ヘリヤはアクアとマリンそしてラズリと共に牢に閉じ込められていた。
牢と言っても小さな空洞に細めの鉄格子をつけた質素な物だったが、
この鉄格子は魔道具でジンや人間では触るだけでも怪我をしてしまうだろう。
「あの…わたしたち、これからどうなるんですか?」
「…心配しなくてもあなた達のお兄さんが助けに来てくれるわ」
不安のあまりすがりつくマリンをヘリヤは優しく諭した。
「あの兄貴にそんな事できるわけないだろ」
アクアは強がってはいるがよく見ると震えていて怯えているのを隠しきれていない。
(確かにラピスはあてにならなそうだし、カマルとアイスだけでどうにかできるのかしら?
こんなことになるんだったらあの二人にもついてきてもらうんだった…)
ヘリヤは触る事すらかなわない鉄格子を見て小さなため息をついた。
一方ルセアとザビエラは別の牢に入れられていた。
こちらの牢はヘリヤたちが閉じ込められていた物より頑丈そうに見える。
「ついでに捕まえたけどこいつらどうするんだ?」
「女でも三十近くじゃあまり高く売れそうにないし、もう一人も癖が強すぎだろ」
「だよなー、親分もこんなのどうするんだろうな」
牢を見張る男たちはルセアとザビエラを見て笑っていた。
「失礼です、私だって高く売れます!」
「ルセアは売られたいんか?」
「そうじゃないけど、なんか悔しいんです!」
ルセアの悲しい叫びは男たちの笑い声にかき消された…
その頃カマルたちは町中を歩いていた…
「場所は分かるって言ってたけどおれたちだけでどうやって助けるんだ?」
「…問題はそこだ、ヘリヤから聞いた状況では私とお前で全員助け出すのは難しい」
「…あの、僕は?」
「悪いが戦力外だ」
カマルにはっきりと言われてラピスはうなだれた…
「だが人数を増やすにも信用できてある程度戦える奴なんてそう簡単には…」
そんな時どこからか言い争いをするどこかで聞いた事がある声が聞こえてきた。
「この期に及んで何言い出してんだ!」
「そう言ったってどうやってこの街からあいつをさがすんだよ?!」
「だからといって引き返すのか? だったら金返してからにしろ!」
「今その話はいいだろ!」
そこには今にも殴り合いが始まりそうな勢いでつかみ合っている二人組がいた。
「あいつらってアルとジイドじゃないか。何でこんな所に…」
「多分ヘリヤを追いかけてきたんだろう、ちょうどいいあいつらも連れて行くか」
カマルはアルとジイドに静かに近づき、二人の間に割って入った。
「お前らこんなところでけんかするな」
「関係ない奴は引っ込んでろ…ってカマルじゃないか」
「そっちにいるのは確か…アイスとラズリか。なんだ見つかったのか。
ほら見ろ、わざわざ俺たちが来る事なかったじゃねえか」
「…あそこにいるのはラピスだ。それと、お前たちに手を貸してもらわなけらばならない状況になった」
「…詳しく話を聞かせてもらおうか」
カマルは簡単にだが今の状況を二人に話した。
「お前さんの話は分かった、それでヘリヤたちは今どこにいる?」
「…この街の南辺りだ、ここから数時間で着くと思う」
「分かった、すぐに向かおう…ジイド、逃げるんじゃねえぞ!」
「に、逃げるわけないだろ!」
「…けんかを続ける気なら、付き合うのもめんどくさいし置いていくぞ」
カマルはまた言い争いが始まりそうな二人を置いてさっさと歩き始めた。
アルはそれを見てジイドをつかんで慌てて後を追った。
「あの二人たよりになるのかな…?」
「大丈夫だって、いざとなったらおれもいるんだから」
アイスは不安そうなラピスの肩をたたいて励ました。
「アイス…」
「おれたちも行くぞ」
「うん」
アイスとラピスも続いた後を追った。
数時間後、ラピス達は街を離れルセアがいると思われる場所の近くの丘の上に来ていた。
「ルセアに仕込んだ魔法アイテムの反応だと多分あの岩山の中だと思う」
カマルはあちこちに穴が開いている岩山を指差した。
「あそこか…それでどうやって助ける?」
「そうだな…できればうまく進入して誰にも気付かれずに連れ出したいが…」
「そんなめんどうな事をしなくても、さらった奴らを叩きのめせばいいんじゃないのか?」
話し合っているカマルとアルにアイスが口を挟んだ。
「おれたちだけじゃ難しいだろ」
「相手の人数も分からないし、まともに戦えるかどうかも分からない」
