メイドインジャパンにご注意
VOL.10
「よ、イアン」
「ジオ、か?」
立ち止まっているイアンを、校舎の三階の窓から見かけて、ジオラルドは軽く手を振って呼び止める。
イアンが険しい表情をしているのに気づいて、ジオラルドは苦笑を浮かべた。
「ま、こっち来いよ」
ジオラルドの言葉に、イアンがテラスの方へと視線を向ける。
つられてジオラルドも視線を向けると、その先には、ヴィンセントとがお茶を飲んでいる姿が見えた。
ジオラルドは小さく笑って、イアンを手招いた。
「これを、彼女に投げつけられたぞ」
悪趣味なヤツ。
なんて言葉を紡ぎながら、イアンが、窓に凭れかかっているジオラルドへとそっと近づいてきた。
これ、と言いながらイアンが、に投げつけられたまりもっこりのキーホルダーをジオラルドの胸へと投げつける。
上手くキャッチすると、手を開いて、その中身を見て笑った。
「悪戯が過ぎる。気づいてなかったぞ、彼女」
「そりゃ、悪い事をしたな」
悪びれた様子もなく、ジオラルドが肩を竦めると、イアンがジオラルドの横へと立った。
「お前が寄越したまりもも元気だ」
「誰も、そんな事は言ってないじゃないか」
イアンが、ジオラルドの横から窓を覗き込む。
その視線の先に見えるのは、とヴィンセントで。
「まさか、も、お前がこれを輸入してる、なんて知ったらさぞ驚くだろうよ」
「先に見つけたのは、ジオの方だろう」
忌々しそうにイアンがジオラルドへと視線を向ける。
ジオラルドは小さく笑って、また、肩を竦めた。
「ジャパンの事を知っておくのは、良い事だろう?」
キーホルダーについている輪っかの部分を人差し指にはめ込んで、くるくると器用に回す。
イアンが呆れた視線を向けても、ジオラルドは気にしない。
大抵の人間は、ジオラルドの事を、ジオラルドと呼ぶ。
けれど、その中で、極親しい人間だけに、省略して、ジオをと呼ばせる事もある。
それは、も例外ではなく。
「それにしても、あのじゃじゃ馬を馴らすのは大変そうだな?」
「何の事だ」
「白々しい」
イアンの視線はまたテラスへと向いて。
ジオラルドはその視線の先を追って、鼻で笑い飛ばした。
「そういう、ジオの方こそ如何なんだ。少しは進展したのか?」
「近づかせてさえ、貰えないな」
のヤツめ。口内で悪態を吐くと、イアンが横目でジロリと視線を向けてきた。
「折角ジャパンのものを態々取り寄せてやってるんだ。使えないのなら、意味がないじゃないか」
「けど、が言ってたぜ。まりもなんてモノは、使えない、と」
「知らないからだろ」
イアンがまた視線を窓の外へと投げかける。
「自身も気づいていない。どれだけ、時間をかけるつもりだ?そう、君の名前を派手に出しているのに、誰も気づかない」
イアンの言葉に、ジオラルドは視線を彷徨わせる。
「当たり前だろう。俺とお前は、全く違うんだ。つるんでるなんて誰が考える。今でさえ、きっと俺がイアンを脅しているように見えるんだろうな」
実際には逆だろ?なんて付け足すと、矢張りイアンは鋭い視線を向けてくる。
如何やら、イアンも機嫌は悪そうで。
「利害が一致しただけの事だ。それに、動かない君に焦れてきてね。いい加減如何にかしたらどうだ?見ているこっちがイライラする。まるでストーカーだぞ、君は」
「あの嬢ちゃんがそんなモンでビビる玉かよ。の作った壁は以外と高い。アイツがの傍に居るだけで邪魔になる。だから、お前に引き剥がして貰おうと思っていたのにな」
「それが簡単にいくものなら、こんな事にはなってはいない。ただ」
イアンが一度言葉を切った。
この口から何が出てくるのか、ジオラルドは興味津々にイアンを見つめている。
「平穏で居られるのは、今のうちだけ、と言っておこうか」
「変なヤツだな、お前は」
イアンの言葉に、ジオラルドが小さく噴出した。
「あ、」
油断していた為か、指でまわしていたキーホルダーが外れて宙を舞う。
直ぐに手を伸ばすが、それは呆気なく地面へと落ちていく。
「あ」
。
通り過ぎるの姿が見えて。
「あーぁ」
その目の前に、まりもっこりのキーホルダーが落ちて。
ジオラルドはしまった、とばかりに手で額を覆う。
「ジーザス。何て運が悪いんだ」
「まりもばかり育てているからだろう。行って来い。そして玉砕してこい」
「バカか。んな下手な事はしない」
お前のように、なんて呟くと、矢張りとばかりにイアンの目が険しくなる。
その拳が飛んでくる前に、とばかりにジオラルドは足を翻した。
「不器用な癖に」
片手を軽くひらり、と振ってジオラルドが、の方へと駆けて行くべく、階段へと続く角を曲がった。
その後姿に、苦笑を漏らして、イアンはまた視線を戻す。
「簡単に手に入れられるものには、興味がない」
イアンの声が、誰に向かうでもなく、小さな声で、呟く。窓の外から聞こえてきた悲鳴は、聞こえなかったふりをしておこう。
――――――――――
後書き
主人公陣の出番は何処だ…(笑)
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