300文字で書いた小説です。

バージンロード
慣れない燕尾服に、背筋が伸びる。
今日は一人娘の結婚式だ。
まだ子供だと思っていたのに。月日が経つのはなんと早いのだろう。
このドアを開けたら…ウェディングドレスを着た君がいるなんて…今でも信じられないよ。

夏の夕べ、君と並んでうたた寝したこと。
二日酔いを隠し青い顔で遊園地に行ったこと。
君を叱り付け泣かせたこと。
顔をぐしゃぐしゃにして泣く君を見て、私も泣きたくなって背を向けたこと。
忘れ難い思い出ばかりだ。

君の手を取り、横顔を目に焼き付ける。
君は真っ直ぐ前を向いて歩いて行く。
私は新郎を見て頭を下げると、フワリと弟の体から抜け出した。

お父さんが来てくれた様な気がした。

涙の滲む君の声に胸がいっぱいになった。


2011.3.3