえ」
(幹事長)「せめて倍にして欲しいよなあ」
いよいよスタートだ。今回は身内に参加者が多いとは言え、石材店とはレベルが違うし、佐伯先輩にも6連敗は確実だし、テニス君にも勝ち目はないし、・・・となると、ライバルはピッグだけだ。ピッグには10月の高松ファミリー&クォーターマラソン in 庵治では惨敗したけど、去年の四国カルストマラソンでは圧勝したし、中山選手と同様に、勝ったり負けたりの良きライバルだ。しかも、ピッグは今回、練習量が非常に乏しい!ちょっと前に僕が石材店と
(石材店)「こないだの週末は計50kmは走りましたね」
(幹事長)「それはすごいなあ。僕は週に1回しか走らないから、30kmが限界だなあ」
なんて話していると、横で目を見開いてボーゼンと立っていた。
(幹事長)「ピッグは?」
(ピッグ)「僕は週に3回くらい走ってますけど、1回に5kmくらいですねえ」
ふむ。5km×3回=15km<30km。
(幹事長)「この勝負もらった」
て言うか、フルマラソンを控えて、僅か1回あたり5kmのトレーニングってのは、どんなもんでしょうなあ。
(幹事長)「ちょっとナメてない?」
(ピッグ)「いやあ、むしろ、練習で30kmも走るだなんて、もったいないなあ。本番にとっておきたい距離ですねえ」
(幹事長)「そういう見方もできるような気もするけど、やはり本質的に間違っているような気もする」
スタートのピストルが鳴る。記録更新を狙う石材店は前の方からスタートしたが、我々は中頃から控えめにスタート。雨に備えて完全防水した帽子だけど、雨が止んだので脱いでポケットに入れる。帽子をポケットに入れると走りにくいけど、帽子嫌いの僕は、雨が降らない限りかぶりたくはない。
ピッグもテニス君も快調に走り始める。テニス君に着いていって潰れると後悔するので、取りあえずピッグの様子を見ながら着いていく。ところが、意外にピッグが早いと言うか、テニス君が控えめと言うか、二人とも似たようなペースで前にいったり後ろにいったりだ。なので、前になった方に着いていく。僕としては、決して遅いペースではないのだが、テニス君は余裕をもってペースを抑えているように見えるし、ピッグも軽く余裕で走っている。ま、いーさ。そのうちバテても知らないから。
その後も時折おしゃべりなんかもしながら、二人と一緒に走っていたのだけど、僕にとっては、何となく速すぎる。このペースで行くと後半にバテるような気がして、二人に着いていくのを諦める。そのうちピッグのペースが落ちてきて、再び追いつくだろうと想像しながら。
しばらく一人寂しく走っていると、例によって後ろから佐伯先輩が抜いていく。佐伯先輩には、これで6連敗が確実なんだけど、なぜか必ず途中で抜かれる。どんな距離のレースでも、序盤では僕の方がペースが速いんだけど、どんどんペースを上げて来る佐伯先輩に絶対に途中で抜かれる。ううむ。悲しい。
本日の調子を見る最初の目安が、ハーフマラソンコースの折り返し点だ。10kmちょっとの地点にある。当然、ハーフマラソンを走る時のペースよりは抑えているものの、そんなに悪いペースでもない。このままのペースで行ければ問題ない。
ハーフマラソンの選手が折り返していく中、そのまま進むと、周りのランナーが一気に少なくなる。しかし、ここからがお楽しみだ。ハーフマラソン折り返し点までは給水ポイントくらいしか無いが、そこから先は食べ物が出てくる。全部、沿道の住民によボランティアだ。ミカンやらバナナやら、一口パンやらチョコレートやら、おにぎりやら焼き芋やら、何でも出てくる。これが嬉しい。なんちゅうても僕なんか、9時半にスタートして走り終わるのは2時は軽く回るから、ちょうど昼食時に走っていることになる。食べ物が無いとお腹が空いて走れなくなる。ミカンやバナナはちゃんと皮まで剥いてくれて小さく切ってくれてるし、おにぎりも小さいし焼き芋も小さく切ってあるし、どれも走りながらそのまま食べられる。う〜ん、おいしい。
