VOL. 7

 

 

その夜――。

「ちょっといいか?」

9時を回ったころ、はきはきとした声と共にドアが開いて、背の高いその人は開いたドアをノックした。

「ヴィンセント先輩!」

アタシとの声が重なる。

ドアを開けてからノックをする、という非常識な事をするのは一人しかいない。

三年のヴィンセント先輩だ!

先輩は列記とした女性だったが、女性だと紹介されなければそれとは気付かないだろう中世的な顔立ちをしている。

涼しげな目元、スと通った鼻筋。

宝塚の男役みたいな美貌の持ち主だ。

短い白金の髪、明るい青の瞳。

本名は確か……ビクトリアとかって言ったっけ。

先輩はいつも自分の事を「ヴィンセント」って名乗っていたけれど。

 

ヴィンセント先輩はニコニコしながら入ってくると、後ろ手にドアを閉めて鍵をかけた。

――嫌な予感がする。

アタシとは顔を見合わせると。はアタシを守るように一歩前に出た。

「何の用ですかッ! ビクトリア先輩ッ!」

「……どうしたんだ? 。今日のお姫様は機嫌が悪いみたいだな」

「帰ってください! 私たちこれから寝るんだからぁ!」

あ! ! それを言ったら……。

慌てて片腕を伸ばしてを止めようとしたときには既に遅く。ヴィンセント先輩はきらりと瞳を光らせて、長い足で優雅に歩いてきた。

「それは好都合だ」

「何で!?」

がトンと足を踏み鳴らして怒鳴る。

「私も仲間に入れてもらおう」

あーあ。やっぱり。

アタシはため息をついて、二人を無視してベッドにもぐりこんだ。

ヴィンセント先輩は、なぜかアタシたちを気に入っているらしく。こうして暇つぶしにちょくちょく部屋に来て遊んでいく。

すこーしだけスキンシップが激しいけど。先輩ヨーロッパの人だし。挨拶みたいな物だろう。

 

先輩は、いつもヒラヒラレースの服を着ているを 『お姫様』 と呼んで、あたしの事を 『お人形さん』 と呼ぶ。

ネグリジェまでヒラヒラなの事をそう呼ぶのは分かるけど。どうしてアタシまで?

先輩は腰にくるような甘い声で囁いて、いい匂いのする長い腕にふんわりとアタシたちを抱きしめる。

先輩のファンにしたら、それこそ失神ものなんだろうケド!

生憎アタシは女には興味はないし。同性愛はBLしか興味がないから。

いつも適当に流している。

もそうしたらいいのに……。

先輩も相手にしてくれないとなったら、つまらなくなって帰るだろうに。

は、からかわれるのが嫌いなのか、先輩が来ると途端に神経質になって地団太を踏みながら怒る。

そうして、ぷぅと膨らしたほっぺが真っ赤になって、余計に先輩を喜ばせるんだ。

アタシはため息をもう一つつくと、布団に丸まった。

寝よ寝よ。

こーなると二人は長いし。

今日は色々あったから疲れてるんだ。

 

アタシは欠伸をしながら、ジオラルド先輩との手合わせを思い出していた。

剣を構えて対峙したときは、隙がないと思った。

ぴんと張り詰めた殺気に気圧されした。

だけど――。

そう、ふいに先輩は何かに紀を取られたように、一瞬剣先を乱して隙を見せた。

緊張が緩まる。

隙ができる!

その一瞬を付いて一気に踏み込む!

 

剣と剣がぶつかる激しい音が響き――

ジオラルド先輩が体勢を立て直したときには、すでに勝負は決していた。

 

首元に突きつける鈍色の剣。

先輩の剣は――放射線を描いて、地面に突き刺さる。

 

先輩は舌打ちすると

「あーあ」

頭を掻き毟って、剣を拾いに行った。

 

あの時先輩は何に気を取られていたんだろう?

背中を向けていた私にはわからないけど……。

 

ぼんやりと考えながらゆっくりと眠りに落ちるアタシは、二人がいつのまにか静かになっていることに気が付かなかった。

 

 

 

 

 

2007.1.8