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2002年5月25日分

 夕方6時半にタラップを閉めたその時刻に、川上氏から香月に電話が入った。
「やあ、香月君。今日は早退したんだって?あはは。やっぱり君は居ても立っても居られなかったんだね。今日のレースは予想通り、荒れてるようだ。私は今タラップを閉めた所なんだが、君も閉めたんだろうう?やっと私の所も先刻20羽目が戻って来たところだ」
「20羽ですか?・・少し悪いですね」
「君の所は?」
「7羽です」
「ほお・・!7羽帰舎・・。じゃ、連合会でも君が3人目だね。5割帰舎したのは」
「そんなに・・皆さん悪いんですか・・・?」
「ああ、非常に悪いよ。当日帰還したのは、悪天の中でも分速1000メートル以上出さなければ、戻って来れないって事だから、成鳩にとっては、きついレースのようだ。その分若鳩は、そこそこの分速で戻ってるようだからね」

川上氏はいつもなら香月の帰舎タイムを聞くのに、高橋会長のゴードン系の話やら、帰舎数やら、雑談が先であった。
「あの・・それで、打刻は・・・?」
「ああ・・。一番手が、3時半位かな?その後4時前後に5羽。後は、ばらばらで、最後が6時半だったよ。予想よりは、帰舎タイムが早かったんで驚いてるんだが、風巻連合会の小川さんの所が2時45分らしい。今の所飛びぬけて速いのはその鳩舎だ。・・おっと、ところで?君は?」

成る程・・川上氏は自分の所が上位に入賞は無理だとの判断で、気がタイムに向いてなかったのだな。競翔家らしい川上氏の一面も見て、香月も微笑んだ。
「はい・・僕の所は、少し意外なタイムだったんで、時計を開けて見ないと分からないんですが、2羽同時に帰舎したタイムは、3時5分頃で、もう1羽が5分ほど遅れてタイムしました」
「ええっ!3時5分?それは早いよ!それじゃ、風巻連合会より早いんじゃないか?今日は開函が延期になって、明日の晩9時に変更になったから、今から、問い合わせして見るよ。そうか・・君が早退したのは、そう言う読みがあった訳だ。秘密訓練かな・・?」
川上氏の言葉に自分の内心を看破されて、香月は少し気恥ずかしさが湧いて来た。だが、3万数千羽と言う参加数・・敢えて入賞だと言う言葉は、2人の口からは出なかった。
その香月に電話が又入ったのは、父、母に少し小言を言われながら食事を済ませた後で、風呂から出た8時頃であった。電話は佐野であった。佐野も昨年は1000キロに2羽記録し、7位に入賞させた。力をつけてきた若手である。彼も16羽GPに参加させていた。
「やあ、こんばんわ!。今、色々確認をとって、ある程度把握出来たんだよ」
「いつも参考になりますよ、佐野さん」

香月は、佐野の情報の的確さにいつも感謝している。
「言うよ。連合会の当日帰舎の数は、200羽を少し切っている。当日2桁帰舎させたのは、水谷さん、川上さん、高橋会長の3人しか居ない」
「・・そんなに?それで、佐野さんは?」
「僕?僕は6羽記録したよ。良い方なんだよね。君も7羽で、良い帰還だってね。それより、君のタイムは連合会の中でも特に早いよ!僕の計算で、連合会で、1300メートル前後の分速は20羽位だね」
「それで、その鳩舎は?」
「ああ、君が3羽。川上さんが9羽、会長が3羽、水谷さんが2羽、磯川さんが1羽、北村さんが1羽、渡辺さんが1羽、それに僕が1羽だよ」
「21羽ですか?」
「うん。でも、その中でも君の2羽と川上さんの1羽、磯川さんの1羽がかなり早いけど、その又中でも君の2羽は特に早いんだよ」

「でも、大羽数のレースですからね。まだまだ他の連合会でも早い鳩達が居るでしょう」
「それもね、聞ける範囲で聞いて見たよ。僕の情報では、風巻連合会の小川鳩舎、中川連合会の前川鳩舎が君に近い。情報的には、その位だけど、毎年優勝鳩を出してるのはこの2つの連合会だからね。君の上位入賞は充分考えられるよ」
佐野らしい情報収集力に感心しながら、香月は別の返事を返した。
「でも・・僕としては、明日何羽帰って来るのか、その方が心配なんですよね・・」
「君らしい・・ね。でも、磯川さんだって、2羽きりなんだよ。川上さんも同じ事言ってたけど、師弟の関係って、帰舎率も思いも同じなんだね。あ、余談だけど、磯川さんは一晩中鳩舎をライトアップしとくらしいね。タラップも閉めないまま」
「それこそ、彼・・らしいですね。それじゃあハンドラーさんは今晩は徹夜ですよね。あ・・浦部さんは?」
「あはは、磯川さんらしいよね。あ、その浦ちゃんだけど、700キロが悪天と読んでいて、全鳩600キロでストックさせているらしいよ」
「やっぱり・・こちらも彼らしいですね」
「やっぱり・・って?」