(2002年)
夜釣りで危険なものの一つに釣り上げた魚がある。
釣れたといって簡単に素手でつかんではいけない。よく間違いやすいのは、カサゴの小さいのとハオコゼである。
ハオコゼは、海水浴に行ったときによく刺されるやつである。
私も何度か刺されたことがあるが、針で刺した痛みがして、すぐにじかじかした痛みになり、しばらく痛みが続く。
こんな時、応急処置として、熱いお湯につけるとかおしっこをつけたら効くそうであるが、そう簡単にどこでもできるものでない。
このハオコゼとカサゴの子は、実によく似ている。昼でも間違うぐらいだから夜になると全く分からない。
小さくて赤いこの手の魚が釣れたときは、じっくりとヘッドランプで確認し、ハリから外すことにしている。
このように用心深くしているので、素手でつかむということはないが、その後がいけない。
針外しを出して慎重に外すかハリスを切ればいいのに、ついつい手抜きをして、足で踏んづけて針を外していて、刺される。本当にドジなのである。
本題から外れるが魚の持っている毒について、少し解説したい。
毒魚の中で毒の強さが最も強いのがフグである。フグの毒は、テトロドキシンといって青酸カリの1,000倍という猛毒である。
食べておいしいので素人が料理をして中毒し、手当てのかいも無く死にいたることも多い。
釣りに行っていて、釣ったフグを持って帰る人をよく見かける。
そんなんもって帰ってどうすんなーと聞いたら、自分で料理すんやーとの返事である。
皮むいて、内臓をとってよー洗ったら心配無いでー、おいしいでーといっている。
でも、種類によっては、肉にも毒が含まれているものもいる。人一倍好奇心旺盛な私であるが、いくら おいしくても自分の名前が変わるかもしれないそんなリスクは、とてもとても真似はできない。
フグの種類でキタマクラというのがある。
和名の由来は、死者の頭を北に向ける風習から、この魚を食べると必ず死ぬといわれることによる。 皮膚、肝臓、腸などに毒を持つが、名前ほど毒性は強くない。
フグ毒でランキングの第1位はクサフグである。釣りに行ったときいつもよく釣れるおなじみの外道で、全長最大20cmになるが、全てに毒が含まれていて、食べる部分は無い。
第2位がコモンフグ、以下ヒガンフグ、ショウサイフグ、マフグと続きキタマクラは、10位か11位ぐらいのランキングになるのである。
カサゴやオコゼ類の毒は、ハブ毒の18倍もの強さだそうであるが、毒の量が極めて微量のため、死亡例は少ないとのことである。
オコゼやカサゴには、名前の前にオニがつく、いかにも怖そうな名前のやつがいる。
水族館に行けば実物を見ることができるが、名前のごとくいかにも強暴な体つきをしている。このようなやつは、狂暴そうな分、一般のものより毒の量も多いのだろうか?
今度、ゆっくりと研究したいと思っている。
ずいぶん前になるが、徳島県の椿泊に釣りに行っていたことがあった。
いつも途中、徳島市の釣具店でゴカイやオキアミを買い、スーパーで晩飯の弁当を仕入れ、暗くなる前に釣り場につくようにしていた。
道路があまり整備されていなかった時代であったので、釣り場まで行くのに時間がかかっていた。
でも、釣り好きの連中と行く釣りは、行く道中が楽しいのである。
過去の釣果や釣れたポイント、自慢の仕掛け、釣具、釣れたときの状況など話題に事欠かない。
あれこれ話している間に着いてしまうのである。
この椿泊という場所、阿南市の南東にある天然の良港である。
北西の風をさえぎるように突き出ている半島の先端にあり、海際の狭い道を通っていく。
山の裾野と海の間の狭い土地に、半島に沿ってびっしりと家が建っており、その中は、さらに道が狭くなっているが、その一本道を通らないと釣り場にたどり着けないのである。
ハンドルさばきの見せ所であるが、対向車がくるとすれ違いができる場所まで戻らねばならず、対向車が来ないことを祈りつつ運転をしていた。
集落の中ほどに、車が4台くらい置ける場所があって、駐車料金をおばちゃんに渡し、釣具を持って各自それぞれのポイントに散らばる。
防波堤から2メートルぐらい下がったところに船着場があって、漁船を係留している。
漁船と漁船の間で釣るのであるが、夜は係留しているロープが見えないので、注意しなければいけない。
この椿泊、釣りをしていてもう一つ注意しなければならないことがある。
たまに、頭の上から残飯等ごみが落ちてくることがあるのである。
何故かといえば、住民がごみを海に捨てるのである。ここの住民は、海から恩恵を受けているのに、何故このようなことをするのだろうか?
