騎士の学校には、世界中から生徒が集まって来ている。
年齢層も16歳から30代まで、様々だ。
この学校を卒業したからって、何か資格がもらえるって訳じゃあないけれど。
いつも勉強勉強って、机にかじりつかされていた日本人のアタシには凄く魅力的で。
こうしてのーんびりと、毎日をおくれる幸せをかみ締めている。
花に囲まれた中庭 ―― っていうのは少し大げさだけど。
茶色の要塞の真ん中に、ぽつりと四角く切り取られたような空間があって、アタシはそこにある椅子に座ってのんびりと紅茶を飲んでいた。
壁に吊るされた花が風に揺れて、遠くのほうから剣を合わせる音が聞こえてくる。
アタシはお気に入りの紅茶 ”イングリッシュ・ブレックファスト” を飲んで、ほぅと息をついた。
「帰ってきたんだわぁ」
騒々しかった日本が嘘みたい!
真っ青に澄んだ空に、ぷかぷか白い雲が浮かんでいる。
花に戯れるミツバチの羽音。
石造りの廊下を歩く、騎士見習いたちの足音。
その中の一つが立ち止まると、アタシのほうをじっと見て近づいてくるのが背を向けていても分かった。
「何だ。。帰っていたのか?」
「んー」
あいまいな返事を返して、首をガクリと後ろに倒して声の主を見る。
サラサラの金の髪!
緑の瞳!
すらりとした涼しい顔立ちの ”ランスロット” みたいな人が、アタシの視界に逆さに映った。
「イアン」
あたしと同学年の、イギリス人イアンだ。
中世的な顔立ちに、アンティークな装いがとても似合う。
腰に下げているのは、繊細な装飾の施された剣。
イアンは涼しげな目元をスと細めると、アタシの横に腰を下ろした。
ふあり。
壁の花が揺れて、甘い匂いがした。
いつ見ても綺麗な顔。
細い長い睫が、けぶるように緑の瞳を隠している。
しみひとつない真っ白のすべすべの肌に、思わず手を伸ばすと ――
「……なんだ?」
ぺたぺたと遠慮なくほほをなでるアタシに、イアンは驚いたように目を丸めて
「綺麗だなぁって思って」
アタシの言葉を聞いて、大人っぽい顔にみるみる悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
この瞬間が、好き。
イアンの上品そうな顔が、子供っぽく変わる瞬間が。
見ていて、こっちまでなんだか楽しくなってくるような笑みを浮かべると、イアンは自分の頬をなでていたアタシの手を取って、甲に軽く口付けた。
普通の子なら、ここで真っ赤になっちゃうんだろうケド!
気障な仕草に、アタシは思わず笑ってしまう。
薄い赤い唇に。柔らかく笑みを浮かべて。
この唇が、アタシの手に触れたんだ。
そう思うと、目が。
吸い寄せられるように、彼の唇に向かってしまう。
からかうように細められた目。
伏せられた睫が、すごく色っぽい。
初めて彼を見たときは。
とっつきづらそうな美人だと思ったけど!
涼しげな顔とは裏腹に、ひどく悪戯好きだというコトをアタシは知っている。
大人っぽい外見の癖に、子供みたいなところのある人だって。
今年は一体何人が、彼の外見に騙されるんだろう!?
そんなコトを思いながら、イアンに紅茶を差し出すと、彼は優雅な仕草でそれを受け取って、白い陶器に唇をつけた。
白いほっそりとした喉に上下する喉仏。
姿だけ見たら、めまいがしそうなほど完璧な男。
アタシは彼に騙されるであろう新入生を想像して、傾けたカップの後ろでにやりと笑った。
今年も楽しくなりそうだ!
2006.7.21
かなり遅くなってゴメン(汗)
ランスロット
アーサー王伝説に出てくる、円卓の騎士長。
ちなみに、トランプのクラブのジャックのモデルらしい。