(2001年)
私が地方公務員になったのは、昭和46年でした.
釣りが好きで、その頃は、職場の同僚、上司と毎週のごとく釣りに行っていました。
当時は、土曜日が昼まで仕事だったので、昼から準備をし、私の家を中継基地にして、主に鳴門、小松島、阿南方面に出かけていました。
いつもガシラ(カサゴ)がたくさん釣れ、たまには大きな黒鯛や、今はほとんど釣れなくなった、アコウメバルやコショウダイ、高価なイセエビを釣ったこともあります。
何が釣れるか分からない?大漁になるかなー?大物が釣れるかなー?という期待で、毎週のごとく釣りに行っていたと思います。
でも、最近は、年とともに老眼が進行し、夜目がきかなくなり、夜釣りが遠のいています。
この30数年間にざっと計算しても、1300回程度は釣りに行ったことになります。回数からするとものすごい数字になりますが、月にすると3回程度です。30数年という期間がいかに長いかということになります。
クーラーに入りきらないぐらいの大漁や、1匹も釣れなくて氷だけの空しい結果が何度もありました。
また、この間釣果だけでなく、いろんな出来事がありました。
アルツハイマーに侵されかけているのか、最近物忘れがひどくなっている我が大脳の記憶の糸をたどり、たぐり、思い出を綴ってみたいと思います。
もう何年前だったか、夜、何時以降は、無駄な照明は消しましょうということで、高松市の中心街のネオンや街灯が、一斉に消えたことがあった。
その当時の、政府の方針だったのか、エネルギー危機だったのか、今、よく思い出せないが、残業が終わって、暗い中央通りを高松駅に向って、足元に注意しながら帰ったことを覚えている。
というのは、3度ほど犬の糞を踏んづけたからである。
汽車に乗って臭いで気がついて、恥ずかしい思いをした記憶がある。
でも、夜釣り、特にチヌ釣りなどは、闇夜が良い。
しかし、その分違った危険が伴うのである。
その日は、蒸し暑い夜だったように思う。特に用の無かった私は、餌を買い、家から近い三本松港に出かけた。
風が無く、潮もよく、平日だったので、人も少なく、絶好のコンディションであったが、不思議とこんな時に限って、釣れないことが多いのである。
こんな状況になると、移り気の多い私は、いつものごとく釣れそうなポイントを探して、移動をはじめるのであった。
波止の中ほどから先端に向って歩いていたその時である。
突然、ズボッと全身が水中にあった。わずかに両手が水面に出ていたが、それ以上沈まなかった。
というのは、竿がコンクリートの縁にかかり、止めたためであった。
あの世界的に有名だった冒険家の植村直巳氏は、冬山に単独登山するとき、5メートルぐらいの竹竿を担いで上ったそうである。
誤ってクレバスに落ちたとき、竹竿が落ちるのを止めてくれたからである。
これで何度も命拾いしたそうである。
私も、命拾いまでという、切羽詰ったものではなかったが、竹竿と同じ効果があった。
雨水、塩水、ビニール、空き缶、オキアミ、釣り人のオシッコ等がごちゃ混ぜになって、コーヒー色をし、ごみがたくさん浮いた、きたない水溜りがあったのは、ずっと前から分かっていたのだが、この時は、まったく気がつかなかった。
それにしてもこんなに深い穴だとは、思いもしなかった。
足が底に着いていなかったのであるから、2メートルぐらいの深さがあったのではなかろうか。
あの時、技術屋としてこのいまいましい穴の深さを、キッチリと測っておくべきであったと、今、本当に悔やんでいる。
寒くはなかったこと、ほどよくブレンドされたこの水を飲まなかったこと、周りに釣り人がいなかったため、恥ずかしい思いをしなかったことが、不幸中の幸いであった。
後日、県の港湾課の知人に、あの穴は何のための穴か聞いてみると、灯台を作るための、基礎穴であろうとのことであった。
落ち込む者もドジだが、このような危険な穴を何年も放置しておくのは、問題であろう。
海ならまだしも、堤防の上で土左衛門になるなんてことも、起こりえるかもしれない。
結局、灯台は必要無かったのか、また私みたいに落ち込んだ不幸な人がいて、苦情を言ったのか、この穴も今は、コンクリートできっちりと埋められている。
人に聞いた話であるが、波止の上で竿に絡まった道糸を、竿先に向って直していたら、踏み出した足の下にコンクリートがなかって、2.5メートル程下の石積みに落ちて、足をくじいたとか。
竿を先においてテトラポットに飛び移ればよかったものを、竿を持っていたため着地に失敗し、足の骨を折ったとか。
夜釣りには、このような笑うに笑えない悲劇がよく起こるのである。
もうひとつ、私のエピソードを椎名 誠風に書いてみたい。
今夜も蒸し暑い闇夜だった。
いつもの釣り好きのメンバーと徳島の津田港に来ていた。
秋刀魚の切り身の餌でカサゴが順調に釣れていた。
もう25匹あまり釣っただろうか、のどが乾いたので、一休みということで、クーラーボックスからよく冷えたコーラを取り出し一口、うまい!五臓六腑に染み渡るー。
半分ほど残っているコーラの缶を波止の小段に置いて、さあ釣りの再開、心地よいカサゴの引きを楽しむ。今日は型が良いぞー!クーラーボックスがだんだん重くなってきた、今夜の夜釣りは、最高ー!
いい気分になって、波止に置いていた缶コーラの残りを、ぐっと一気に飲み込んだその時、のどの奥に突如として沸き起こった、身の毛もよだつこの感触は、こ、これは海のゴキブリ、フナムシだー。
未だ経験の無い刺激が、脳神経を駆け巡り、予期せぬ出来事に我がのどチンコ軍団と、胃液同盟軍は、不意の侵入者に総攻撃を開始したのであった。
グェー・グェー・グェー、ウゲー・ウゲー・ウゲー長い戦いの後、我が連合軍は、少量の胃液と、涙と、鼻水の貴重な犠牲を出し、侵入者をついに石積みの間に撃退したのであった。
そして、この戦いは、我が釣り史の中で、忘れられぬ思い出として、長く長く長く…・語り継がれ、闇夜の続く限り、また、新たな戦いが、始まるのであった。