睦月
一月一日 |
(沖田 総司)
今日は一年の始まりに相応しい、日本晴れだった。 一年の始まりがこうもいい天気だと、何だか嬉しくなってくる。 それだけで、今年一年何だかいいことがたくさんあるような気がしてくる。 不思議だなぁ。 昨日までと一体何が違うんだろう? 気温だって、昨日とそう変わらない筈なのに。何だか空気が違うんだ。 澄んでる、真新しいピリピリした空気っていうのかな? うーん……ピリピリ? 凛とした空気? 一気に酔いが覚めるような、渇を入れられる寒さっていうのかな。うまくいえないけど。 とにかく! そんな澄んだ、生まれたばかりの朝の気配に、私たちは、誰からともなく飲んでいた酒を放り出して外に出たんだ。 外は白々とした朝もやに包まれていて、何だか別世界みたいに見える。 軒先に巣作っていた雀が、やっと朝の気配に目を覚まして盛んに囀り始める。 夕べからずっと『忘年会』と称した酒盛りをしていた私たちは、身を刺すような鋭い冷気に鼻の頭を真っ赤にして、今か今かと初日の出が出てくるのを待った。 なんだか長いような短いような、変な無言の時間。 何を話したらいいのかわからなかった、っていうより、みんなそれぞれ自分の思いに浸っていたんだと思う。 神聖な時間を一緒に過ごしたいけど、でもやっぱり願いは誰にも知られたくないしね。 近藤さんや土方さんの新年の抱負や願いは、聞かなくてもわかる気がするけど! 雪は庭にこんもりと積もって、庭石さえもまぁるくて真っ白で、木の枝も折れそうなくらいに雪紐が下がっていた。 そんな一面藍色と白の世界のしじまを破って、橙色の光がパァッと差したんだ。 綺麗って言葉じゃ言い表せないくらい綺麗だったなぁ! 蝋燭に火が灯るみたいに、空に火が灯って世界がぼんやりと明るくなっていくんだ。 初日の出が顔を出した瞬間! 新しい一年が始まるんだなぁって、清清しい気持ちになった。 きっと、みんな同じ気持ちだったんだろう。 原田さんなんてそれまで寒そうに両腕をこすって、足踏みをしていたくせに、空がだんだん橙色になってくるのをみて、ぽかんと口を開いてただ一心に太陽を見つめていたんだから。
今年も一年の始まりから、みんなと一緒にいることができてよかった。 土方さんと斉藤さん、井上さんや永倉さん、山南さんがいなかったのは残念だけど……。
でも、土方さんがここにいても、一緒には初日の出を待ってくれないかもしれない。 きっと寒いって文句ばっかり言ってて! (それとも、やっぱり酔いのさめた真剣な顔で、空を見上げるのかな?) うーん。 うううん、やっぱり…… 土方さんのことだから、障子を開け放したりでもしたら、隣の部屋に行って火鉢を抱え込んで布団を頭まで被ってしまうと思う。 それで、私たちが何をしているのか気になって、隣の部屋から声をかけてきたりして……
息は吐いた片っ端から凍るくらい寒かったけど、その寒さが背筋をしゃんと伸ばしてくれるみたいで心地よかった。 太陽が富士の裾野から出た瞬間、みんなの顔が晴れやかに輝いて、近藤さんの声をきっかけに新年の挨拶をしたんだ。
「新年明けましておめでとうございます」 今年もどうか、みんなと変わらず共にありますように。 今年もよい一年になりますように、ってね。 2010.1.20
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一月二日 |
(沖田 総司) 今日は朝からみんなバタバタしていた。 若先生も大先生も、紋付はかまを着ている。 門下生の人たちが、年賀の挨拶に来てくれるからね。
