アルとジイドは人さらい達の隠れ家に進入してヘリヤたちのもとに向かっていた。

「なあ、本当にこっちなのか?」

「ああ、あの男の話ではもうすぐ着くはずだ」

「そうかよ、それにしてもこの道曲がりくねっていて歩きにくいな…」

「そういや、この隠れ家は住み着いていた魔物の巣を利用して作ったとか言っていたな」

「もう少し人間が歩きやすいように改築しとけよ…」

「少し黙れ…」

アルはジイドの口を押さえて、壁に背中をつけて身を隠した。

道の先の方からは誰かの話し声が聞こえてきた。

「なぜ見張りなんかしなきゃ行けないんだ。こんな所に来る奴なんていないだろ。
 だいたい、あの牢があればここの守りは十分じゃねえか」

「仕方ねえだろ親分に今日は特に警戒しろって言われたんだから」

見張りが二人いて、色々とはなしていた。

「ったく…今日に限ってあんな事を言い出したんだ…」

「なんでも、占いでとんでもなく悪い結果が出たとか…」

「占い? 親分占いをするのか?」

「ああ、腕のいい呪術師だったらしい…そこにいるのは誰だ!」

見張りの一人がアルとジイドに気がついてナイフを投げてきた。

だがアルのルフのイオが風を起こしてナイフの軌道を逸らした。

「な、ルフだと」

ジイドはそのすきをついて一気に見張りに近づいき、コピシュで切り裂いた。

「大したことなかったな」

「そうだな、それよりさっさと行くぞ」

アルとジイドは動かなくなった見張りを適当に隠して、守っていたと思われる道を進んだ。

そしてしばらく歩くと少し開けた所に着いた。

「…アル? それとジイドも…」

「え? あいつらヘリヤの知り合いなのか?」

「確か、姉様の手紙にそんな名前の人達の事が書いてあったような気が…」

そこには牢に捕らえられたヘリヤたちがいた。

「無事か? 何かされなかったか?」

アルはヘリヤを見るとすぐに牢に駆け寄った。

「ええ、閉じ込められていただけでそれ以上の事は何もされていないわ。それよりどうしてここに?」

「こいつがあんたの事が心配して迎えに行くって言い出したからだよ。
 おれはどうでもよかったんだが、借金をネタに脅されて着いてきただけだ。
 っていうかアミナとかいう料理人に会いに行くって聞いていたんだが、なんでこんなことになってんだ?」

