お帰りなさい。




VOL.4






もー。ちゃんてば、内緒で帰ってた。

一度部屋に帰るとちゃんの場所に置かれていた荷物を見て吃驚。

今日の私、お化粧もバッチリで、お洋服もだぁいすきなものを選んだの。

なのにちゃんたら何処に行っちゃったのかしら?

私を置いていっちゃうなんて酷いわ。

「何処行ったのかしら?」

其れにしても、今日は風が強いわ。

スカートがふわふわして押さえるのが大変。

ふわふわしているといえば…。

あら、あんな所に女の子たちが居るわ?

学校の裏庭の花壇の中に小さく笑いあっている蝶たち。

さっき私の頬を叩いた子たちとは違って。

アレは…あの校章の色は一つ下の子たちね?

可愛い…。何て可愛いんでしょう。

白百合のように、未だ未だ純粋そう…。

私とは違って。

未だ未だ純粋そう…。

「あら、やぁだ。ちゃんを探しにいかないと。」

思わずうっとりと蝶たちを眺めていた私。スカートの裾を摘んで駆け出す。

ふわふわ、ふわふわ。

白いレースが揺れる。

向かってくる風が頬へと触れて、とても気持ちが良い。

軽く息が弾んでも構うものですか。

私が向かう先は、私の王子様の下。

大好きな大好きな、彼女の所。











「嫌だ…。またあの人が居る。」

要塞の吹き抜けの場所に備えられているテラスにつくとちゃんを見つけた。

三ヶ月ぶりの彼女は、何時ものように綺麗で可愛くて。

其処らへんを飛んでいる蝶とは全く別格。

清楚で可憐で、誰よりも濃い白の蝶。

私に持って居ないモノを持っている彼女。

の、隣にいるイアン。

「もぉ…折角見つけたって言うのに。やぁだ…。あの人、苦手なのよね」

この学校の中で如何でも良い人は多いけれど、中でもちゃんと仲が良い人は苦手。

特にあの人。

甘くて、爽やかで、誰が見ても人好きしそうな彼。

誰が見ても、誰と話しをしても、上手な人。

けれど、彼は私の前からちゃんを奪っていく人。

何時も私がちゃんとお話をしているのに、横から奪っていく人。

私には、ちゃんを押し留める程の魅力も、話力も、何も持ってはいない。

目立っているのは皆と違う服だけ。

天より高いちゃんの傍に居られるのは一瞬。ほんの一瞬の事。

ちゃんは誰とでも仲良くなれる。面倒見がよくて、綺麗で、…何処を如何とっても非の打ち所がない人。

ちゃんの傍に居たいのに。私は何時も影から見ているだけ。

如何すれば彼女の瞳を私に向けられるのかしら…?

?こんな所で何をやっているんだい?」

物陰から二人を見つめている私の後ろから聞こえてきた声にびくり、と肩が跳ね上がった。

其の声に私がそっと振り返る。

「あぁ、が帰って来たのか。で、イアンが先に見つけて、獲られた君は見ているだけかい?」

嫌な人。

「ジオラルド…先輩…」

「はっ。先輩だなんて。オレと君の仲だろう?ジオって呼んでくれよ。」

赤い髪を短く切ってツンツンに立たせていて、冷たいブルーの瞳。意地悪気に口元がニヤついていて、おまけに両耳には5つずつシルバーリングのピアスをしている。厚い下唇の端には赤い球のピアスが一つ。

嫌な人。

見た目は遊んでいる感じ満々で。実際噂をよく聞くからそうなのかもしれないけれど。

其の人が私なんかに何の用があるって言うのかしら。

一つ上の彼は私を見つけてはよく遊んでいくの。

気まぐれに、遊びたい時だけ来て、帰っていくの。

「やぁよぉ。それに…こんな所でそんなこと、いえるわけないじゃない」

「何を。が居ない事を良い事に…クッ。」

喉奥で笑いながらジオラルドが私の長く、縦に巻いた自慢の髪へとそっと指を絡ませた。

も、知っているんじゃないのか?」

「止めて。こんな所で話す事じゃぁないわ。」

「今日の白百合はご機嫌斜め、って訳か。如何する?」

私の髪をジオラルドが弄って、そして髪をそっと引き、口付けられる。

ス…と離す姿は気品漂っていて。イアンとは逆の姿だけど、彼がモテる意味が解る。

「………」

逡巡している私に掌を上に向けて私が手を乗せるのを待っている。

、良いだろう?」

ジオラルドに流し目を送られて、私は一度ちゃんとイアンの方へとちらりと視線を向けた。

楽しそうに話している姿にちくり、と胸が痛む。

「………良いわ……けれど、今日は……」

「あぁ、解っている。オレの部屋にいこう。」

そっと、そっとジオラルドの手の上に私は手を重ねる。

するとニヤリ、と口端が上がって、ジオラルドが私の手をきつく握りこんで、そっと引っ張り出した。

「そうして頂戴」

片手でスカートの端を摘み、連れて行かれるままに私は足を進めだした。ちゃんとイアンが気にならないわけじゃぁないわ。寧ろ気になるからこそ、考えたくないからこそ…。

そう、彼女が私のモノにならないのなら、私はそっと、影から見ているだけの存在。

だから、差し出される手に縋り付くの。

彼女が私のモノにならないのなら、私は誰の手をとっても、意味がないんですもの…。












コンコン。

「はーい?」

夜の10時ごろ、終課の鐘が鳴り終わった後、静かに部屋をノックすると聞こえてくる聞きなれた声。

高鳴る胸の鼓動を抑え、そっと、そっとドアを開いた。

「あ、ちゃん…帰っていたのね。お帰りなさい。ジャパンは如何だった?」

だけど、私はちゃんと目をあわせられない。

だって、私はさっきまで……。

汚れきってしまっている私。

綺麗なちゃんとは比べものにならないくらいに汚れきっている私。

けれど、汚れているのに、彼女を見ていたいのは…やっぱり、私の我侭かしら、ね…。












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後書き

お、遅くなってしまってゴメンなさいっ(土下座)


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