私は昨日一つ歳をとったばかりだというのに、もう姉さんの持たせてくれた着物が合わなくなっていて、仕方なく奥のほうに引っ込んでいた。 だって、こんなにめでたい日に普段着でみんなの前に行くわけにはいかないでしょう? 皆忙しそうだし、裏の仕事でもしようかと襷を掛けたとき、おかみさんが私を見つけて一喝した。 「新年から、そんなみすぼらしい格好をするんじゃないよ!」 おかみさんは怒ったようにそう言って、私に着物を押し付けて足早に去っていく。 若先生の着物を貸してくれたのかな? そう思って風呂敷を開いてビックリした。沖田家の家紋が染められている! その時の気持ちを何て言ったらいいんだろう? じんわりと心が温かさに満たされていって、思わず言葉に詰まって俯いてしまったんだ。 鼻が熱くなって、目の奥が鈍く痛んで…… そっと家紋を指でなぞって、抱きしめた。 おかみさんが私のために拵えてくれたんだ! そう思うとひどく嬉しくなった。 今までおかみさんとは色々あったけど、やっと私のことを認めてくれたような気がして胸がいっぱいになった。 その着物に袖を通すのがひどく誇らしくて。 よほど私は嬉しそうな顔をしていたのかな? 若先生は顔をくしゃくしゃにして笑うと、私の頭をぐいぐいと撫でてくれた。
ありがとう、おかみさん。 今年もどうぞよろしくお願いします。 2010.1.23
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一月三日 |
(沖田 総司) 午前中に永倉さんが来た。 やっぱり紋付羽織袴を着ていて、お互い慣れないせいか妙に照れくさくて、顔を見合わせて笑った。 永倉さんはおどけた様子ではにかんで笑うと、急にきりっとした顔になって頭を下げた。 何度繰り返しても、新年の挨拶はやっぱり真新しい気がする。
それから来たのは、えーと、山南さん、平助、井上さん。 お昼を過ぎてから、ばたばたと土方さんがやってきた。 たぶん走ってきたんだろうけれど ( 後ろで束ねた髪が、少し風に乱れているからね )、うちの前で息を整えてきたんだろうな。 少しだけ赤い鼻で、土方さんは大先生と若先生に挨拶をすると、ニヤリと笑って私に向き直った。 わかってますよ! 「明けましておめでとうございます。今年はお手柔らかにお願いしますね」 ちょっとだけの皮肉を込めて私が言うと、土方さんは満足そうに 「言いやがる」 と笑って、照れくさそうに挨拶をしてくれた。
今日は他にも、いろんな人たちが来てくれた。 でも、みんな忙しいからね。玄関先で挨拶を済ませると、すぐにまた違うお宅に向かっていく。 大先生も若先生も、暇を見つけては交代であいさつ回りに出ていたけど、私は留守番組。 ここで皆が来るのを待つ方が好きだな。 だって挨拶回りって肩が凝ってしまうでしょう? お正月を迎えて、皆一つずつ年を取って。 今年になって初めて会うんだもの。 私はここでみんなを迎えたい。
2010.1.24
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一月四日 |
(沖田 総司)
今日の朝ごはんは、塩鮭だった。 今日は、というより今日”も”だけど。 年末に日野の佐藤 彦五郎さんが新巻鮭を下さったおかげで、嬉しいことに、ここ数日豪華な食事が続いている。 唯でさえお節があるから食べ過ぎちゃうっていうのに、塩鮭はご飯が進むからついつい食べすぎちゃって! 私も、原田さんも若先生も! みんな、なんだかここ数日で太ったような気がする。 お正月が終わって土方さんに会った時、笑われそうで嫌だなぁ〜。 でも、栗金団や黒豆が目の前にあったら、ついつい食べちゃいますよね!? ……甘味が私を誘惑するんです……。 見てみないふりをするなんてこと……!
まだ正月だから道場開きもしていないし、門下生の皆も稽古に来ないから栄養だけが無駄に蓄えられちゃって! 一人で庭で素振りをするのもそろそろ飽きてきたしなぁ〜。 原田さんは正月だからってごろごろ寝てるだけで、全然相手になってくれないし……。 はぁ。 早く稽古がしたいなぁ! このままだと私、暇すぎて食べ過ぎて牛になっちゃいますよ! 2010.1.25
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