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ネバー・マイロード号モデルになる濃栗胡麻の♀を探しています
ダブルBのモデルになる、B♂は中山鳩舎が2005/5/29御提供下さいました
2001.4.16/17日分

 白川氏のプロフィールを先に・・白川氏はベルランジェ系を使翔され、日本鳩競翔連盟の専務理事も勤めて、指折り数えられる人物であった。今の川上氏が連合会で圧倒的な強さを誇る以上に、白川ベルランジェ系は、俗に白川系と称され、門外不出の日本一の血統である。氏が長年改良してきた独自の血統でもある、その強さは、1〜10位までをも独占する、束になって帰ってくるスピードバードであり、悪天にも強かった。川上氏も連合会中から目標にされているように、打倒白川系を目指して、競翔を続けてきたのである。競翔、又、心の師とも言える間柄であった。
「お前さんの若い時以上の目をしとる・・鳩に例えて悪いが、動物は目じゃ。澄んだ正直な優しい目じゃ。」
大層白川氏は香月を褒めた。川上氏も頷いた。
偉大な競翔家の所には近年訪れる人も減ったが、川上氏は月に2度、今も訪れている。
 10坪もある広々とした鳩舎には、多くの鳩が群れていた。香月は、その何百羽の中の図抜けた一群を眺めていた。・・その香月が、硬直した・・。
 白川氏、川上氏が鳩舎の前で、微動だにしない香月の後ろに立った。
「どうだね?凄い数だろう・・ここには200羽程のレースで活躍した選手鳩達が居る」
 川上氏が言う。
「あの・・・二引き・・(B♂)・・」
香月が指差した鳩こそ、奇跡の超銘鳩と称される、GCH「白竜号」であった。白川氏と川上氏はお互い目を見合わせた。
「その鳩・・こそ、白竜号だ・・。驚いたな・・ここには200羽以上も鳩が居るのに」
川上氏は流石に驚いていた。香月には全く予備知識も無かった筈だ。白竜号を知ってる人は多くても、この中からその鳩を見つけるのは至難の業だから・・。
「もう一羽・・あの鳩・・」
香月は再び指差した。
「ほおっ・・」
今度は白川氏が声を上げた。
「その、RCPなら、CHネバー・マイロード号じゃ・・」
 白川氏の2大著名鳩を、予備知識も全く無い香月が、苦も無く選び出したのには、流石に2人は驚いた様子だった。
「どうして、2羽が分かったのかな?」
白川氏が聞いた。
「2羽とも、この中では、血統が恐らく違うんではないかと・・・?」
「何と!この大羽数の中で血統の違いを見抜いたのか・・へえ・・」

川上氏が言った。
白川氏が聞く。
「どこが違うと感じたのかな?」
「目です・・。」

白川氏も川上氏も頷いた。
「このB♂こそ、参加2万数千羽と言う、日本一の選りすぐられた優秀な鳩群が参加する1100キロGNレースで、もっとも遠い1200キロ地点にありながら、2年連続快分速で総合優勝した奇跡とも言われる、超銘鳩、白竜号だ、日本鳩界、いや、世界鳩界の至宝とも言えるだろう」
川上氏は上気した顔で言った。
「そして、このRCPも、1000キロGCHレースに6年連続参加、限りない道を歩み続ける鳩と称され、1000キロ以上7年連続連合会優勝、全て総合300位以内入賞の、CH鳩「ネバー・マイロード号」だよ。」
説明を聞きながら、香月は大空にこの2羽が羽ばたく勇姿を想像していた。
「だが・・世間は超銘鳩と言うが、この鳩達の影に隠れた選手鳩が、猛訓練に耐え切れず多く犠牲になってしまった。極度の限界を超えた使翔に耐え切れず、死んでしまった鳩も多い。現役を引退した今も・・このマイロードのように卵も産めなくなった鳩が居る。」
 悲しそうに白川氏は言った。徹底した白川流使翔は猛訓練によって、残った鳩だけを競翔に参加させると言う厳しい少数精鋭主義を貫いていたからだ。だからこそ、圧倒的な強さを誇ったのである。
白竜は、古い日本輸入の血統で、アイザクソン系の純血だ。確かにベルランジェ系とは血統が違う。マイロードはオペル系の真髄、2代目源鳩「ダブルB」の3重近親だ」
白川氏の説明を補足するように川上氏も言った。
「このような、濃い血筋の鳩を選手鳩に使う卓越した手腕があったればこそ・・マイロード号は素晴らしい成績を残したんだよ」
 
熱く語る川上氏の横で、幾分低い声で、白川氏は言った。
「よさんか・・川上君・・今はもう、そんな昔は忘れて好きな鳩とのんびりしてる身だ」
しばらく無言であった、彼等だが・・突如香月はこう言った。
白竜号マイロード号の交配の卵を僕に下さいませんか?」
突然の無謀な提案に、白川氏も川上氏も笑って言った。
「何を言う。この鳩達はもう老鳩。まして、説明を聞いていなかったのか?マイロード号は酷使のせいで卵も産めない♀鳩になってるんだよ」
 川上氏の言葉に、更に説明をするように白川氏が言う、
「君のような洞察力の鋭い子なら、どれか一番をあげても良い。それを種鳩にすれば良い」
 川上氏が白川氏の顔を見た。決して、そんな事は自分であっても言ってくれる事はなかった氏であるからだ。川上氏は白川ベルランジェ系を使翔したい夢を長年持っていたのであった。
この香月の提案は・・まさに彼の今後の人生と、まだ生まれぬ奇跡の鳩に翻弄される出来事になる事を・・この日の誰もが想像もしなかった・・。