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2002年12月5日分

今年の春には、成長著しい若手の浦部、佐野も居る。長距離には、注目される2人であった。その2人が、郡上氏の話に頷きながら聞き入って居た。言葉の随所に流石に一流の競翔家と思わせる部分が感じられ、特に今年の東日本GCHは本命二重丸の強い人であった。この日の会長宅へ集まっている20数名は、いずれも今年のレースを左右する強豪揃いである。各々、黙っては居られず、次から次へと会話の華が咲いて行く。その中でも、やはり特に磯川の言葉は、昨年度実績の自信漲る力強いものが感じられた。
「そりゃね、浦部君。君は確かに昨年度、連合会でGNを制したよ。でも、それは、予想以上に700キロのGPが悪天だったと言う事もあるだろう。特に、前年度までの記録鳩は、ほとんどGPに投入されていたから、思わぬ悪天で、調整が万全では無かったとも言える。悪天を予想して、600キロでストックした君の読みは当たったものの、手腕だけでは常勝ってのは難しいんじゃないか?要はどんな条件であれ、常にトップ集団を形成する血統が、重要な訳だし、今年は俺も昨年度のCH鳩3羽を投入するつもりだ。そこで証明される筈だよ」
そこへ叉高橋会長が口を挟む。
「おいおい。今度は、1200キロのGNかい?そりゃ、幾等ペパーマン系が優秀だと言っても昨年度は、やっと連合会でも翌日5羽きりだ。それも分速800メートルそこそこ。GCHとGNは距離こそ100キロと言っても、その難しさはわしも長年やって来て骨身に沁みて知っている。むしろペパーマン系を投入するのなら、1100キロのGCHだと見るが・・わしはそれが順当と思うが、どうだ?」
磯川は負けていない。
「いえ!俺は3羽投入するって決めてますから。それに後日帰りも居ますから、GCHにはそちらを投入します。昨年度の最優秀鳩舎賞をもう一歩で逃したのも、最終レースでのポイントが取れなかったからですから」
会長はおどけたような仕草をして、太鼓腹をさすっている。
確かに・・昨年度の快進撃は、今年も台風の目になる所と、衆目の一致した見方ではあるが、相変わらずの強気一辺倒の発言は、鳩界の大先輩を前にして失礼・・香月は少し眉を曇らせた。浦部は一言も言い返さなかった。磯川と対照的なその性格は内に秘めた強さがある。そして、その手腕と読みは、連合会でも高く評される若手に成長していた。そこへ、香月には特別なライバル心を向けている磯川が、話を切り替えて来た。
「ところで?香月君。やはり春には粒を揃えて来たね。昨秋見せて貰った鳩とは段違いに仕上がっていたよ。中でも栗系統の鳩は、特に見逃せなかった。放鳩車に乗せる前に全鳩触らせて貰ったけど、良い出来だよね。でも、1羽その中で、栗系の少し変わった羽色の鳩が居たけど、恐ろしく筋肉が柔らかかった・・その鳩だけ血統が違うね。印象深かったよ」
川上氏より香月に目配せがあった。白竜ネバーの仔鳩がその鳩だとは、言える筈も無かった・・。
「ああ・・栗系統の鳩ですか?あれは白川さんの所から来たシューマン系と、僕の記録鳩を掛けた仔鳩群ですよ」
磯川より早く、先ほどから磯川のやりとりをにこにこしながら聞いていた郡上氏が声を上げた・。
「ほお!シューマン系?じゃあ、白川さんの最終レースとなったあの西コース1000キロの優勝鳩の?」
「ええ・・良くご存知ですね」

「私もあの西コースに挑戦したんだが、とにかく難しいレースでね。若鳩で挑戦するのは、早熟で、且つスピードの出る鳩じゃなきゃ、最終の1000キロまでは持たない。かと言って、専門に西コースを攻めるには、成鳩では更に困難だ。台風の季節だし、余程の血統じゃなきゃ、西コースを制する事は出来ない。それで、注目してたんだよ。恐らく日本でシューマン系を使翔したのは白川氏だけだろうね」
「・・じゃ、その記録鳩を香月君が持ってる訳だ。なるほど・・。今年もはやり君が強敵になりそうだ」
会長が笑い飛ばした。
「おいおい、まるで、香月君しか眼中にないようだな。川上君やわしや、何と言っても、郡上氏まで蹴飛ばされて無視されたんじゃ適わんぞ。わはははは」
流石の磯川も感ずいて、照れ笑いを浮かべた。郡上氏も笑みを浮かべて、
「いやあ・・東神原連合会には良い若手が拓さん居るねえ。磯川君や香月君の名前は知っていたが、成る程、成る程。こう言う若手が居るんじゃ、ベテランとて嫌でも燃え上がらざるを得ませんな」
川上氏が続けた。
「全くです。私も最近ではうかうかとして居られません。とにかく磯川君も香月君も学生と言っても、全レースに優・入賞を果たしてくる強豪中の強豪ですからね。それに今年の他の若手にしても分かりませんよ。中・長距離あたりには私も重大なポイントを絞ってます」
川上氏の言葉には、必ず裏づけがある。常に狙った過去のレースにおいても、優勝を逃した事が無い程。それだけ自信と、実績のある競翔鳩(レーサー)が居ると言う事なのだ。ここまで川上氏がはっきり言う言葉に秘める思いは並々ならぬ事であろう。郡上氏さえも、一瞬ピリっとしたものを顔に見せた・・。