「戦えないなんて事あるのか?」
「いいか、あいつらは弱い者を狙うような卑怯な連中だ、
襲撃を受けてすぐに商品を連れて抜け道かなにかから逃げ出すなんてめんどうな事になるかもしれない」
「いや、最悪の場合足手まといだと判断して口を封じてから逃げることもあり得る…」
「…口を封じるって殺すって事ですよね? ラズリもアクアもマリンも殺される?」
「おいラピスさっきからおかしいぞ。今そうならないように考えてるところだから…」
「僕のせいだ…僕がアクアとマリンを連れてこなければ…そもそも十年前…」
ラピスは顔を真っ青にしてブツブツと喋り始めた、目も虚ろになってしまっていてアイスの声も届いたいないようだ。
「アイス、ラピスを少し向こうの方に連れて行ってやってくれ」
「わ、分かった。ほらラピス行くぞ」
「僕のせいで…僕のせいで…」
ラピスはアイスに引っ張られて連れて行かれた…
「いいのか?」
「…今はあいつらを助ける方を優先するだけだ」
「…そうだな、だがどうする? あの岩山の中に潜んでいる事位しか分からないんじゃ手の打ちようがないぞ」
カマルとアルが考え込んでいると、カマルが何かに気付いた。
「さっきからジイドの姿が見えないが、どこに行ったんだ?」
「ジイドならもっと近くで様子を見てくるって言ってたけど、遅いな…」
「まさかあいつ逃げたんじゃ…あの野郎」
「呼んだか?」
アルが叫びかけたとき、ジイドがひょっこりと現れた、肩に縛られた男を担いで。
「ちょっと様子を見に行ってたら、あの岩山の洞窟から出てきた奴がいたからふん縛って連れてきた」
「…見つかってないだろうな」
「おれがそんなヘマするわけないだろ」
「どうだかな」
「その辺りの事は面倒だから後で考えるとして、とりあえずこいつに尋問するか」
カマルは喧嘩を始めようとするジイドとアルを無視して地面に放り出された男の口を塞いでいた布をほどいた。
「てめえら、こんなことして…」
カマルは叫ぼうとする男の顔をためらいもなく殴った。
「誰が喋ってもいいと言った? お前は私の質問に答えるだけでいいんだ、分かったな?」
男はカマルの冷たい目つきに威圧され首を縦に振った。
(三人がかりで尋問中)
数十分後、男は再び口を塞がれ、放心状態のラピス以外の四人で男から聞き出した情報を基に作戦を考えていた。
「ヘリヤたちとルセアたちとで捕まっている場所が離れているらしいな…」
「二カ所を回る余裕はないな、二手に分かれるか」
「それなら、ヘリヤたちの方はお前たちが向かってくれ、私はルセアたちの方に向かう」
「なんでおれがこいつとなんか…」
「そっちは一人でいいのか?」
「ああ、ヘリヤたちの方は人数が多いし、まだ幼い子供が二人に意識がないラズリもいる、
人手を多くするのは当然だ。それに組むなら普段から付き合いのある二人を組ませる方がいい。
それと自分が助けたい奴がいる方に行く方がお互いに都合がいいだろ?」
「…分かった、それでいい」
「ッチ、しょうがねえなあ、足引っ張るんじゃねえぞ」
「こっちの台詞だ」
ジイドとアルは不満そうだが渋々だが引き受けた。
「あのー、おれは?」
「アイスはここで見張っていてくれ」
「見張りなんているのか?」
「念には念を入れておいた方がいい」
「それと後ラピスが追い詰められてどういう行動に出るか分からないからそっちも気をつけるように」
カマルはそっとアイスに耳打ちし、アイスは真剣な面持ちで頷いた。
「よし、これで全部決まったな」
「え? ヤシュムとバリーゥはどうするんだ?」
アイスの一言に三人とも目をそらした…
「…あの二人の事はあいつからは聞き出せなかった」
「じゃあどうするんだよ、見捨てるのか?」
「いや、とりあえず居場所が分かっている奴らから連れ出してからどうにかして探し出すつもりだ」
「どこにいるか分からないんじゃ仕方ないか…」
「よし今度こそ全部決まった、なんとしても助け出すぞ」
三人は立ち上がって岩山に向かった。
あとがき
ザビエラさんとアイスさん(藤乃蓮花さん)、ヘリヤ・ジアーさんとアル・アーディクさんとジイドさん(戸成さん)、ルセアさんとカマルさん(鶫さん)お借りしました。
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