100文字で書いた小説です。

さようなら ボクの大好きなクロ

 

【クロのこと】



 

クロはただの猫じゃない。

 

ボクが生まれる前からこの家にいて、僕が生まれた時にはもう大人だった。

長い尻尾は先の方が曲がってて、真っ黒の毛並みはスベスベと光って格好いい。

ボクのクロはイケメンだったんだ。

 

 

【クロとボク】



 

クロは時々ボクのことを無視した。

何度も名前を呼んでみるのに、耳だけこっちに向けて、ボクの方を見ないんだ。

 

だけど寝る時だけは―

僕の枕を占領して、ボクはいつもはしっこで小さくなってクロと一緒に眠るんだ。

 

 

 

【クロと母さん】



 

クロは母さんが大好きだった。

母さんの足に尻尾を絡ませて、首を一杯に伸ばして、餌を入れてもらうのを待っているんだ。

僕の聞いたことのない可愛い声まで出して。

母さんがニコニコ笑ってるのがボクは悔しかった。

 

【クロと父さん】



 

クロと父さんは仲がいいのかわからない。

父さんが新聞を広げて爪を切っていると、クロは新聞に乗って邪魔をするんだ。

目を細めて父さんを見て。得意げな顔をして。

父さんは仕方がないって爪を切るのを後にするんだ。

 

 

【クロとミルク】



 

そんなクロが怪我をした。

どこでどうして怪我をしたのかわからない。

足の毛がごっそり抜けて紫色になっていた。

クロは舌を出して息をしていた。

体中…血の匂いがした。

ミルクを置いても見向きもせずに目を瞑ってた。

 

 

【おやすみ クロ】



 

クロはずっと眠ってた。

だらりと横になって。

ボクは一時間おきにクロの傍に行って、背中を触った。

大丈夫。

お腹が上下している。

クロは生きてる。

布団に入ってもすぐに起きて、何度もクロを見に行った。

…布団が広いよ  

 

 

【クロの尻尾】



 

クロの尻尾はカギしっぽって言うんだ。

先の方がね少し曲がっているの。

抱くとクロは尻尾をボクの腕に引っ付けてくるの。

クロ

小さい小さい声で呼ぶと、クロは尻尾をゆらりと揺らした。

でも全然にゃあって言わないんだ。

 

 


【クロと朝日】



 

3日目になって、クロは動かなくなった。

体がフニャリとして、抱くと重たかった。

クロの尻尾は垂れ下がっていた。

ボクはクロを抱きしめた。

クロの金の目はもうボクを見ない。

朝日を浴びてもクロの毛はキラキラしない

 

 

 

【ボクの大好きなクロ】



 

クロはただの猫じゃなかった。

みんなクロが大好きだった。

クロは時々イビキをかいて眠った。

ボクの枕でゴロゴロ言った。

綺麗好きでしょっちゅう顔を洗った。

クロはボクのお兄ちゃんでおじいちゃんだった。

なのに! 

 

 

【さようならボクのクロ】



 

ボクは神様に文句を言って、たくさん悪口を言った。

でもその後天国に行くクロを思って、神様に一杯謝った。

クロ

クロ

クロ

クロ!

ボクはクロが大好きだよ。

だからボクの枕もクロにあげる。

天国でたくさん眠れるように。  

 

 

さようなら 

ボクの大好きなクロ 

 

2010.6.26