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雪風光風号 DCP♂のモデルを探しています
このページに登場する、日下系の鳩全てのモデルを募集しています DC♂♀問いません
ピネリー号♂ BCWのモデルを探しています
2003.6.12日分

3日後の金曜日だった。香月は、香織と共に正装をして、パーティーに出席していた。香織は、桑原夫人と奥のテーブルに座っている。香月は落ち着かない様子で、各界の著名人達の中で、日下氏を探していた。まだ到着はしていない様子であった。桑原教授の挨拶が済み、香月も香織達のテーブルに戻り、雑談が始まった頃、桑原教授が、白髪頭の口髭を生やした男性を連れてテーブルにやって来た。直立不動で香月は立ち上がる。日下氏であった。雲の上の存在のような競翔界の第一人者が、とうとう香月の前に現れたのだ。
「紹介しよう、香月君。日下君だ」
「初めまして。競翔をする者として、是非お会いしたいと常々思って居りました。お会い出来て光栄です」

緊張して、硬い表情の香月であった。香織が少し微笑みながら、桑原婦人の顔を見ている。
「日下君、この子は香月君と言って、3年ぶりにS工大の現役学生で、2つの博士号を取った青年だ。まだ20歳の若者だよ」
「ほお・・天才学者だね。初めまして。競翔もやってると言う事で、実は・・桑原君より予備知識を貰って調べたよ、君の事。競翔の方でも、非凡な成績だねえ」
「恐れ入ります」

桑原教授が言う。
「実はね、別室を用意してあるんだ。今日は時間を日下君にも取って貰っている。心ゆくまで話し合いたまえ。私は、客人との挨拶が終わったら行くよ。済まないが川上さん、家内の話相手になってやっててくれるかな?」
「はい、勿論です。楽しいんですもの、奥様とお話してると」
「イギリスへ渡って戻って来ない娘より、身近に感じるわ。私も楽しいわ、ほほほ」

香月は一礼をすると、案内される別室へ日下さんと入った。既にテーブルには、食事の用意も出来ていた。
香月の感激は言うまでも無い。日下氏は座るとすぐ、
「そうそう・・君は、あの白川さんの連合会所属だったね。白川系はどうなってるの?現在」
「はい・・川上氏と言う私の師匠でもあり、白川博士の一番弟子でもありましたが、故人の遺志により、白川系を引き継いでおります」
「以前より、強豪鳩舎で名高い人だが、近年の活躍は特筆すべきものがあるね」
「はい」
「君の主流血統は何かな?」
「ノーマンサウスウェル系、勢山系、ブリクー系、ハンセン系、シューマン系です」
「シューマン系と言えば、白川氏が日本へ初めて導入した血統だね」
「はい、ご存知でしたか」
「無名の鳩舎から、導入していきなり若鳩で、西コースの1000キロを優勝した事で当時話題になっているよ」
「その選手鳩2羽が俺の鳩舎に居ます」
「成るほど。」

「ところで、私に対して以前より会いたいと希望してくれてたそうだが、それはどうしてかね?」
「はい、日本鳩界を2分する、日下系に興味を持っていました。血統について調べましたが、是非お会いしてご質問をと思って居りました」
「日下系は門外不出・・その血統を調べたとは私も興味深い、伺おうか」

日下氏は、にこにこしながら香月に聞いた。
「はい。日下系基礎鳩16羽の中で、雪風系源鳩日下0号が居ますが、血の濃い順に日下ハナ号、日下カイ号、日下カマイシ号、日下アシベ号、日下タイジ号、日下パイン号、日下タマ号、日下ツリー号、日下カオル号、日下ゲンジ号、日下キヨシ号、日下メイジ号、日下クニ号、日下マル号、日下カガ号、日下タツミ号の順となります。
「良く調べたねえ・・うむ、その通りだ」
「血統固定方法について、どう言う方向性を持たれてますか?」
「ははは。流石に学者だね、鋭い質問だ。ただ・・血統固定化についての方法は、学者の白川氏のような、科学的な分析に応じたものでは無い」
「はい・・」

