2001.4.18日分 「無理にとは言いません。でも・・」 香月の突飛な願いを川上氏も、少ししつこいよ・・と、咎めようとした時だった・。 「分かった・・君ほどの子じゃ・・ただし、2羽とも老鳩じゃ。一回だけなら、気の済むようにやって見るが良かろう」 「えっ・・?白川さん・・いかに香月君が提案しようと、私には」 言いかける川上氏を制するように、白川老は言った。 「ええのじゃ・・だが条件もある」 「なんでしょうか?」 「君の学校が夏休みに入ってからにしなさい」 「えっ・・良いのですね、そしたら!」 香月の目がきらきら光った。満足そうに白川老は頷いた。交互に香月、白川老の顔を眺める川上氏だった。非凡は非凡を知ると言う・・私が、凡庸だから2人の考えを見抜けぬと言うのか・・。 「ねえ、お父さん!もう帰ろっ!」 ドンと遊んでいた香織が戻ってきた。そのドンは嬉しそうに香月にも飛びついた。 「おお、良し、良し」 香月はドンの頭を撫でた。 「へえ・・ドンが白川さんと、香織以外の初対面の子にこんなに愛想が良いのは初めて見たよ」 川上氏は、見ていた。白川氏は笑った・・。 「お前・・どえらい子を連れてきたのお・・」 「えっ・・それは、どう言う・・?」
人と人との出会い、その幾千万、幾億かの出会いの数の中で、一体どれほど自分の人生に心揺るがす、そして揺り動かされる出会いがあろうか。人間と人間、或いは動物でも、その瞬間の中に突き動かされる情感も又ある。この日の香月少年には佐伯氏、白川氏、ムーン号、白竜号、ネバーマイロード号、ドンと言う大きな人生の出会いがあった。 この日以来、香月は毎日、白川宅へ訪れる様になった。学校から戻るとすぐバイクにまたがり香織を乗せて、家に送った後、雨の日も一日も欠かした事が無かった。もう夏休みもすぐになるこの日曜日、川上氏が白川宅を訪れていた。 香月が忙しそうに向こうで何かをやってるのを見ながら、白川老の体調を何気無く気遣っている川上氏だった。 「どうです?香月君はまだ諦めてませんか?」 「いや、いや・・諦めずなんての話では無くなるかも知れん・・ひょっとしたら・・」 嬉しそうに白川老は言う。 「ご冗談を・・あはは」 川上氏は笑った。そこに夏の日差しが感じられる、暑い日であった。 「なんの冗談であるものか・・。あの子が思うようにさせてくれと言うので、黙ってわしも見て居った。だが・・あんなに勝気で♂鳩を寄せ付けなかったネバーが、今は白竜と仲むつまじくなって居るのよ」 「ほお・・でも・・」 「まあ、聞け。ちゃんとした方法を香月君は考えた上での話じゃ。それに感心したのよ」 嬉しそうに目を細める白川氏の顔を眺めながら・・この気難しい所もある白川博士が・・?こんな孫を見るような優しい顔になって・・そう思ってる所へ香月が走ってきた。ドンもじゃれながらついてくる。 「あっ、川上さん、どうも」 頭を下げる香月に、 「一体・・白竜とネバーにどんなマジックを使ったのだね?香月君」 川上氏も感心があって聞いた。 「あ・・その前にこの前の佐伯さんの鳩、選手鳩鳩舎に慣れましたよ。」 「えっ・・?」 川上氏は、一ヶ月足らずで現役競翔鳩がそんなに簡単に鳩舎に慣れるものか・と言う顔をした。 「ふぉふぉふぉふぉ・・その辺の事もこのカップリングと関係あるやも知れんのお、川上君」 愉快そうに白川老が笑った。 「白川のじいちゃん!まだ内緒ですよ!」 香月が言う。 「し・・しらかわの・・じ・・い・ちゃん?」 たった一ヶ月余の間に一体何事が起こったのだろう、小さい頃よりこの家にお邪魔していた香織がそう言うのなら分かるとして・そしてドンのなつきようも・・・?川上氏はますます、首を傾げるばかり・・出会いは、年月をも超越して既にこんな関係さえも築いたというのか・・。 「どう・・言う事なんでしょうか?この関係は・・?」 おどけたように、笑いながら、川上氏は白川老に聞いた。 |