白い雲トップへ  次へ   参考資料   お願い  登場鳩

2003.6.20日分

「何だ・・騒々しいな、今日は」
香月は鳩舎内のざわめきを感じ取った。
一羽、一羽丹念に触診しながら、競翔鳩の状態を見て行く香月だった。最初に手に抱いたのは、スプリント号だった。
「うん・・良い感じだな。今年はGCHに参加するつもりだ。頼むぞ、スプリント号
香月系の代表基礎鳩の中に、スプリント号が入っている。期待の程は一番だ・・。次に手に抱いたのは、カズ・エース号であった。
「良いね、カズ・エース号。ライバルもどんどん増えて、トップを取るのは難しくなっているが、優勝は血統だと思ってるよ。今期も頑張ってくれよな」
次々と、鳩に語りかけながら触診する香月だったが、突然鳩舎外から声がした。
「よお!」
振り向くと、芳川であった。
「浩ちゃん!」
東京で、就職していた隣の家の幼馴染、芳川であった。急いで鳩舎外に出る香月。
どうしたの?急に」
「ああ。東京の会社に就職してたんだけどさ。辞めて戻って来た」
「ええっ?!」
「ま、色々あってさ。叉その話はするけど、こっちで、もう就職決まったんだ。」
「・・そうなの。でも、俺は嬉しいけどね」
「はは。実は俺も、競翔鳩に興味が凄く沸いててさ。一男と一緒にやりたいなあ」
「それは、勿論歓迎するよ、浩ちゃんが俺の鳩狂いの火付け役だからさ」
「叉・・凄い鳩舎の大改造、大構築やってるよなあ。ここまで昇ってるとは思わなかったよ。あはは」
「ははは・・家の中で話しようか?浩ちゃん」

芳川は、東京の大手電気メーカーに勤めていたが、海外転勤を断って、辞めたらしい。芳川の家は2人姉弟で、姉がもう嫁いでいるが、彼は長男であり、家は大地主でもある。会社を辞めた理由は家の都合が多分にあるらしい。彼の親父のコネもあって、役場の臨時職員として勤める事になったそうなのだ。香月に、叉大きな協力者が戻って来た。4日後にアメリカ出張がある香月に、こんな出来事があったのだった。その間、鳩舎の管理を芳川が受け持つ事となり、やがて彼自身も香月鳩舎の一員として、大きな力となって行く・・。
香月のアメリカ講演4日前、川上氏宅での会話・・香織は既に、香月が出発するこの2日前に旅立っていた。
「香織、橋本さんと女性2人だけで、大丈夫かい?」
川上氏は、これまで、海外旅行を一度もした事が無い香織に心配そうに言った。
「大丈夫よ、ちゃんと旅行会社にチケット貰ってるし、日程もちゃんと渡してあるでしょ?お父さんに」
「まあ・・そうなんだがね・・」

母親が笑いながら、
「大丈夫よ、もう子供じゃないんですから」
「そうよ、3日目には、香月君もアメリカに行くし、カリフォルニアで会うようにもなってるわ」

香織が言う。
「しかし、香月君は大事な講演があるだろう。香織と違って遊びに行く訳ではないからね」
「分かってるわよ。お父さん」

そんな会話をしながら、川上宅でも、既に時は流れて行った。急速に動きつつある周囲の中で、香月にとっても、アメリカ講演は、又新たな出会いをも、もたらす事になる。ようやく周囲は厳しい冬から、ほんの少し春の一陣の風を感じるような3月の事であった。その間、春の競翔は始まっていたが、香月は100キロ、200キロと不参加。だが、香月は芳川と言う協力者を得て、既に春レースは始まっていたのであった。