jealousy






VOL.6







「やあ、

午後の時間、休憩をとる為に、私は外へと出たの。

寮の直ぐ傍にある中庭の噴水に出て、噴水の縁へと腰をかけ、右手の指先をそっと水の中へと沈めた。

ふとかかった声に私は苦痛に歪むように顔を歪めた。

「ご機嫌よう、イアン」

「こんな所で何をしているんだい?」

あからさまに不機嫌に声を出してやったと言うのに、さらさらの金の髪の緑の目の男がそう言った。

ちらりと横目で見た私はイアンの表情に顔を顰めて水面へと戻した。

如何して、私が態々ちゃんと仲良くしている人と話さなければいけないの。

ジオラルドとは違ったその風格にも少々気が引ける。

「別に……休んでいただけよ」

私が不機嫌そうに顔を向けずに返事を返すと、イアンがふわりと風の匂いを漂わせながら私の右隣に座った。

顔に被った影に、私が横目でイアンへと視線を向ける。

「へえ……。所で、隣、良いかい?」

私を見たイアンは、今更な事を言い、其の言葉に私は顔を顰めるしかなかった。

「構わないわ。」

そして私はスッと立ち上がり、ふわりと柔らかなスカートの裾を両手の指先で少し摘んで上げ、イアンを見下ろした。

「私はもう行くから。」

私の王子様を、私のちゃんを横から掻っ攫っていく彼に如何して好意が持てると言うの。

寧ろ沸くのは悪意しかないの。

フン、と私が鼻を鳴らし踵を翻した。

「なあ、。知っているのかい。」

私に尋ねてはいないんでしょうけど、けど、確信を持った言葉と声音を聞いて、肩越しに振り返る。

「何がよ」

「君と、ジオとの関係を。は知っているのかい?」

低く、囁くような其の声と言葉に、彼に似合って居ない、と思ったのは一瞬のことで。

言葉に詰まり、驚きに目を見開く私を楽しそうに目を弧に描いて見ているイアンにギリリ、と歯を食いしばった。

「いや、違うな。知っている事を知っているのに、素知らぬふりをしての傍に未だ居たいのかい?」

「………ッ」

ちゃんが、私とジオラルドの事を知っているとは思えない!

けれど、確信めいている彼の言葉に、私は言葉を失って、悔しげに歯を食いしばるだけ。

「私、は……っ」

声にならぬ声で、私は懸命に言葉を続けた。

「其れでも、私、は……っ!」

傍に居たい。ただ、其れだけなのに。

彼女の近くに居る彼が、酷く、酷く…妬ましくて。

其の言葉を吐きだす事さえ、願う事さえ、無駄な事だとは解っていて。

楽しげに笑みを浮かべている彼を見て、胸にこみ上げてくる何かに、私はスカートを掴んでいる手を強く握り締め、再び踵を返した。

「逃げるのかい、君は。」

小さく笑みを浮かべている彼の声が背越しに聞こえたけれど、私は最後まで言葉を発する事はなかったのだけれど、けれど…けれどっ!

私はイアンの笑みから逃げるように、その場を去った。











「ねぇ、聞いてる!もう、聞いてるの!」

「聞いてる、さ…っと。」

赤髪の一つ上のジオラルドを前に、私は喚く。

私の話しを聞いているのか居ないのか、ジオラルドが軽く眉を顰めた。

「ちょ、っと…もう、無理……っ」

「無理じゃない、だろう?ココが、良いんだろう?」

「ちょ、待っ」

私の言葉を聞いていないかのように彼はナニかに夢中になったかのように指先を滑らせる。

「駄目、駄目…今日、は…そんな事をしにきたわけじゃ…っ」

男子寮の、彼の部屋で、ジオラルドと二人居る私。

彼の顔が酷く近くて、一瞬彼の容貌に息を呑んでしまう。

冷めた冷たい其の瞳に吸い込まれそうになり、息を止める。

「そんな事言うなよ。都合の良いヤツなんて、お前しか、居ないんだから…」

微かに息の上がった彼が興奮したように頬を紅潮させながら私に言う。

「私の、話しも…聞いて…あ、駄目…其処は、駄目っ」

「駄目じゃない…良いんだろう?」

「ちが、う…っ」

誰も彼も、如何して話しを聞いてくれないのだろう。

今日はイアンとの1件もあり、気が滅入っていると言うのに。

「其れは昨日お水変えたばっかだって言ったでしょう!だから、私の話しを聞いて頂戴って何度も言ってるじゃない!」

「昨日変えたのはコッチで、コレは一週間も水変えてないんだぞ?」

「そんな頻繁に変えてちゃ枯れちゃうって何度言ったら解るのよ!」

ジオラルドの手元には、小さな小瓶と中に入っている丸い緑の塊。

そして私の手にはホースが握られている。

「だから、変えたのはコッチじゃなくてコッチだろう!」

「違うわ、昨日変えたのは、コレで。今日変えるのはコレの筈よ!」

ジオラルドの性格や風貌からして誰が想像できるのだろう。

部屋一面にびっしりと埋められている小瓶と中に入っている丸い緑の塊。

私とジオラルドと指は反対方向に向けられている。

如何して、彼がこんなものを世話しているだなんて思うのだろう。

如何して、彼がこんなややこしいものが好きだと思うのだろう。

如何して、彼が、まりもを私と二人で世話していると思うのだろう。

「だから、イアンが知ってるって言ってるのよ!」

「何をっ」

「貴方がまりもを育てている事を!」

「…そ、其れは…非常に、問題だな…?」

ちゃんにも負けた癖に…」

「如何して知っているんだっ」

小瓶を抱えたままのジオラルドは頭を抱えた。

「だって、私、望遠鏡で見てたもの。」

「………ストーカーめ……」

「弱いくせに。」

「…………」

「本当はまりもの世話、ずっとしてたい、って言えば良いのに…。」

「そんなの俺のイメージにあわないだろう?」

「負ける方がイメージ悪いわよ。」

まるでイアンに受けた仕打ちの仕返しとばかりに私が鼻を鳴らし、ジオラルドを見下した。

色んな意味で、非常に可哀想な彼に、少しばかりの同情をこめて。

けれど、大好きなちゃんの傍に居られない自分を憎んで。

「もー…また手が汚れちゃったじゃない!」

「洗えば良いじゃないか…」

床にのの字を書く彼を誰が想像できると言うのだろう。

私が頬を膨らませながら言うと、ジオラルドがボソリと呟き、深い溜息を吐いた。

本当、如何して誰も彼もが、私からちゃんを取ろうとするの…?













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後書き

溜めに溜めた結果がこれかよ!(…)と、突っ込んでみる(ちーん)
バトンタッチ…柑子さん…(疲)





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