最悪、最悪、最悪!!!!
どうしてこんなもの目に入れなくちゃいけないの!?
は険しい目つきで立ち上がると、屈辱に顔を染めて奥歯をギリとかみ締めた。
vol. 10 微風の落し物
少し時間を戻そう。
彼女が上機嫌に歩いていたのは、薔薇の爛漫と咲き誇る中庭だった。
6月の風は爽やかな潮風を含んでいて、時折サラリと彼女の髪をかき乱していく。
(気持ちいい〜)
目に眩しい地中海の青!
濃いみどりの葉は陽光を反射し、深紅の薔薇が甘い香りを放っている。
風が吹くたびに木の葉は音を立て、木の根元でタンポポが揺れている。
「いい天気〜」
はうっとりと目を細めて、空を見上げてうんと背伸びをした。
こんな日はどこかで日向ぼっこをしながらお茶を飲むのに限る。
まるで時間の流れまでもがゆっくりになったような、そんな感覚を味わいながらは潮騒に耳を傾けた。
(そういえば……ふもとの村で買ったアンティークなティーセットがどこかにしまってあったっけ?)
コロンとした形の陶器のティーポット。
地中海の青と同じ色で描かれた線の細い花の模様。
一目で気に入って買ったものの、使うのがもったいなくてしまいこんであったはずだ。
あれをおろして使おう。
こんな日にこそ、使うのに相応しい気がする。
がワクワクとそんなコトを考えながら歩いている時だった。
ボトリ。
上から何かが音を立てて落ちてきた。
緑色の小さな固まりだ。
それは一度地面でバウンドすると、の足元にコロリと転がった。
「……何?」
誰かの落し物だろうか?
驚いて辺りを見回してみたが、誰も見当たらない。
「一体どこから……?」
はしゃがみこんでそれを拾おうと手を伸ばして――ギョッと手を引っ込めた。
「……何、コレ……」
大きさは15センチほどだろうか。緑色の丸い頭を持ったヌイグルミは、いやらしい目つきで笑みを浮かべている。
それだけでも悲鳴を上げそうなほどの嫌悪感がすると言うのに、あろうことかそのヌイグルミの股間部分がボールでも引っ付けたように丸く膨らんでいるではないか!
ザァッ、と背筋から指先まで冷たいザワザワした物が走り抜ける。
は数歩後ずさると、口元を押さえて悲鳴を飲み込んだ。
(きもち、悪い……)
一体これは、何なのだろう?
「誰かの、嫌がらせ?」
繰り返すが辺りに人影はない。
ヌイグルミが勝手に空から降ってくるわけがない。ということは、誰かが故意に投げつけ姿を隠した、ということになる。
の顔が怒りに歪んだ。
彼女は立ち上がりざまにヒールでヌイグルミを踏みつけると、顎をツンと反らしてその場を立ち去った。
(誰の嫌がらせか知らないけど!)
せっかくのいい気分に水を指されて面白くない!
こんな幼稚な事をする奴は、どうせろくな奴じゃない。よっぽど暇をもてあました頭の悪いやつだろう。
「そんなの相手にするだけ時間の無駄だわ!」
肩を怒らせて大またに歩くの視界に、ふと向こうの方から駆けて来る赤毛の男が目に入った。
(あれは確か……)
そう。と仲のいい先輩だ。
この間手合わせしたにも拘らず、彼女はまだ名前を覚えていなかった。
(どうして、こいつがこんなところにいるの?)
内心舌打ちしながら、ふと足元に転がるヌイグルミに目を移す。
そうか!
はピンと来てほくそ笑んだ。
ジオラルドは、ちょくちょく自分に対しちょっかいを出してくる。
今度の嫌がらせも、おそらく彼の仕業だろう。
どうして彼が自分にそんなことをするのか……。
答えは一つしかない。
(アタシとが仲がいいから嫉妬してるのね!)
おそらく彼はに好意を持っているのだろう。
はそう納得すると、腕を組んでジオラルドが来るのを待ち構えた。
(でも簡単にはを渡してなんかやらないんだから!)
恨むのなら今までの自分の行動を恨む事ね!
はそんなことを考えているなどおくびにも出さず、ニッコリと微笑むとジオラルドに声をかけた。
2007.4.29
遅くなってゴメンなりー。
これを書くにあたって、一話から読み返してみたけど……
恥ずかしくてもだえました(笑)
あのテンションで書いていた自分が恥ずかしい(笑)
若かったんだなぁ〜