100文字小説です。

嫉妬

 

宗次郎 (沖田総司の幼名)と土方さん。

宗ちゃんは試衛館で暮らしています。

 
 
 

宗次朗



1.朝



 

朝起きると、なぜか土方さんがいてご飯を食べていた。

夕べ私が寝ている間に来たらしい。

女将さんは猫を被った土方さんにすっかりと騙されて、いいように使われている。



私は甲高い笑い声に顔をしかめて、箒を取った。

 

 

 

2.昼



 
内弟子だと言っても、私は剣を教えて貰えない。

ひょっこりやって来て、若先生に相手してもらえる土方さんが羨ましい。

自己流だから、癖があるのが見ていて分かる。



じっと見てると負けた土方さんに八つ当たりされた。

 

 

 

3.夕方



 

今日は土方さんは行商にいかないらしい。

一日中若先生と遊んでいるから、若先生は私の相手をして下さらない。



女将さんの機嫌がいいのは嬉しいけど・・・。



宗次朗!



土方さんは意地悪く笑って、私を道場に招き入れた。

 

 


4.夜



 

結果は惨敗だった。

だけど初めて握った剣に、私は興奮していた。

体中が痛いけど気にならない!



気まぐれでも剣を握らせてくれて、嬉しくて堪らなかった。



私はこっそり、土方さんのお皿に沢庵をたくさん入れてあげた。

 

 


 

5.次の日



 

朝起きると、土方さんはいなかった。

おはようって言いたかったのに。

ちょっと意地悪で怖いけど、仲良くなれるかもしれないって思ったのに。



土方さんはいないんですか?

若先生に聞くと、大きな手で頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

土方歳三



1.朝



 

遊里から直接、勝ちゃんの所に行った。

家に戻れば小言を言われるのが目に見えていたから。



早朝の試衛館は、静まり返っている。

あの餓鬼もまだ寝てるみてぇだ。



勝ちゃんの部屋に入ると、俺は畳にごろりと横になった。

 

 

 

2.昼



 

小さくて生意気で、なにより武士の子というのが気に入らなかった。

大先生の隠し子じゃ、と疑っていた女将さんのせいで、下男のような仕事ばかりをさせられていたが。



強い瞳の折れない宗次朗が、腹立たしかったんだ。

 

 


3.夕方



 

ちょっとからかう心算だった。

勿論本気じゃなかった。

勝ちゃんもいたしな。



避けられるとは思わなかったんだ。



あいつはいつも俺たちをじっと見ていたから。

俺の癖もお見通しって訳か。



宗次朗を見る目が少し変わった。

 

 

 

4.夜



 

体中が痛ぇはずなのに、宗次朗は上機嫌だった。

俺の皿には沢庵が大盛りになってやがる。

あいつなりの礼なのだろう。



俺の好物まで何で知ってやがるんだ?

むず痒くて、宗次朗の顔が見れなかった。



…今日の内に帰るか。

 

 


5.次の日



 

俺はまだ暗い内に試衛館を出た。

一度家に帰って、行商に行くか。



まさか感謝されるとは思いもしなかったから。

何となく…試衛館に行き辛ぇ。



そんなに嬉しかったんなら、もう一回位相手してやってもいいけどな!



…チッ

 

 
2008.10.24
きっと近藤さんはこんな二人の事をほほえましく思っています。