長火鉢の中で、鉄瓶がシュンシュンと沸いていた。
今日はひどく冷える。
土方歳三は長火鉢にかじりつくようにして両手をあぶりながら、真っ白の息を吐いた。
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朝起きると、試衛館には誰もいなかった。
そういえば昨日、近藤が沖田を連れて出稽古に行くと言っていたような気がする。
いつもより寒い朝に中々布団から出られず、昼前になって起きてみたら誰もおらず、土方はやっとそれを思い出して詰まらなそうに舌打ちをした。
それにしても寒い。
この分だと雪になるのではないだろうか。
土方は身体を縮こまらせながら暖を求めて客間を開けると、そこには自室から布団を運んできたのだろう、原田が長々と寝転んで春画本を読んでいた。
「よぉ! 歳さん」
「今日は冷えるな」
「ああ。雪になんじゃねぇ?」
原田は寝そべったままニコニコと土方にむかって言うと、雪という単語にあからさまに顔をしかめて、土方は長火鉢の前に陣取った。
見れば五徳の中の火が熾になりかけている。
慌てて近くの炭籠を引き寄せて炭を入れると、軽く息を吹きかけて土方は着物の袖に手を隠して鉄瓶の蓋を開けた。
ああ、大丈夫。
水はまだ半分ほど入っている。
蓋を少しずらして、手をこすり合わせる。
原田はそれきりまた暇そうに春画をぺらぺらとめくり、歳三もこれと言って話題もなくぼんやりと白くなっていく炭を眺めていた。
部屋の中のぼんやりと暖かな空気が、感覚のなくなった足のつま先をとかしていくようで気持ちがいい。
背を丸めて空気に溶け込む湯気を眺めていると、後ろでガサリと言う音が聞こえた。
「あ」
原田が声を上げる。
「……どうした?」
億劫そうに顔だけ振り返って原田を見ると、彼は体を半分起こして障子を見ている。
何だ?
子供のようにわくわくとした原田の顔を見て、嫌な予感がよぎる。
原田に習って土方も障子を見ると、そこにいくつもの小さな影が映っているのに気付いて顔をしかめた。
空から舞い降りてくる、小さなぼんやりとした灰色の影。
「雪、か」
「けっこうでけぇぞ! 見ろよ! 歳さん!」
はしゃいで障子を開け放した原田に、土方は顔をしかめると首をすくめて外を見た。
空から落ちてくる、無数の牡丹雪。
「……積もるな」
「積もるなっ!」
二人は声をそろえて言うと、原田は嬉しそうに顔中にこにこと笑って庭に飛び出していった。
原田の開け放していった障子から入り込む冷気に土方は身震いすると、長火鉢を引き寄せて原田が今まで入っていた布団にごそごそともぐりこんだ。
相変わらず、鉄瓶はシュンシュンと暖かな音を立てている。
これ以上冷気が部屋に流れ込むのはゴメンだ、とばかりに土方はすっかり布団に入ってしまうと、キセルをふかし始めた。
原田は雪にはしゃいで廊下を走り回っている。
「……ったく、元気だなぁ」
土方は小さく呟くと、ぷかりと紫煙を吐き出した。
2007.1.5
なんでもない普通の一日が書きたかったんです!
初めは山南さんと歳さんにしようかと思ったけど、山南さんだと気を使って色々と話しかけてくれそうなので、原田さんにしました。
つか、さのやん好きじゃー。