白い雲トップへ  次へ   参考資料   お願い  登場鳩

2002年12月12日分

叉、香月はこうも言った。
「磯川さんが400キロレースで敗退するのは、川上さんがご存知では無かったでしょうか?」
「ふ・ふふ。何を言う。競翔は未知の世界。見えないレースが何故私に見えると言うのだ?君にはそれが見えるとでも言うのかい?」

川上氏は笑った。
「予測は出来ていたと思うのです。それは、僕は白川系の真価が中距離から長距離にあると見てるのと同じです」
「私の使翔する白川ベルランジェ系を、君が研究してたと言う事かな?その予測は、正直ドキリとする指摘でもある」
川上氏は驚いた顔だった。
「いえ・・とんでも無いですが、僕は今までのデータを自分なりに判断して言ってるだけです。それは、川上さんが、新年の会で仰られていた事と総合して合致します」
「聞き逃さないねえ・・本当に君には驚かされる」
「束になって戻ってくるって言う白川系を、短距離ではまだまだ体力を温存させておいて、競翔が続く中盤から真価が発揮するように調整を持って来るのでは・・と思っていました。それに対して、僕が使翔するシューマン系は、若鳩と言う事もありますが、筋肉が少し硬いですから、スピードレースが続けば疲労が蓄積されます。だからこそ、磯川さんの、ペパーマン系もそうすべきだと思ったのです。つくづく、こうして見ると、白川系は、オールマイティな競翔鳩ですよね。その疲労回復力が非常に早いようですから・・」

「君って子は・・私以上に白川系を知っているね・・その通りだ。だからこそ、レース前訓練は多目にして、その他は、強制舎外訓練を止めて、自由舎外訓練を今年は実行した。疲れを残してる鳩はジャンプ方式にしてる。君は私の参加鳩数からそう見たんだね?」
「はい」

香月には、その人の言動や、蓄積された現データを正確に把握出来る機敏な頭脳と、その「天性」の洞察力がある。川上氏は、自分の持てる全てを傾注しなければ、今後この若者にはもう競翔では勝てないだろう・・。この時、本当にそう感じた。
集合場所に着いた香月と川上氏であったが、磯川は無言であった。既に、情報は届いているようで、この場にはベテラン競翔家の顔が多かった。今回は集計も早かったようで、すぐ成績が発表されると、磯川は口を真一文字に結んで、この場から出て行った。磯川の成績はそれほど悪い訳ではない、13、16、19位であった。ペパーマン系を使翔して初めて、10位内入賞を逃したのはこの時ではあったが。
香月が優勝から、5位までを独占。しかし、その後を川上氏が、6位から12位まで・その後も、14、15、17位と、打刻したした鳩の全てが入賞した。このレース、師弟の2人がほぼ独占の形だった。が、川上氏はこの400キロレースには、最初からまだ比重を置いていないと香月は見ている。しかしそれで居て、10羽一団で帰って来る白川系の凄まじい血の底力をひしひしと感じていた。
 続く500キロレースでは、高橋会長が優勝、川上氏が2、3、4位。渡辺鳩舎が5位、桐生鳩舎が7位、郡上鳩舎、7、8、9位、柳鳩舎10位であった。香月はこのレースには主力を参加させて居ない。昨秋の2次鳩と、後日帰りの鳩12羽を参加させていたが、12羽中2羽記録と散々な成績だった。3シーズン目を迎える源鳩同士交配の子鳩はほぼ全滅状態。生まれ持った資質だけは、管理だけでは如何ともし難かった。それに比して、シューマン交配の直仔群は、2羽落としただけで、順調過ぎる程の成績だ。現血統との交配が成功したと言える。シューマン系の血の濃さが結果を出しているとも言えるが、その親鳩の1羽である、グランプリ号は、300キロレースで3位入賞と、絶好調を維持しており、記録鳩群は1羽も落伍していなかった。
そして、叉全国杯の600キロ衆議院議長杯。このレースは、過去に白川氏が全国優勝を達成している放鳩地で、かなりの好天に恵まれれば分速の出るレースであった。500キロに比重を置いた鳩舎、600キロに比重を置いた鳩舎。思いはまちまちであろうが、今春の香月はこの600キロレースにポイントを置いていた。結果が良ければ、400キロからジャンプしてきた鳩は、GP700キロまで、2週間の期間があって、十分に参加可能。調整も出来る。ちなみに、この500キロレースでも磯川は、16位に入賞させただけで、今までの冴えは見られなかった。佐野の情報によると、帰舎は常にトップ集団だが、入舎が悪いそうで、それが原因らしかった。それをどう克服するか・・香月はそれをとっくに実行していた。仮想自鳩舎のペパーマン系に比する、シューマン系交配鳩達で・・。磯川はきっと今、歯噛みしている事であろう・・香月はそう思った。もう一つ原因がある、今春のレースが、100キロから300キロまで、高分速レースだった事だ。体力を相当消耗してるに違いない。高分速のレースが続けば続く程、帰巣本能に負けて、体力がついて行かない。だからこそ、香月の疲労回復策があった。鳩の能力が互角ならば、トレーナーである、競翔家の手腕が、差となっ
出てくる。