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日下系全てのモデルを探しています このページでは、日下ピロ号 DC♂のモデルを募集しています
2003.6.15日分

「ただし・・私が日下系を譲る条件が一つある」
「・・何でしょうか」
「私の最後の競翔となった、GNレースの
日下ピロ号の仔鳩を、是非レースで使って欲しい」
日下ピロ号と言えばCH総合27位、GN総合43位となった現日下系最高競翔鳩ですよね。」
「私の夢を果たせるとしたら、日下系と白川系を同一連合会の中で・・それが自分で叶わぬ夢なら、君に託したいと言うのも本音だ」
「それ程までに・・感動して涙が出ます」

香月の目頭が熱くなった。故白川氏もきっと同じ事を望んだ筈だからだ。
「分かりました。その前に私の事情もお話しておきます」
「うむ」
「私の鳩舎には実は、
白竜号ネバー号の直仔が居ます」
「何!何と!」

驚く日下氏の顔を見ながら、桑原教授は目をくりくりさせた。何をこんなに驚く事があるのか・・そんな顔であった。
「私が初めて白川さんとお会いしたその日に、両鳩の交配の卵を頂きたいとお願いしました」
「むう・・両鳩は既に、死亡している筈。その仔鳩の事を詳しく聞きたい」
「はい・・仔鳩はこの世で一羽限りです。何故なら
白竜号は孤高で、激しい気性の鳩、白川氏は白川系とは異質である、アイザクソン系の白竜号の仔を得る考えは最初から無かったのと、自然交配でも無性卵しか得られてません。叉、ネバー号は♀鳩でありながら、1000キロ1回、1100キロ7回も飛翔した鳩、身体は疲弊し、叉雄鳩を寄せ付けない鳩でした。既に出会った時には13歳を過ぎておりました」
「では?何故?」
「無理を白川さんにお願いし、ある方法によって唯一羽得る事が出来ました」

日下氏は香月の顔をじっと見た。・・澄んだ瞳の若者だ・・にこりとして、
「君の事だ・・。我々の考えが及ばぬ方法を考えたのであろう、敢えて理由は聞くまい。では・・何故その仔鳩を主体とした血統を作らないのかね?」
紫竜号・・と名付けてますが、満4歳になりましたが、どの鳩も寄せ付けません。」
「ひょっとして・・君はレースに使っているのかね?」
「はい」
「むう・・してその成績は?」
「初レース100キロ文部杯で、日本記録全国総合優勝しました。一昨年のGP700キロレースで総合8位、昨年のGCを当日唯一羽帰りで、総合9位です」
「稀有の銘鳩の仔鳩・・その遺伝子も稀代のものだねえ」
紫竜号は今から花咲くであろう、資質を持っています」
「まだ競翔に参加させると言うのかね?では・・君がこんな重大な事を私に披露するその訳は?」
「私自身・・
紫竜号を使翔させる事は重い十字架を背負っているようなものです。ですから、自分が出来る最大限の競翔家としての使命をこの鳩に託したいのです」
「それは、この
紫竜号を中心とした、競翔をすると言う意味かね?」
「今年は記録鳩のみの参加、来年の春は
紫竜号一羽だけの参加にしようと思っていました」
「それなら、先ほどの申し出は取り消そう・・」
「いえ・・逆にお願いします。日下系が、俺の鳩舎に導入できるなんて想像すらしてませんでしたので。しかし、日下系を使翔すると言う事は、俺の香月系を目指す上での大きな指標となる筈です」

「では・・君が血統に加えている日下系をどう入手する予定だったのかな?」
「はい、栃木の花園鳩舎の
雪風光風号直系群を導入して、雪風系の血を引く基礎鳩を得るつもりでしたし、既に打診して良い感触を得ています」
「つまり・・私がやった手法を取ろうとしたか・・?」
「はい・・8分の6雪風系を作る3年計画とはその事です」
「ははは・・君は完璧な人だ。感服したよ」

桑原教授も加わって一緒に笑った。
「ところで、私も提案がある」
「はい」
「ステッケルボード系を
日下ピロ号に交配した直仔を、競翔に出して欲しいのだ」
「ステッケルボード系を導入すると言われるんですか?」
「ああ。私のイタリアの友人が、ステッケルボード系を導入して、サンセバスチャンNで入賞している。そのメスのチャンピオンを一年間借りようと思う」
「・・言葉がありません」

余りの日下氏の申し出に香月は戸惑った。
「作出可能な仔鳩は12羽位だろうが、君が競翔で使って見て、それから種鳩へ何羽か残ったら回せば良い。君のような競翔界にとって、至宝のような人材が競翔を中断するのは誠に惜しい。それならば君の言う血統作りは、短縮化出きる筈だよ」
「これ以上無いお言葉を頂きました。感動で言葉が出ません」

この時期、香月を取り巻く友人、恩師、競翔家・・全ての人脈が出来たと言って過言では無い。日本鳩界の歴史をも動かせるかも知れない大きな青年だと、周囲も認識したのだ。香月は大きなステップの入り口に何かに導かれるようにこの時立っていた・・。