しかし、食べ物が嬉しい反面、はやりこの辺りからは厳しくなってくる。フルマラソンコースは片道に大きな坂が7つある。ハーフマラソンでも片道に3つあり、往復で6つあるから、フルマラソンの片道と同じようなものだが、ハーフマラソンの時は、終盤の坂も、これで終わりっちゅう事で最後の力を振り絞って頑張るので、あんまり厳しいと感じたことはない。余裕があるから、小豆島の海岸線を走る気持ちの良いコースに誤魔化されてしまうのだ。しかしフルマラソンの時は、再び帰りがあるので、全力を使い切るわけにはいかない。景色を見るような余裕はない。後半への余力を残しつつも、ある程度のペースを維持して走る、などというのは非常に難しい。厳しい。なので、結局、どんどんペースダウンしていく。
おまけにっ!なんと再び雨が降ってきた。パラパラと。あんまり激しい雨ではないけど、なんとなく鬱陶しい感じ。まずはポケットから帽子を出して被る。しばらくはそれで大丈夫だったけど、だんだん雨が強くなってくる。すぐに止みそうにもないので、ここで穴あきゴミ袋を取り出して被る。見るからにちゃちな緊急用合羽だが、意外に体にフィットして、なかなかの防水性だ。これなら少々の雨でもへっちゃら。雨合羽の無い他のメンバーは、雨に濡れて体温が下がり、筋肉の動きが固くなり、最後には力つきて道ばたに倒れる事だろう。
「よしっ!これでピッグには勝ったぞ。災い転じて福となるじゃ!雨は我の味方なり。天は我が軍を勝利に導いてくれるぞ!」
なんて一人ひそかにほくそ笑みながら走るが、しかし、雨が強くなると、やはりつらい。何がつらいかと言えば、体が冷えるのがつらい。いくらビニールでガードしていても、冷たい雨の中を走ると、やはり寒くなってくる。そもそも腕はビニールでカバーされてないし、足は剥き出しだ。
雨のせいもあって、ペースはどんどん落ちていく。すると、突然、折り返し点から戻ってきた石材店とすれ違う。ふむ。やはりかなり速い。僕とは全然レベルが違う。しかし、これは想定内だ。びっくりしたのは、すぐに続いて佐伯先輩にすれ違ったことだ。速い。速すぎる。あまりにも速すぎるでないのっ!前半で僕を抜いた地点でのペースを考えると、あり得ない早さだ。一気に加速している。続いてテニス君もすれ違う。彼も予想通り、結構速い。しかも、まだまだ余裕の表情だ。しかし、ここまでは、まだ許容できる展開だ。
信じられないのは、それに続いてピッグと早々にすれ違ったことだ。なんと信じられないほどの速さだ。どう考えても後半で挽回できるような差ではない。一体これはどうしたことだ?週に3回とは言え、1回に5kmくらいしか走ってないピッグに大差を付けられているなんて、ちょっと受け入れられない現実。週1回とは言え、30kmも走っていた僕の練習って、一体なに?しかし、ここでくじけてはいけない。調子に乗って飛ばしていると後半に絶対にバテるはず。しかもピッグはビニールが無いから雨に濡れている。「そのうち走れなくなって歩き始めれば追いつけるだろう」と気を取り直す。
なんとか折り返し点にたどり着くと、残り半分ということで少しホッとする。ホッとはするけど、ペースはやばい。確実に落ちている。しかも、まだ20数kmというのに、足が思い。ペースどころか完走すら不安になってくる。
後半になると、雨はますます激しくなってきた。さらに風も強くなってきた。幸い向かい風ではないのだけど、雨を伴う横風は確実に体温を奪っていく。いくらビニール袋を被っていても、体がどんどん冷えてくる。道は海岸線を走っているため、強風に煽られて岸壁に打ち付けられた波が防波堤を越えて水しぶきをあげる。ひえ〜。瀬戸内海とは思えない荒波状態。シューズも水浸しだし、とても走りにくい。
こうなると、だんだん走る気力が萎えてくる。やる気が無くなってくる。「ハーフマラソンの折り返し点、すなわち3/4くらい走ったら、もうリタイヤしろよ」なーんていう悪魔の甘い囁きが早くも聞こえてくる。一度、そんな事を思い始めると、ハーフマラソンの折り返し点までもが遠く感じられてくる。