香月は、日下氏の次の言葉を待った。
「つまり・・こう言う事だ。私の日下系とは、雪風系最高長距離鳩、雪風光風号を作り出す事にあった。だから、雪風系の血を多く持った主流系の確立にある」
雪風光風号とは、日本で初めて1000キロレース翌日唯一羽帰還優勝をした鳩である。
「日本初の、1000キロ翌日帰還鳩ですね」
「ああ。私はこの手で
雪風光風号を作り出したかったのだよ」
「その最も理想に近い鳩が、
日下0号ですね?」
「その通り。私が理想としたのは体型にある。それは競翔鳩と言うテーマを日本の地理風土にマッチさせ、小型化を目指し、徹底した管理主義を貫いた白川氏とは対照的でもある。私は体型重視、大型化をむしろ推進してきたのだよ」
「はい・・日下系は長年競翔鳩として使翔されている、息の長い系統ですね」
「では・・君が興味を持ったのは、日下系のどこにあるか、質問したいのだが」
「全レース型の息の長い競翔鳩であり、特に、超長距離に成績を上げております」
「成るほど・・君の目指すものは長距離系にあるのだね?」
「日下系の真髄をそこに見ます。叉、先ほど言われたような体型・・特に立ち姿の美しい鳩群です」
「君は使翔して見たいと思っているのかね?」
「いえ・・使翔と言うより、私個人の香月系を作る上での参考にしたいと思いました。勿論導入したいと思う気持ちは吝かではありませんが、それは望んで可能かを考えるより前に、このような親子近親、兄弟近親、従兄弟近親と血の濃い交配を繰り返しながら、どうしてこんな優秀な成績を残せたのか。そちらの興味が勝っておりました」

「その近親交配を、君はどう見てる?」
次第に日下氏の視線が鋭くなって行く。香月は確信を徐々について行った・・。
「血の行き詰まり・・を見ました・・が、それでもこのような圧倒的な成績を残しております。それは、日下系と言う血液の力強さにあると思います。生命力の強さと言うか」
「数々の著名鳩舎と出会い、賞賛の言葉ばかり聞いて来たが、君の視点は確信をついている言葉だ・・恐ろしい洞察力と言わざるを得ないな、君は・・」

そこへ桑原教授が入室して来た。
「盛り上がっているようだね」
「いやあ・・天才的な学者と聞いては居たが、競翔家としても天才的な子だねえ・・鋭い視点だ」
「はは・・門下生の中でも、視点の鋭さは図抜けている。どうだ?確信をつかれたか?」

大きな溜息をつきながら、日下氏は言った。
「私が競翔を中断したのは、確かに仕事も多忙だが、実は既に日下系は完成されて、これ以上望めないと思ったからだ。近年の高速レースの中では、日下系は遠く白川系に及ばないし、既に改良の余地は無いからだ。歩留まり率は既に1割と言う有様なのだ」
「つくづく・・血統と言うのは奥が深いですね」

香月も答えた。
「君がもし、日下系を導入すると仮定して、君自身は、どう作使翔するのか?」
「私の鳩舎には勢山系の
すみれ号の孫(実在)が居ます。ブリクー系のエルパソ号の孫(実在)も居ます。ハンセン系のピネリー号孫、それにシューマン系のマミー号、リリー号が居ます。日下系をこれらの鳩の異血導入として、交配します」
「わははは。日下系を異血として使うと言うのか・・恐れ入った」
「失礼は重々お詫び致します」
「いや、いや、何の。君の考えを更に聞きたいよ」

桑原教授はにこにこしながら、ワイングラスを傾けていた。
「日下系をこれらの鳩群の中の厳選した選手鳩・・仮にAからEとして組み合わせ、それらの鳩を一切競翔に参加せず、一次基礎鳩群を作ります@。2歳になってから、これらの鳩群に今他鳩舎で使翔中ですが、純ステッケルボード系の選手鳩群及び、現当鳩舎の現役選手鳩C群と交配させますA。2歳になると日下系と配合B。このBグループを選手鳩として使う3年計画で香月系第二次基礎鳩群を作る計画です」
「ほほう・・白川氏の「血の概論」を更に進化させようと言う、君の研究テーマ、「新血液概論」の道筋だね?それは」

桑原教授が言う。
「はい・・一生のテーマとしたいです」
「むう・・それは日下系にとっては埋没するものでは無く、更に進化を遂げられる道であるとも言える。ステッケルボード系と言えば近年の飛び筋・・それは導入が非常に困難だと聞いている。どう言うルートで入手したのかね?」
「日下部ペットショップの日下部氏が、直接現鳩舎に行って、導入しました。」
「今一度聞く。これらの鳩群の交配によって、君の求める長距離鳩が完成すると思うのか?」
「分かりません。ただ・・血の相性があって、ステッケルボード×シューマン×ブリクー×ハンセン系の試し腹として3交配の直子が、日下部氏が使翔し、昨秋のレースで、100から500キロレースを、強豪風巻連合会参加レースで全部優勝しました。相性は大変良いと思いました。更に、日下系ではありませんが、
雪風光風号孫鳩と、ハンセン系、勢山系との交配は、栃木の花園鳩舎が活躍しておりますので、問題無いかなと思っております」
「それも調査済みか・・。では、何故叉日下系に戻し交配をするのだね?」
「日下系が、名実共に日本を代表する系統だからです。その体型美、生命力。それを求める事は、競翔鳩にとって確実な進化だと思うからです。自分の思い上がりですが、日本固有の競翔鳩を作りたいのです」
「良く分かった・・私は君に日下系の未来を託したい。」
「ええっ!」

香月は思っても見なかった言葉を日下氏から頂いた。

「本当ですか!身に余る光栄です。」