100文字小説です。

家族になるということ



1.土方らん



彦五郎さんは、10歳で名主を継いだしっかり者だから、4つしか違わないって知った時、とても驚いたの。

優しくて。

為次郎兄さんとも喜六兄さんとも違う、とびっきりの明るさで。

笑う貴方が、私も歳三も大好きだった。

 

 

2.土方らん



私は、貴方と比べたら子供だったから。

為次郎兄さんは心配ばかりして、用もないのに私の部屋をうろうろしたりして。

10歳になったばかりの歳三は。

おかしいのよ。

貴方のことが大好きなのに、今は目の敵にしているの。

 

 

3.土方らん



皆より成長の遅い私は。

結婚なんて早いんじゃないか、って心配されたわ。

だけどね。

不安はないの。

小さい頃から貴方のことを知っているから。



歳三と離れるのは悲しいけど。

一緒に暮らすのが貴方でほっとしているの。

 

 

4.土方らん



いつ貴方のことが好きになったのかなんてわからない。

ときめいたり、切なくなったり…

そんなことしたこともなかったし。



ただ、貴方といると安心したの。

ずっと一緒にいれるって決まって、心がすとんと落ち着いたの。

 

 

5.佐藤彦五郎



色が白くて評判の愛らしい子供だった。

誰の元へ嫁に行くのか、そりゃあ皆噂したもんさ。



指が触れる度にドキドキしたり―



そんなことはなかったな。

ただ傍にいるのが当たり前すぎて。

他の奴にはやりたくなかったんだ。

 

 

6.佐藤彦五郎



嵐の前の日、転がり込んできた小さな兄弟。

お互いを守るように、堅く手を握って。

すがるような4つの目に見られた時。

守ってやらなきゃ、って思ったんだ。



いつまでも子供だと思っていたのに―



今日が祝言だなんてな…

 

 

7.佐藤彦五郎



実感がわかない。

正直言えばそうだった。

きっと彼女も同じだろう。



ただ取られたくなかっただけで、気がついたらこんな事になっていた。

死ぬまで俺の側にいる。

一緒に年を重ねていく。



なんだかくすぐってぇけどな…。

 


8.佐藤彦五郎



白無垢を着た彼女は。

雪を被った椿みたいに可憐で。



俺達は、お互いに顔を合わせて噴き出した。



念入りに結って貰った頭を掻きそうになって、細い白い手に窘められる。

結婚するんだなぁ



俺達は顔を見合せてまた笑った。

 

 

9.佐藤彦五郎



高砂や、この浦舟に帆を上げて、

月もろともに出で潮の、

波の淡路の島影や、

遠く鳴尾の沖過ぎて、

はや住吉(すみのえ)に着きにけり





俺達は。

前を向いて澄ました顔で。

寄り添い合った袖に隠して、そっと―手を握った。

 


2008.10.27