どんどん重くなる足をなんとか動かしながら、ようやくハーフマラソンの折り返し点まで着いた頃は、ペースはますます落ちている。しかし、もうそれどころではない。頭の中はリタイヤで一杯だ。過去の経験からすれば、そろそろ救護車が走り始める頃だ。今日は救護車に「大丈夫ですかあ?」なんて声を掛けられたら、迷わず乗り込もう!と固く決意する。
(石材店)「そななこと固く決意して、どないすんですかっ!」
(幹事長)「だって寒くて寒くて辛すぎるんだもーん」
突然だが、僕はゴルフがあんまり好きではない。いや、もとい。ゴルフのプレー自体は好きで、アメリカに居た頃は年に50回はプレーしていた。嫌いなのは、ゴルフコンペだ。なぜかと言えば、ゴルフコンペは雨が降ろうが風が吹こうが、どんなに寒くても暑くても、絶対に予定通り決行するのが嫌なの。冬の寒い日に、鼻水を垂らして震えながらプレーしていると、「なんで高い金を払って、こんなに辛い思いをしなけりゃなんないの?」と、自分の行為が理解できなくなる。
(石材店)「何の話をしてるんですか?」
(幹事長)「今まさに、それと同じ状態なの」
この冷たい雨に打たれて震えながら走っていると、「僕は一体何のために走っているんだろう?」という根元的な疑問がわいてくるのだ。
(石材店)「それって、いつもゴール時に瀕死状態になっている支部長に対する疑問ですね」
支部長がなぜ走っているのかは永遠の疑問として残しておけばいいが、今、この時点でわたくしは「何のために走っているのか」という疑問の回答が見つからなければ、あっさりとリタイヤしようと思う。だって辛いだけだもーん。
(石材店)「幹事長って、ほんっとに根性ないですねえ」
(幹事長)「根性があるか無いかってのは、先天的な才能の問題だから、生まれつき根性細胞が欠落した僕は、
いくら努力したって根性は付かないのよ」
(石材店)「て言うか、努力細胞も無いでしょ?」
ところがっ!なぜか救護車が来ない。いつもなら、しつこいくらいウロチョロしているのに、こんな悪天候の日に限って、全然見あたらない。これは一体どうしたことだ?
よっぽど、係員に頼んで車を回してもらおうかとも思ったけど、体が冷え切っているので、立ち止まって車を待つのも辛い。走っていれば少しは体が温まるから、走っている方がマシだ。ペースは極端に落ちてきているが、まだまだ走ろうと思えば走れる。
この辺りから、給水ポイントで暖かいお茶とかが出てくる。これが、嬉しい。暖かいお茶で一口パンを流し込むと、また少しは元気が沸いてきて、救護車が来るまで走り続ける意欲が出てくる。しかし、それにしても救護車が来ない。一体、どうなってんの?
さすがに終盤になってくると上り坂は走るのが厳しくなり、というか、走っても歩いても、ほとんどペースが同じになってくるので、無意味に走るのは止めて歩き始める。当然、前後の人たちも、ほぼ全員が歩いている。ただ、この辺りにくると、そのまま下り坂でも歩いている人も出てくる。足を痛めたのだろう。彼らを抜きながらなんとか走り続けていると、最後の給水ポイントで、なんと、あなた、暖かい飴湯が出てきた。わーい!ありがとう!これは、ほんとに美味しかった。生き返った。
(石材店)「実は、あの飴湯は、往路の時もあったんですよ。てっきり水だと思って一気に飲んで、オエッときましたよ」
まだ走り始めて間もない時点だったので、僕は飲まなかったけど、レース序盤で飴湯を飲んだら、結構きついだろうなあ。
しかし、レース終盤では、この最後の飴湯のおかげで、なんとか最後まで走ろうかという気力が出てきた。結局、救護車は現れなかったので、もう走るしかないんだけどね。
