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2003.6.22日分

バリー・マクガイア氏の招待を受けて、驚いた事が2つあった。金髪美女のマクガイア氏の一人娘、メリー・マクガイアさんが、ハーバード大学に在籍中の才媛で、日本史に詳しく、日本語が堪能と言う事。そして、バリー・マクガイア氏が、小さい鳩舎だが競翔鳩を飼育していると言う事だった。この出会いは、より親密に香月達の訪問を歓迎するような一夜となった。
「おお!グレートだわ。香月博士。その年で、2つの博士号なんて」
「貴女の日本語の発音と、日本史に堪能なのにも感服しますよ」

賑やかな、一夜となって、雑談の最中にバリー・マクガイア氏が、一羽の鳩を手にして、香月の前に。
「君が競翔家でもあると言う事を聞いたんだが、この鳩をどう思うかね?」
その鳩は、栗二引の綺麗な鳩であった。しばらく香月は触診していたが・・
「・・ミューゲですね、病気に掛かっていますよ」
「え・・?」

予想外の答えに、マクガイア氏は驚いた。この鳩をどう思うかと、自信を抱いて来た鳩に対する答えだったからだ。
「重症には到ってませんが、マクガイア博士は農園をお持ちですか?」
「あ・・ああ。麦畑を3ヘクタール持っているが」
「それが原因でしょうね。ただちにこの鳩を隔離して、クレゾール等で鳩舎内を清掃して、飲料水には少量のヨードチンキを入れて下さい。病鳩には、ルゴールを50から100倍に薄めて、あげて下さい。鳩舎の餌には、玄米、牛乳に浸したパンなどをしばらく与えて、麦等は、極力減らして下さい」

次々と指摘する香月の言葉に、マクガイア氏は戸惑いながらも、鳩舎に向かった。後から香月が。呆気に取られたような、掛川とメリーがその場に居た。鳩舎内の12羽の鳩を全て触診した香月は、
「もう一羽居ました。幸いまだ発症してませんが、発症したら助かりません。治療を急ぎます。」
慌てて、マクガイア氏は、放鳩籠に2羽を入れて、鳩舎内を掃除し始めた。楽しい筈のパーティーが、一変して、大騒動になったのだった。ようやく、落ち着いたのは、夜の10時前。流石にマクガイア氏も疲れた表情で、ソファーに座り込んだ。改めて、香月の迅速な処理と、動物医学的判断の鋭さに感心した・・と言うより、この高名な教授にして、香月の医者としてのレベルの高さを非常に驚いた様子。それは、メリーにとっても感激するような、出来事であった。
「いやあ・・。私には全く気がつかない異変であった。どうして、病気に気づいたのか教えてくれないかね?」
「いえ・・このお宅にお邪魔する前に、広大な麦畑を見ました。ひょっとして、この辺りで、取れる麦を多食させているのでは?鳩を飼われていると聞き及んだ時に、推理致しました。更に鳩舎の構造と、宅地の環境側面、又湿潤な土地柄を見て、まず鳩を見る時に、病気を疑って見ていました。13羽の鳩舎の中で、2羽感染してましたが、その一羽を偶然にも博士が抱いて来て無かったら、発見は困難であったと思います。感染して症状が出れば、まず助かりません、空気感染もする恐ろしい病気ですから」
「あ・・ああ。何て事だ。動物学者たる私がそんな事も分かって無かったなんて」
「いえ、見るからに健康そうな鳩達で、血統的にも優れていると思います。更に、鳩舎内の殆どが若鳩ですから、感染し易い環境が出来たようです。」
「君にね、自慢の鳩を見せて驚かそうと思った、茶目っ気が、自分が驚かされたよ」

メリーが、言う。
「素晴らしいわ。香月博士。その薀蓄は一体どうやって?」
「高校生の時に白川博士と言う、亡くなられましたが、短い時間でしたけど、色々鳩の病気については教えて貰いました」
「おお!白川博士?あの博士と交流があったのかい?」

マクガイア氏は、驚いたように言った。
「はい。」
「そうなのか。素晴らしい博士だった。私が尊敬している日本の学者だ。」
「俺の目標でもあります」

バリー・マクガイア氏、メリー・マクガイア氏の交流はこうして出来たのであった。その時掛川は緊張の糸が解けて、用意されたベットで、深い眠りについていたと言う。
この縁で、深く香月に心を揺り動かされた、メリー・マクガイアは、香月の残り5日間現地案内者として、強引に同行する事となる。それは香織を巻き込んだ一大騒動として。だが・・紫竜号物語を綴る今、これらの出来事は省略したいと思っています。