ひととせ

睦月



正月がくりゃあ、また年を取る。

 

「あけましておめでとうございます」

新年の挨拶をして回る人々の声を聞きながら、土方歳三はつまらなそうに舌打ちをした。

武士になる。

そう決意してから、今年でもう何年がたつのだろう?

武士を夢見て植えた庭の矢竹は、とうに自分の背丈を越えた。  

 

「新年明けましておめでとうございます」  

どいつもこいつも浮かれたような声で。

雪の上に残る下駄のあとさえも、てんてんと弾んで見えて面白くない。

薄暗い部屋に、不貞腐れたようにごろりと横になると、火鉢の中で炭がカチンと弾けた。  

 

 

ザクザクと粗い氷を踏みしめて聞こえてくるのは

 

その後ろを――新雪を楽しそうに踏みつけて、足跡をそこいらじゅうにつけてはしゃいでいるのは

 

 

「歳ー!!」

勢いよく開け放される障子!  

眩い雪の白!

何事もなく一年が過ぎるのは、幸せなことだというけれど。

何事もなく一年が過ぎていくのが口惜しくて。

届かない夢に――近づいているのではなく。

それはどこまでも届かない、遠い星のようなものではないのか、と。

地上から眺めるしかない、遠いものでしかないのでは、と――

くじけそうになるたび。

屈託のない豪快な笑い声が。

まっすぐな信念が。

それを吹き払ってくれた。

 

「歳!」  

「としぞうさん」

紋付袴の近藤の後ろから、きちりと髪を結った惣次郎がひょこりと顔を覗かせて笑いかける。

やれやれ。  

本当はうれしいくせに、歳三はワザとしごくゆっくりとした動作で起き上がると、部屋に上がってきた近藤たちの前に姿勢を正して座った。  

 

「新年明けましておめでとうございます」  

 

重なった三つの声の後。  

顔をくしゃくしゃにして破顔すると、近藤は

「堅苦しいのはここまでだ」

と言って角樽を掲げて見せた。  

 

正月がくりゃあ、また年を取る。

だけど……。

三人一緒にまた一年を歩んで行けるのなら。

遠い夢に戦いを挑んでいけるのなら。

「それもまたいい」  

歳三は他愛のない話に声を上げて笑いながら、そう思った。
 

 


2006.7.22