自分勝手な推測であるが、道幅が狭く、ごみ収集車が入れないからでなかろうか。
多分当たっているように思う。
といいつつ、また、横道にそれてしまったが、この場所で大きなゴンズイを釣ったことがある。
ゴンズイは、なまずをほっそらとした体型で口の周りに8本のひげがあり、背びれに毒針があるため釣り人に嫌われている。でも、魚類図鑑を見ると蒲焼にして食べられるようである。
瀬戸内海でも夜釣りで釣れることがあるが、せいぜい15cmぐらいである。
ここで釣ったやつは、23cmぐらいもあった。
この日は、長い時間をかけて久々に行ったにもかかわらず、目的の黒鯛は全く釣れず、いつもよく釣れていたカサゴもあまり釣れず、そんな時こ奴が釣れたので、こん畜生と靴でぐっと踏みつけた。
蒲焼にして食べれるのを知っていたら、そっとクーラーの中に入れて、そんな仕打ちはしなかったと思う。
ところがである、そ奴は、渾身の力を持って反撃してきたのであった。
身を反り返らせて必殺の毒針を靴に突き刺してきた。
その時履いていた靴は、釣り専用の底にスパイクのついたちょうどキャラバンシューズによく似た靴であった。
運動靴よりしっかりした靴であったが、なーなんと毒針は靴を突き抜けて足の甲に突き刺さったのであった。
しまったやられたーと思ったが、もうそのときは遅い。すぐにハオコゼに刺された時と同じ痛みが始まった。でも、その痛みは、ハオコゼの比ではない、心臓の鼓動のような規則的な痛みがズキズキと頭の芯に響いてくる。
まー恐らくゴンズイに刺された人はいないと思うが、この痛みは刺された人にしか分からない。それからは、痛みが気になって釣りにならない。
刺されたのは、午後10時ごろだったと思うが、釣りを止めて朝まで車の中で仮眠して、朝の6時ごろ帰路についたが、帰る頃でも、まだ、痛みは続いていた。
最近は、年をとって、今までの経験による学習でずるがしこくなった分、危険なことに会うことが少なくなってきたが、また、新たな危険が生じてきたのである。
それは、誰もが経験する老化現象である。
先輩諸氏から老化に対する喩えと言われていた言葉に、目、歯、○○がある。
目は、子供のときからよかった。近眼にもならず、めがねをかけている同級生を知性があふれているようで、うらやましく思ったことがあった。
一般的に、近眼でない人は、老眼になるのが早いとよく言われているが、自分はそんなことはない、老眼なんかになるものかと思っていたが、悲しいかなやっぱしごく普通の人間であった。
年をとるに連れてだんだんと新聞の字のピントが合わなくなり、ぼやけて見え、暗くなるとなお見えずらくなってきた。
この老眼という奴、夜釣りには大敵である。
まず、糸を結んだり、より戻しの穴に糸が通らなくなる。昼間であれば何とか出来るが、ヘッドランプの光では、全くピントが合わない。
以前、老眼を克服するため遠近両用のめがねをかけて夜釣りをしたことがある。
確かに手元はよく見えるのであるが、足元を眼鏡越しに見るとゆがんだように見え、しばらくかけていると船酔いになったような感じになる。
反って危険であり、すぐにはずした。
このようなことから、老眼鏡までかけて釣りは出来ないので、もう感で糸を通している。
また、老眼という奴、遠近感が悪くなり、視野も狭くなる。
足を踏み外して転倒したり、段差やロープに足を引っ掛けたり、夜釣りには、老眼は本当に危険である。
さらに、老化現象での問題に動作が鈍くなることと、物忘れがある。
釣り場に着いて竿を伸ばし、浮きやハリスを不自由な思いをしてつけ、やっと釣ろうと思って仕掛けを放り込んでいたら、ズボンに引っ掛け、それを直して再度投入していたら、今度は、ハリスが道糸に絡まっている。
若いときは、そんな時もつれた仕掛けを簡単に直せていたのだが、今は、切って新しい仕掛けに取り替えたほうが早い。
新しい仕掛けに着け直そうとしてベストのポケットからはさみを出し、仕掛けを取り替える。仕掛けを投入してほっと一息つくまもなく、餌箱をひっくり返し、オキアミを拾おうとしてしゃがんだら、はさみを出した後のベストのポケットがしまっていなくて、はさみや買ったばかりの電気浮きを石積みの間に落とし込む。
もーそんな事態になると、自分のふがいなさで、釣る気がしなくなるのである。
今から20数年ぐらい前、釣り好きの某上司とメバル釣りに行ったことがある。
暗くなりかけた頃釣り場に着いて、竿を出して釣り始める。ばたばたと良型のメバルが釣れ出してきても、某上司は、一向に釣る気配がない。
どうしたのかと様子を見に行くと、道糸がもつれてそれを直している。
そのときは、何でそんなにもたもたしよんかいなーと思ったが、今、自分がそのときの状況に直面しているのである。
今後、自分の老化がどうなって行くのか、未来のことは、分からない。
でも、今まで以上に危険が増すことは、間違いはない。
闇夜のある限り、これからも釣りに行くと思うが、新たな戦いにならないよう、細心の注意を払っていきたいと思っている。