ジイドは不満そうな顔でヘリヤに文句を言った。

「そ、それは…」

「そんな事よりここから出るのが先だ」

アルは牢の戸を調べ始めた。

「まってこの牢屋は魔道具で…」

「ジーニーのおれには関係ねえな」

アルは牢の戸をつかんで力を入れてみた。



バキッ





すると鈍い金属音が響き、戸が外れてしまった…

「…は?」

その光景にその場にいた全員が唖然としてしまった。

「あんたどんだけ馬鹿力なんだよ」

「いや、この牢がやわすぎたんだ。それより早く出てこい」

「でもラズリが…」

「あいつはおれがに任せろ」

アルはヘリヤ達と入れ違いに中に入りラズリの様子を確認した。

「確かになんかされてる見てえだな…この首輪が原因か? まあいい、とにかく連れ出すぞ…」

アルがラズリを抱えて運びだそうとするとラズリの体が何かに引っ張られるような感覚がした。

「なんだこれは…」

ラズリの影に隠れて気付かなかったが首輪には鎖がついていて牢の鉄格子に繋がっていた。

「おいどうするんだよ? まさか姉貴をおいていくとか言わねえよな」

「当然だ。おいジイドなんか切れそうなもん貸せ!」

「そんな事言われてもこんなもんしかねえぞ。」

ジイドはそう言ってさっきの見張りが持っていたナイフを牢に投げ込んだ。

「こんなもんしかねえのか…お前らは先にここから逃げろ、おれたちは後から行く」

「…分かった。お前ら着いてこい」

ジイドはヘリヤたちを連れて出て行った。

「やるしかねえか…」

アルは愚痴をこぼしながら鎖の切断に取りかかった。









その頃カマルは身を隠しつつルセアたちを探していた。

「やたらと見張りが多いな…だが情報ではこの辺りにいるはず」

カマルは見張りの目を盗みつつ近くにあった部屋に入った。

「…カマル? カマル! 来てくれたんだ!」

幸運にも入った部屋がルセア達を閉じ込める牢屋がある部屋だった。

「しっ、声が大きい」

カマルは手のひらでルセアの口を押さえた。

「さっさとこんな所出て行くぞ」

「うん」

「なんだか、頼もしいのぅ」

カマルは慣れた手つきで牢屋の鍵を開けてしまった。

「カマル〜、怖かったよ〜」

「わしもー」

牢屋の扉が開くと同時にルセアがカマルに抱きついた。ザビエラもどさくさに紛れて抱きついた。

「二人とも落ち着け、そういうのは後にしろ。今はとにかくここから出るぞ、着いてこい」

カマルは周りの様子をうかがいながら部屋を出てルセアもそれに続いたが…

「ザビエラちゃんどこ行くの!?」

なぜかザビエラはカマルとは逆の方向に歩いていた。

「おいどこに行く気だ? 出口はこっちだ」

カマルは慌てて呼び止めようとしたが、ザビエラは気にとめる様子もなく歩いて行ってしまった。

「いったい何を考えてるんだ…あーもうめんどくさい」

カマルはルセアの手を引いてザビエラが歩いて行った方に進むと、ザビエラがある部屋に入っていくのが見えた。

カマルとルセアが後を追って部屋に入ると、中には様々な置物や道具が並んでいた。

ザビエラはそれらには目もくれず棚に置かれている赤い小瓶を手に取っていた。

そして栓を抜こうとしたとたん、ザビエラは小さな悲鳴を上げ小瓶を落としてしまった。

「ザビエラちゃん!?」

ルセアとカマルは慌ててザビエラに駆け寄った。

カマルがザビエラの手を取って見てみると手の平が真っ赤に焼けてしまっていた…

「魔道具か…なぜこんなことを?」

「わしはその瓶を開けないといかんのじゃ…」

「無理をすると今度は手が焼け落ちるかもしれないぞ」

「それでもじゃ!」

ザビエラの真剣な訴えにカマルはため息を着いた。

「…ルセア、お前がやってみろ」

カマルはザビエラの手当てをしながらルセアに指示を出した。

「私が!? でも魔道具って確かジーニー以外は触れないって…あ、私ジーニーでした」

ルセアは落ちている瓶を拾って栓をつかんで引っ張っると、意外と簡単に抜けた。

すると瓶の口から煙が吹き出してきた。

「な、なにこれ!」

しばらくすると煙が晴れて、そこには真っ黒な服をきた女性が現れた。

「ヤシュムさん!?」

「ヤシュム、助けに来たぞ」

「…ありがとう…でも…ラズリが…」

「ラズリなら大丈夫だ、それよりさっさとこんな所から離れるぞ」

「ねえカマル、似たような瓶がまだあるみたいなんだけど…」

ルセアが指差した先にはまだ青い瓶と緑の瓶があった。

「…それは…あけちゃ…だめ…」

「あ、よく見たらこれバリーゥさんを閉じ込めた瓶です!」

ルセアはヤシュムの話を聞かず青い瓶のふたを開けた。

この時ヤシュムが舌打ちしたのをカマルが聞いていたが、めんどくさかったから聞かなかったことにした。

青い瓶からも煙が吹き出し今度はバリーゥが現れた。

「バリーゥさん無事で良かったです」

「…ありがとうございます…はっそんなことよりアクア様とマリン様は?」

バリーゥは辺りを見回し、ヤシュムの姿を見たとたん明らかにいやそうな表情をした。

「げ…あなたもいたんですか、役立たずのヤシュム様」

「…あなたも…捕まってた…」

バリーゥとヤシュムとの間に火花が飛んでいるように見えた。

「二人とも今はそんなことしてる場合じゃ…」

その時カマルの後ろから煙が吹き出す音が聞こえてきた。

カマルが振り返るとそこには緑色の瓶を持って腰を抜かしているルセアと

巨大な土竜のような魔物の姿が…

(こいつ…ここに住み着いていたという魔物か…どうする…どうあがいても倒せそうにない…)

魔物は辺りの様子を伺っていたかと思うとカマル達を無視して扉を壊して部屋から出て行ってしまった。

その直後

「うわああぁぁぁ!! ふ、封印が魔物の封印が解けて逃げ出してるぞ!!」

外から見張り達の悲鳴や戦う音が聞こえてきた。

「…この混乱を利用して逃げるぞ」

「でもどうやって…」

「ここ…」

ヤシュムが壁を押すと壁が倒れて隠し通路が現れた。

「…なんでそんな仕掛けがあるって分かったんですか?」

「星が…」

「星が教えてくれたんだろ、そんなことよりさっさと脱出するぞ」

カマルは戸惑うルセアの手を引いて隠し通路に入っていき他の者も後に続いた。









ここは隠れ家から離れたところにある砂丘の上。

アイスとラピスが身を隠しながら様子を伺っていた。

「ねえアイス、皆大丈夫かな…?」

「カマルさん達なら大丈夫だろ」

「でも…離れたところで見張ってるだけなんて…」

「だからっておれたちが行っても、魔道具で捕まえられるかも知れないだろ。

ラピスが不安なのは分かるけど今は皆を信じよう」

「…うん」

不安そうなラピスをアイスが励ましていると、その様子を見つめる怪しい老人がいた…

「アイスとラピスか…なるほど…異国の言葉で氷と石か…」

「誰だ!」

アイスは短剣を構えた。老人は構わず前に進んだ。

「この辺りに怪しい気配があったから来てみれば、まさかうちに襲撃を仕掛ける奴らがいたとはな…」

「ふがふが!!」

老人を見た捕まえて縛っておいた男が騒ぎ出した。

「ちっ、何捕まってるんだ、この役立たずが」

老人はどこからか曲刀を取り出して男に向かって一振りした。

すると刀身から水の刃が飛び出して男を切り裂いた。

「な、何やってんだ!?」

「役立たずを処分しただけだ。それよりお前達売れそうだな」

老人はにやついて青色と緑色の小瓶を取り出してアイスとラピスに向けた。

「な、なんだこれ…」

「吸い込まれる」

アイスとラピスは小瓶に吸い込まれてしまった…

「くくく…これでまた商品が増えた…」

老人は小瓶を懐にしまって、今度は水晶玉を取り出してのぞき込んだ。

「さてと…今アジトはどうなっているかな…全員逃げられてるじゃねえか、
 あの役立たずどもめ、あれだけ警戒しとけと言っておいてこれだ」

老人はブツブツ言いながら水晶玉に手をかざした。

「…まあ、逃げた奴らはここに向かっているようだし、ここで回収すればいいか」

老人は水晶玉をしまって、ニヤリと不気味に笑った…



あとがき

ザビエラさんとアイスさん(藤乃蓮花さん)、ヘリヤ・ジアーさんとアル・アーディクさんとジイドさん(戸成さん)、ルセアさんとカマルさん(鶫さん)お借りしました。


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