vol. 9   お茶にはトゲのある薔薇をお供に。

 

 

テラスでお茶でもしようと思っていたら、急に角からが飛び出してきた。

驚きながらも、ぶつかりそうになったじゃじゃ馬姫を抱きとめると、ヴィンセントは爽やかな笑みを浮かべた。

「おはよう、

「……ヴィンセント先輩……」

顔を上げたは真っ赤で、目が潤んでいる。

「おや……誰かに虐められたのか?」

の口は悔しそうに歪んでいる。形の良い眉をしかめて、目をそらして自分を見ようとしないに、ヴィンセントはこれは珍しいと顔をほころばせてまじまじと見つめた。

「別に、ヴィンセント先輩には関係がないわ」

「それは哀しい」

「ごきげんよう。ヴィンセント先輩」

「まぁ、待て。

「何、ですか?」

「そう尖った声を出すな。今からちょうどお茶をしようと思ってね。かわいい女の子を捜していたところなんだ」

「そうですか。それが私にどんな関係が?」

「今日のお姫様は、ご機嫌ナナメだな」

ヴィンセントはクスリと笑って、長い指で優雅にの髪を取って口付ける。

涼しげな眼に射抜かれたように、動けなくなる。

は、先ほどとは違う意味で、顔が赤くなるのを感じた。

「……私、お茶なんか飲みたくないわ」

囁くようなヴィンセントの低い声に、腰が砕けそうになる。

それでも、すぐに屈してしまうのが癪で、はツンと顎をそらしてそう言った。

「それじゃあ、キミの好きな飲み物と――甘いケーキでもどうだ?」

のささやかな抵抗が愛らしくて、ヴィンセントは笑みをこぼす。

腕の中で自分よりも小さな少女は、居心地が悪そうに身じろぎをしている。

 

柱と柱の間から、イアンがこちらに来るのが見えた。

 

を抱きしめているヴィンセントを見て、イアンが僅かに目を険しくさせる。

後ろを向いているは気付かない。

ただヴィンセントだけがそれに気付いて、勝ち誇ったように嫣然と微笑むと、のあごに手をかけて額にキスを落とした。

「さぁ、行こうか。。キミの大事なお人形さんも、もちろん誘って、ね」

の事を出されると、は断れない。

耳に注ぎ込まれるように囁かれたと息に、身体が震える。

はしぶしぶと頷くと、促されるままにテラスに向かった。

その背中を、イアンはじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

2007.2.17