ところーがっ!その気になって気持ちを切り替えて完走を目指し始めた矢先に、突然、どんどどんと花火が打ち上げられる。一体なんの花火じゃ?って思って時計を見ると、ちょうど制限時間の5時間がきていた。なんとっ、レース終了の花火だった。ひえ〜。あと、ほんの少しってとこで、今年も制限時間をオーバーしてしまった。ちょっと前を走っている人は、プッツンしたように走るのを止めてしまった。しかし、ここで走るのを止めたところで、救護車が来ない状況では自分の足で帰らざるを得ない。となると、歩いていると寒いので、結局、走り続けるしかないのだ。足はまだまだ動くので、意味もなくラストスパートをかけて、やる気を無くしてトボトボ走る人々をごぼう抜きにしてゴール。
(石材店)「そういう無意味なスパートをするくらいなら、中盤でダレて救護車を探したりせずに、
もっと頑張って制限時間をクリアしてください!」
て事で、またまた情けない結果に終わった私とは正反対に、ピッグは素晴らしいタイムでゴールしていた。
(幹事長)「冷たい雨に打たれて、絶対に最後は追いつけると思ったのになあ」
(ピッグ)「自分が秘めた底力を、自分でも信じられません!」
他のメンバーは、と言えば、石材店は、当然ながら4時間はクリアしていたが、3時間半を目標にしていた彼にしては不本意なタイムだった。
(幹事長)「折り返しですれ違った時は、すごく速かったぞ」
(石材店)「半分まではすごく速かったんですが、足が痛くなってしまって、終盤は歩きっぱなしでした。下り坂も」
下り坂まで歩いたってのは、かなり重傷だ。それでも4時間を切ったってのは、前半がよっぽど速かったって事だけど。
(テニス)「僕も終盤は歩きましたよ。袖無しが寒くて体が冷えましたねえ」
僕だけじゃなく、みんな雨で筋肉が固くなったようだ。
でも、佐伯先輩は、すごく速かった。
(幹事長)「どうしたんですか。一体、何がどうなってるんですか?」
(佐伯)「途中から勝手にペースメーカーを見つけて、付いていったら、結果的にすごく早くゴールしたなあ。いやあ、快調快調」
もう、この人は信じられない。
左からピッグ、石材店、テニス君、わたくし
と 冷えた体を温めるには、暖かいそうめんに限る。小豆島のレースは、無尽蔵にそうめんが出てくるので、ありがたい。お弁当もあるのだけど、弁当は後回しにして、暖かいそうめんを何杯も食べてホッとする。そうめんの次は温泉だ。このレースの楽しみは、タダのそうめんとタダの温泉なのだ。
(幹事長)「さてっ、温泉に繰り出そうぞ!」
(石材店)「げげっ、幹事長!温泉の入場時間は3時までですよっ!」
なんとかーっ!もう時間が無いっ。仕方ないから温泉は諦める。遅い人には冷たい仕打ちだよなあ。悔しーっ!
(石材店)「僕は良いことがありましたよ。オイルマッサージです」
なんと石材店は、走り終わってオイルマッサージをタダでしてもらったのだ。
(幹事長)「それって誰でもしてくれるん?」
(石材店)「ちょうど僕が最後でしたけどね」
不本意なタイムとは言え石材店は速いから、そなな良い思いができたのか。
(幹事長)「で、それって、どんなん?」
(石材店)「若い女性に、ズボンも全部脱いで下さい、って言われて、ビキニブリーフ姿になって、足にオイルを塗りたくられて、
入念に凝りを揉みほぐしてくれましたよ」
(幹事長)「聞いただけで、興奮度爆発じゃなあ。そなな事されたら別の部分が凝ってくるだろう?」
(石材店)「普段なら確実に固まりますが、走り終わって疲れ果てているので、そういう事態にはなりませんでしたね」
惜しいというか、良かったというか。
それにしても、速い人には色々とサービスがあるのに、遅い人には冷たいなあ。
(石材店)「もうレースから1ヵ月が過ぎようとしてますから、決して早い掲載じゃありませんが、
ま、一応、今年中にアップしたので褒めてあげましょう。
例年ならスノボーに行ってサボりっぱなしですけど」
(幹事長)「今年は、ぜーんぜん雪が降らなくて、当分スノボーは無理っぽいのよ。
それに年が明けると満濃リレーマラソンがすぐだし」
(石材店)「そうそう、今度の満濃リレーマラソンは、新人女子部員がマックスで4人もデビューですぜ!」
みなさんっ、ぜひぜひ、ご期待をっ!
〜おしまい〜
![]() 戦績のメニューへ |